どっちがいいの「お前さ、どっちがいいの?」
夕飯のラーメンを食べての帰り道。
スーツに跳んだラーメンの汁の行方をそれとなく探していた茂夫は、投げかけられた唐突な質問に戸惑って霊幻を見た。
「どっちって、何のことですか?」
「抱くのと、抱かれるの。付き合いたいんだろ、俺と」
「急に何言い出すんだアンタ………大体、まだ告白の返事、貰ってないですよ」
茂夫がそう返すと、霊幻はふい、と顔を背けた。何か言いたげな後頭部が、歩く度に少し揺れる。
(……………かわいいな)
そんなことを反射的に考えながら、はて、と茂夫は立ち止まる。
(師匠はなんで、急にそんなこと聞いたのかな)
頼もしくて、真っ直ぐで、それでいてどこか寂しげな背中が遠ざかっていく。
茂夫の想い人は、己の感情を大切にするのが苦手なふしがあった。告白の返事がもらえないのも、それと関係があるのだろう。
きっと今も、己の感情を飲み込んでいて、心を押し殺している。その感情の正体を察して、茂夫の胸は沸き立つと共に痛んだ。
「やっぱり、僕のことが好きなんじゃないか」
ポツリと呟いた言葉は届かない。茂夫を想って身を引こうとしているのであろう、寂しげな背中が遠ざかる。
「師匠────────!!」
堪らず、走り出した。
追いつくのに時間は掛からなくて、すぐさま腕を掴んで、引き寄せる。腕の中で、霊幻が息を震わせた気がした。
「何だよ急に」
「好きです、師匠。僕の為を想うなら、僕から離れて行ったりしないで」
硬いままの身体をしっかり抱きしめる。
「たとえあんたが僕を拒絶したって、僕はずっと、あんたを好きなままだよ。だから、もう、諦めてください」
「……………趣味悪いぞ、お前」
「どうとでも言ってください。あと師匠、師匠が良ければ、僕はあんたを抱きたいな」