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    カナト

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    カナト

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    e 抜けるような快晴。本日は晴天なり。
     気候は穏やかで、眼下の湖(うみ)も凪いでいる。
     アストルティアの水は透明で澄んでいて、赤い魔界のものとは随分と違う。
     あの広大な湖の底には遺跡が沈んでおり、以前までは赤い光を放っていたが、それでも根本的に大幅に違うのだ。
     吹き抜ける風も穏やかで、絶好の昼寝日和である。
    「ん?」
     さてこのまま微睡みを待つかといったところで、普段の景色に違和感を覚えた。
     現在地はアスフェルド学園、前庭に造られた東屋の緑の屋根の上である。
     校舎自体が高台にあり、更に屋根の上なので遠くまでを見渡すことが出来る。特に下の方に位置する湖はよく見えた。
     さて、現在は実は授業中である。サボってでもいない限り、生徒というのは見かけないはずだ。たまに職員がうろついているだけである。
     魔族である為、五感それぞれは人間よりもいいので、じっと目を凝らせば、波打ち際で水を蹴り上げている男子生徒の姿が。
     いや子どもか。
     思わずツッコミを入れたくなるほどに無邪気に水遊びをしている。
     ご丁寧に靴も靴下も脱いで、ズボンの裾を捲りあげてはしゃいでいた。
     流石に水着になって湖で泳ぐには気温も水温も低いからだろう。
     しっかりとした足取りで波打ち際を歩き、走り、足踏みし、思い出したかのように水を蹴り上げる。実に不思議な生き物だ。
     そんな子どもっぽいことをしているのは、一体どこのどいつだろう。興味本位で屋根から降りて、はるか下の湖を目指す。
     アスフェルド学園は結構な斜面に建っている為、整えられた通路以外は崖に等しき急斜面だ。実際に崖になっているところもある。
     まどろっこしいが、キチンとした場所を通らなければ大なり小なり事故が勃発するのは分かりきったことだ。
     ……具体的に言えば、愉快犯な性格のリーダーが崖から跳び降りて普通に着地したり、急斜面を楽しげに駆け上って転んで顔面がえらいことになったり、「アイキャンフライ!」と謎の言語を叫びながら階段の上からジャンプして飛距離が足りずに足をくじいたり。
     「今日授業で隣の席の人に写させてもらったノートにホイミがあるからダイジョーブ!」じゃない。ホイミ覚えるよりも前の時は「ホイミンやきそば食べればオールオーケーよ!」と親指立てていたか。
     そもそもそんなに食べれる人じゃなかったようで、ホイミンやきそば一個で「ギブ……」と呟いていたのには笑った。
     思い出して、口元が自然と吊り上がる。ああ、悔しい。
     高位魔族であるこの自分の心を、ここまで惹き付けた存在は初めてだ。
     どこかの自由人の徹は踏まない。それ程愚かではないからだ。けれど、この先にいるはしゃぐ人物にはなんとなく通じない予感がする。
     魔界にはない、青い空と澄んだ水の対比。
     馬鹿らしいくらいに平和で、そして狂おしいぐらいに惹かれる生活。
     案の定湖で遊んでいたのはフウキのリーダーその人で。
    「あ」
    「……」
     べちゃ、と嫌な音を立てて、ぽたぽたと滴るものはなんだろうなぁ?
     まだアストルティアの海には行ったことがないので、海だと水がしょっぱいらしいとか、ここは淡水の湖だから真水でしょっぱくないだとか、そんなどうでもいい情報が一瞬駆け巡って結局霧散する。
    「ご、ごめんねぇ……!?」
     引きつった笑みを浮かべつつ、目が盛大に泳いでいるリーダーは、慌てた挙句近くにあった自分の上着で濡れた箇所を拭き始めた。
     相変わらずガサツだ。いやそういう問題じゃない。
     あわあわと慌てるリーダーに、右手に出した槍を向けて。
    「……死にたいの?」
    「うぎゃぁ!?」
     悔しい! 悔しい! 意味がわからない!
     会えたことが嬉しいだとか、上着のにおいに包まれるのはいいなだとか、上着が大きい事だとか。
     なんでこんなテキトーな奴に振り回されるのか、悔しくて、憎くて、でも憎みきれなくて。
    「リソルくんごめんってぇ!」
     バシャバシャと水を跳ね飛ばしながら走っていくのは湖の奥。
     その気になれば自分だって武器を出して応戦できるのに。悔しいけれど、自分よりもずっとずっと強いことを知っているのに。
     それをやらない中途半端な優しさが、悔しくてたまらない。対等ではないと言われているようで、手加減されているようで、ずっとずっと年上の筈なのに、年下扱いされているようで。
     今だって奥に入っていくのは、きっと泳ぎに自信があるからだ。着衣水泳と化しているから、余程自信がないとできないことだろう。
     自分がびちょびちょに濡れることを厭いもしないなんて。
     敵わない。目が離せない。繋ぎ止めておきたい。
     手を伸ばすも、身長差に舌打ちをする。もう既に足がつくギリギリの深さだ。
     対して背が高い方のリーダーは、ずっと先の深い位置まで進んでいる。多分足はついていないと思われる。見事なまでにぷかぷか浮かんでいた。予想外が過ぎる。
     ここから勇気を出せるかどうか、リスクに対してのリターンは……。
     迷っているうちに、リーダーは何故かハッとした表情をした。そこからはあっという間で。
     移動する為の道具があったことを思い出したらしいリーダーは、オレも知らない道具を使ってその場から消え去ったのだった。
     ……覚えてろよ。
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