Solitude 背に回した手に力を籠めると、己の背中にも同じ様に、されどしがみつく自分とは違って少し優しく抱え込む力が強まった。
首筋を擽るように当たる呼吸と、柔らかく仕上げられた300番手のシャツ越しに感じる体温を、眼を閉じて受け容れる。
「ミスタ。ミスタ、私はずっとお前と共に在りたい」
夜を凝固させて造られたような美しい彫像から落ちた音は、何時もの様に深く深く血液に混じって体内を駆け巡る。幾許か余裕の無いリズムが、彼が心を持つ生き物であると主張している。
朝日を浴びてキラキラと煌めく水面の様にくるくると色彩を変える、飛切り大きなセントラルヘテロクロミアの瞳が、嬉しそうにも哀しそうにも見える様に揺れた後、再び肩口にギュッと収まった。
「もー、無理。どうしてヴォックスってば…」
「うん。すまない」
弾力性を持つ薄い皮膚の下、筋張った筋繊維から伝わる鼓動は速く、呼吸する度に圧迫される肺が、ミスタとヴォックスに各々別の個体であると認識させる。
お互いの胸懐を顕すように体温が上昇していった。
「あっつぃ」
「ムードの無いヤツだ」
喉の奥で転がる笑い声を鎖骨で感じても尚、取り付いたまま体制を変えないミスタと共にベッドに倒れ込んで、空調のリモコンを片手に探し当てる。
室温を2度下げて、お互いの体温を享受して眠った。
『』
ふと、意識が浮上して辺りを見廻した。何時もと変わらぬ自室の天井を見るとも無しに眺めながら、微睡みに身を委ねる。
カーテンの隙間から漏れる僅かな光を見るに、明け方頃か。肌寒さを覚えて、隣の温もりに手を伸ばせば、冷たいなめらかなシルクの感触が手の甲を滑った。
ヴォックスは緩慢に身体を起こし、あの頃より随分長く伸びた髪を掻き上げる。
本日の朝食は温かいボリッジが良いな。
ここ数日、夏の暑さが嘘のように気温の低くなった部屋のベッドから、ガウンを羽織って抜け出す。
「全く。酷い呪いをかけてくれたものだね」
サイドチェストに置かれたフォトフレームを突くと、ヴンと云う起動音と共に、あの日と同じ蒼にオレンジ色を滲ませた瞳で笑う想い人の姿がモニターに現れる。スライド式に何枚も切り替わる画面を置き去りにして、ドアがパタリと音を立て閉じた。
『ちゃんと、返事するから待ってて』
『待ってるさ。ずっとね』
2222/09/01 5:00am