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    アカリ

    @VwX6yzNx3JMWcLN

    K暁の話その他小話とか絵置き場。

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    アカリ

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    微ホラー話ふたつめです、前より長くなって出し所迷ってました。起承転結の結が曖昧なホラー好きが書いたものなのでゆるっと楽しんでいただければ幸いです。

    東京奇譚.二「えぇ、それは確かに居ました」

    女は頬に手を添えて──うんうんと小刻みに何度も頷いて周囲を忙しなく伺っている。KKと暁人にしてみればその挙動の方が不気味で「続き良いか」とKKが促すまで女は天井、壁、床をひたすらジロジロと見続けていた。

    「あ、あぁ、はい…すみません、すみません。私ときたらいつもこうで。そのせいで受付嬢のクセに落ち着きがないのだと弊社の方々にも何度も言われて──また逸れましたね。申し訳ございません」

    女の手は小さくカタカタと震えている。恐怖のせいかと暁人が声をかけようとしたのをKKはそっと片手で制してきた。
    オフィス街にある某ビル。そこはテナントなどではなく一階から最上階まで全てその会社のビルであり、都内でここまでしっかりとしたオフィスを構えるのはなかなかのものであろう。しかし今まであまり聞いたことのない企業だと暁人が頭を捻っていると凛子とKKは「あまり詳しく詮索しない方がいいかもな」と至極真面目な顔で言ってきて。表向きはマトモ、ということはもしかしたら何か裏がある会社なのかもしれない。
    こうして足を踏み入れると建造して間も無いのか綺麗なオフィスではあるのだが。

    「ソレはある日突然です、本当に突然に。先程エントランスを見ましたでしょう?ガラス張りの。あそこを這うように…こう…黒いものがサーッと横切って行ったんです」

    影のような、でもなめらかな動きでしたので長い髪の毛のようにも見えて…などと説明する女の視線はまた空中を彷徨っている。
    すると。

    とととととん、とととととん。

    天井裏から叩くような音が聴こえてきた。

    「え、」

    驚いて暁人が視線を上げる。KKもそれに気付いたのか同じく目線は天井へと向けられていた。
    とととととん、とととととん。
    とととととん、とととととん。
    それでも音は絶え間なく降ってくる。なんの抑揚もないその音は不気味さを携えて、何かを訴えるように何度も、何度も。

    「……あのぅ、どうかされましたか?」

    そんな二人の様子に女はキョトンとした顔でこちらを見ていた。その反応にまた暁人は目を見張った、のだけれど。

    「いや、何でもない。話遮っちまって悪いな…念のため上のフロアも見せてもらっていいか?」
    「はぁ。上司達からは社内どこを見てもらっても構わないとのお達しですのでよろしいかと」
    「じゃあお言葉に甘えて。行くぞ、暁人」
    「え?あ、うん」

    女に一礼して暁人は応接室を出ていくKKの後に続く。パーテーションで区切られたフロアには人の気配はするもののその姿は誰一人として見えない。
    人は居るのに居ないような──そんな雰囲気に暁人は少し薄寒くなって、KKの背後にそっと詰めて歩き出した。

    「ねぇ、さっきのが例の?」
    「さあな。見ない事には何もわからんが…どちらにせよさっさと済ますもん済ませて立ち去りたいもんだ」
    「…それはそうだけど」

    先程の話を引用すればここ一、二ヶ月ほどこの会社全体で妙なことが起こるのだという。若い女性社員の飛び降り自殺、営業のエースだった男性社員の失踪。突然の取引先からの縁切りなど、個人も会社も問わずに不幸が続きその上…変なものを見るようになったとまことしやかに囁かれるようになった。
    それで自分達の元へと依頼が舞い込んだというわけだが──。

    「どうやらここだな」

    フロアを上がった先、廊下の突き当たりにあるドアの前に立ちKKは霊視を試みる。ドアのプレートには資料室とありドアノブを回せば鍵は掛かっておらずすんなりとドアは開いた。
    薄暗い室内、太陽の光も差さないラックで埋め尽くされた部屋の隅にそれは居た。しかし室内に入ってきたKK達には目もくれずに青白い幽霊は床に這いつくばるように何事かをブツブツと繰り返している。

    『……、………、……』

    「何か言ってる?」
    「敵意は無さそうだがなぁ…、おいアンタ。さっきのはアンタの仕業か?」

    KKが大きな声で呼び掛ける。その声が届いたのか幽霊はピタリと言葉を発するのをやめて、こちらへゆっくりと向き直った。

    『なんで来たんだ』
    「…あ?」

    そう言って幽霊は姿勢を崩さないまま、頭を左右にぐらぐらと揺らす。霊体の輪郭はさっきよりもボヤけていって──。

    『どうしていつもこうなんだなんで上手くいかない思うつぼだろうはやくにげろにげろにげろなんでにげないおなじようになりたいのかわたしはもうつかれたなにもできないむりょくだたのむからはやくにげてくれおねがいだ…!』

    室内を黒い靄が蝕んでいく。それはまるで悪霊がこちらを閉じ込めようとする行為そのものに酷似していた。やはり件の怪異はコイツの仕業だったのだろうか、だとすればもう。

    「KK、これは…」
    「チッ…仕方ねぇな!」

    このままではいずれこちらも危うい。そう判断したKKは札を投げつけ印を結んだ。幽霊は抵抗するかと思いきや、身動きが取れない状態になってもうわ言のみをただただ繰り返す。

    『はやくはやくはやくはやくはやくにげろしにたくないならはやくにげろおれにはなにもできないみているしかできないてもだせなかったもうだめだおわりだ』

    ──みんな、死ぬ。

    それだけをハッキリと言い残して…幽霊は霧散した。
    しん、と静まり返った資料室にはもはや何も残ってはいない。しかし。

    「本当に今ので終わり…なんだよな?」
    「………」

    暁人の問いにKKは何も答えなかった。
    だっておかしい。いつもなら霊を浄化すればその場には清らかな気が満ちるはずなのだ。
    それなのに今だって違和感が拭えない。何かがおかしいと思うのにそれを言語化出来なくて。

    「あのぅ」

    不意に背後から声がして、二人は思わず同時に振り返る。ドアのところに立ってこちらを見つめていたのは先ほどの女だった。

    「用件は終わりましたか?私と来たらお客さまですのにお二人を案内するのをとんと忘れてしまって…上司にその旨お話ししたらまた怒られてしまいました」

    困ったようにそう言って笑う女に暁人は薄ら笑いを浮かべるしかなく。

    「問題ない、気にしないでくれ。そんでもって用件も済んだ。アンタ達的に分かりやすく言うなら──除霊完了、ってこった」
    「!本当ですか」

    KKの言葉に女の顔はパァッと晴れたように明るくなった。よほど気に病んでいたのだろう、暁人にしてみればその表情を見れただけでも良しとしたいところなのだが。

    「あの、すみません。一つお聞きしても」
    「?はい、なんなりと」

    暁人はどうしても気になることがあって女へと歩み寄る。安心したのか女の手はもう震えてはいなかった。

    「先程お聞きした話の中に、ここの──…っ?!」

    ぐっ、とKKは暁人の腕を掴んだ。それはまるで制止するかのように。

    「悪いな、なんでもない。とにかくここに居た霊は祓った。俺達はお暇させてもらうぜ」
    「けっKK?なんで…」

    KKはさらに暁人の腕を強く掴んだ。それに対して食い下がるほど暁人の勘は悪くなどない。──もう触れるな、立ち去るぞ。そう言う意味なのだとすぐに理解して暁人は口を噤んだ。

    「本当に、祓ってくださるとは…これで社内も平和になります。感謝してもしきれません。今席を外してしまっておりますが上司からもお礼を」
    「あーいらんいらん。あとでちゃんと形で礼を貰えれば俺達はそれでオッケーだ」
    「はぁ、左様ですか…」

    見送りもいらないと言うKKに女はだいぶ食い下がったが、ならばエレベーターまでという話で決着がついた。
    ガラス張りのエレベーターホール。外は快晴なのにやはりどこか違和感を感じてしまう…暁人は気分がなんとなく悪くなってきたような気がした。

    「じゃあここで良いぜ」
    「失礼します…」

    KKはエレベーター内のボタンを押す。1Fのボタンが光り、もうこれでこの依頼も終わりだと思うとやっと肩の荷が降りた気がした。

    「お二方、本日は本当にありがとうございました」

    女は受付嬢さながらに美しいお辞儀をする。そしてそのままエレベーターのドアは閉まり──やっと少しは楽になった気がして暁人は小さく息を吐いた。

    「暁人」
    「何?」
    「ここを出たらこの件は終わりだ。何も調べるなよ」
    「…どういうこと」
    「お前さっき『資料室の話』は聞いてない。そう言おうとしたろ」

    KKの言葉にどきりとした。そうだ、それを聞こうとして止められたのだ。

    「何かまずいことでもあるってこと?」

    暁人に問われてもKKの表情は渋い。

    「まずい、か。確かにそうかもしれねぇな」

    エレベーターは1Fに到着してエントランスを残り抜ける。足早にビルを出て、最初の曲がり角を曲がった途端にKKは「もう良いだろ」と呟いて暁人のジャケットのポケットに手を入れた。

    「え、何!?」
    「さっきビルに入る時こっそり入れといたんだよ。──ほら見ろ。すっかり灼けちまってる」

    そう言ってKKはポケットから出した手のひらを差し出して暁人に見せる。それは、まるで消し炭のように黒くボロボロに変わり果てた護符だったもの。

    「あの幽霊は確かに祓うべきものではあったんだろうな。でもお前も気付いてるだろ。今まで起きた事とあの霊は果たして繋がってたのかってことに」
    「……………」

    KKの言葉は図星だった。連続して起こった不幸な事故、不可解な怪現象。それら全てがあの部屋に居た霊が起こしたものだとはなぜか思えなくて。
    それにあの吐き出していた言葉達は──。

    「変な縁が繋がっちまう前に帰るぞ。なんつうか…これは俺達じゃ手に負えねえヤツだ」

    神妙な顔をしてKKは暁人の背中をぽんと叩いて歩き出す。釈然としない、後味が悪い結果に納得出来ていない気持ちに暁人は先ほどのビルを振り返りたい衝動に駆られるが。

    みんな、死ぬ。

    あの幽霊の言葉が不意に脳裏によぎり──視線を少しだけ落としながらKKの後に慌てて続いて帰途へと着いたのだった。



    後日。

    それはいつもと変わらぬ夕方のこと。

    「うわ…ひどい火事…。ねぇお兄ちゃん、この辺ってこないだKKさんと行った所じゃないの?」
    「んー?」

    TVのニュースを眺めていた麻里に話しかけられて暁人は料理の手を止めて画面へと視線を移した。するとそこには麻里の言う通り、先日KKと共に行った件のビルが大火事に遭いほぼ全焼したとのニュースが流れていて。

    「えっ、マジで…?」

    立ち上る黒煙と燃え盛る火に包まれたそのビルはもはやあの日の見る影もない。ガラス張りの外壁は熱で崩れ落ち周囲には消防車、救急車とパトカーがひしめき合ってその後方に野次馬が群がっている。TV局の空撮によって上空から映されているその映像は見るも無残なものであった。

    「生存者は絶望的だって。…事故か何かで出火したのかな……お兄ちゃん?」
    「………………麻里、お前何か見たか」

    暁人の言葉に麻里は首を傾げる。

    「何を?」
    「いや、何も見てないならいいんだ。夕飯もうすぐ出来るからさ、手洗って皿出してくれよ」
    「?…うん、わかった」

    ぱたぱたと洗面所へ向かう麻里の背を見送ってから、暁人はすぐに違うチャンネルへと画面を変えた。噴き出す汗が止まらない、手も震えている。

    ────あの女が居た。
    燃え盛るビルの屋上で、その惨状に喜ぶように手を叩いて笑っている女の姿が暁人の目に映っていたのだ。その表情は人間はここまで笑えるのかと思うほどに歓喜の表情に満ち満ちて、笑顔という表情に恐怖を覚えたのはこれが初めてなのではと思うほどに。
    あの女は人間ではない。それはわかる。しかし何なのかは皆目見当はつかない──つけてはいけないのだと頭の中で警鐘が鳴る。

    なんで来たんだ。
    思うつぼだろう。
    はやく逃げろ。
    同じようになりたいのか。

    幽霊の言葉が頭の中で木霊する。もしかしてあの霊は…おそらく、きっと。

    『本当にありがとうございました』

    あの時の女は何に対して礼を言ったのか。もしかしてあの霊が邪魔だったのだろうか。
    とりあえずKKに連絡しよう──そう思いスマホを手に取った時。


    とととととん。


    天井裏から、音がした。




    了.
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