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    アカリ

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    K暁の話その他小話とか絵置き場。

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    アカリ

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    妖怪×K暁シリーズ。「雪わらし」です、例のあの人も出ます!

    #K暁

    夏冷えとその温もりに「あぁもうっ、ちょっと待って!KK早く!!」
    「わかってるよ!暁人、もう少し引きつけろ!」
    「出来るならとっくにやってるよー!!!」

    深夜、もう太陽の名残も跡形もない夜。じわじわと蒸すような熱帯夜が約束されたはずのこの場所はひんやりとした空気に覆われていた。

    『きゃははは、きゃはは!』
    『こっちこっち!』
    「あぁ〜くそっ!ちょこまかと!!」

    解体途中の廃ビルの中で暁人とKKはある存在をただひたすらに追いかけていた。
    ──その正体は、雪わらし。雪ん子ともいう子供の妖怪で普段ならこんな渋谷の街に現れるような妖怪ではない。それが数人もこんなビルの中でたむろして工事の邪魔をしているのだ。
    夏場だというのに作業員の足元が凍りつく、霜で重機が動かない。そんなこんなで作業も中断してしまい依頼がこちらへと舞い込んできたというわけだ。

    「そもそも、夏なのにこの子達なんで平気なの!?」
    「おそらく1人じゃ溶けてしまいそうなところをお互いを冷やして助け合ってるんだろう。見ろ、冷やし続けた結果このビルの中だけ氷室みたいになってやがる。俺たちにしてみれば涼しくて最高だが現場の連中にしてみたらありがた迷惑だろう、な!」

    ひらり、と雪わらしがKKの足元をすり抜けた。1人2人ならともかく複数の雪わらしが行き交うだけでもはや強制鬼ごっこである。足を止めようと麻痺札を投げても当たるわけもなく、彼らは自前で作った氷の滑り台や氷の壁を駆使して捕獲しようとしてくるKKたちからそれは見事に逃げまくっていた。
    エーテルショットを足止めに放とうと思うもなんだかそんな気にはなれない。それは口にせずとも暁人も同じ気持ちらしい、見た目が子供な雪わらしにそれは抵抗がありすぎた。

    「ったく…俺たちはお前らの遊び相手になりに来たんじゃないっつの」
    「もうそろそろ僕もしんどいんだけど!」
    「わかってる!」

    かれこれ小一時間はこの状態だ、しかし手をこまねいてるだけの2人ではない。

    『わぁ〜!にげろにげろ〜』
    『きゃっきゃっ!』

    冷静に見て数えて、雪わらしは8人。それに狙いを定めて──。

    「暁人、右方向だ!」
    「了解!」

    暁人が走り、雪わらしを追い込んだ。そこは唯一氷の滑り台も何もない平坦な場所。
    KKはニヤリと笑った。

    「っ…オラァ、雪わらしの地引き網漁だ!!!!」

    そこにはバレないように慎重に張り巡らせた霊糸の網。それをKKは力一杯ひっぱり、雪わらし達を一網打尽に捕まえたのだった!

    『わあああ、や〜ら〜れ〜た〜!』
    『策士だ〜!』
    『これは大漁というやつ?』

    可愛らしい声でなんやかんや叫びながらも、雪わらし達は存外楽しそうな様子で網の中。暁人は「手荒だったかな」と眉をひそめたが複数の妖怪を捕まえるのにこれくらいは許容範囲だと思う。というか手荒にされたのはコッチだろコッチ。なかなかに上がりきった息は未だに元に戻らないが、暁人はもうだいぶ息が整ってるようだ(歳とか思った奴は後で広川神社裏に来い)。

    「お疲れ、KK!」
    「おー、お前もお疲れさん。こんな走り回ったのいつぶりかね…」
    「運動不足が祟っちゃうね、ホント。で?この子達は引き渡しに行くんでしょ。ここはこのままにしといていいの?」

    そう言って暁人が指差すビルの中。それはそれは立派に天井まで氷に覆われていて。

    「あー……あとでなんとかするか」

    今は無理、もう疲れに疲れ果ててしまった。火のエーテルでなんとか溶かしたりすべき所なんだろうがそれは後だ、後。絵梨佳にも手伝ってもらって処理することにしよう。
    …とりあえずこの雪わらしを依頼人の所へ持っていくかね。
    KKは重い腰を上げる。まぁ、重たいのは腰だけではないのだが。
    楽しそうな雪わらしの嬌声をBGMにKKは盛大な溜息を吐いたのだった。

    * * *

    「結構時間がかかったな。何はともあれ、この雪わらし達は俺が責任持って預かるから安心してくれ。ご苦労さん」
    「……ああ、そうかよ」

    捕まえた雪わらしを連れてやってきたのは上尾神社。そう、何を隠そうこの依頼をしてきたのは他でもないこの神社の宮司だったのだ。どうにも気が進まず出来ることなら暁人や絵梨佳に任せてしまいたかったがKKに、と名指しで指名されてしまい逃げることすら敵わなかった。ていうか凛子の差し金もあったんだろう、アイツなんかニヤついてたし。

    「この子達どうやって帰すんですか?」
    「知り合いのツテで冷蔵車を借りられたから、それに乗せて元居た雪山に帰すことになっている。その雪山の麓にある神社の宮司が古い知り合いでな、ある日を境に雪わらし達の姿がとんと見えなくなった。それで調べると東京から来ていた観光客の車にこっそり乗り込んだかもしれないと…何しろデカいバンだったそうだからな。乗り心地は大層良かったろうよ」

    そう言って宮司はまだ網の中に居る雪わらしの頭を軽く撫でた。きゃあきゃあと無邪気に喜ぶ雪わらしは次は自分だと言わんばかりに宮司へと頭を押し付けている。

    「これこれ。あんまり触るとお前らが溶けちまうぞ」
    「よく妖怪なんざ触れるな」
    「はん、触れていいかどうかの判断くらい朝飯前だ。なんでもおっかなびっくりなところはまだ変わらんかKK」
    「うるせえなぁ、未知の存在には触れぬが吉だろうがよ」
    「いい加減慣れろ未熟者め。たまに木霊たちと仲良く散歩してる暁人くんの方がよっぽど柔軟性があるんじゃないか?」

    なぁ?と矛先を向けられて暁人はへ、と上擦った声を上げた。ていうかお前木霊たちと散歩してんのか。初耳なんだが。

    「い、いやぁ…木霊たちが遊ぼうって言ってくるから…」
    「暁人。それは後で詳しく聞くからな」
    「うっ…はい」
    「説教くさい相棒を持つと大変だな。…そうだ、報酬はきちんと別で払うがコレを持っていけ。俺は使わないから帰りにでも使うといい」

    そう言って宮司が手渡してきたのは──。

    * * *

    「高級アイスクリーム無料引換券だって、しかもこんなにたくさん!アジトのみんなも喜ぶんじゃない?」
    「少なくとも今の俺は喜ばねえよ…」

    宮司に貰ったものは大量のアイスクリーム引換券だった。しかも普段なら買わない高級アイスだ。たま〜に暁人や麻里、絵梨佳が「自分達へのご褒美」として買うような、そんなアイスがたくさん食べれられることに暁人の目は今からもうキラキラと輝いていて大変可愛らしい──が、KKはそれどころではない。夏だというのにさっきの氷漬けビルでの追いかけっこのせいで体はすっかり冷えてしまっている。

    「歳取ると寒がりになるってホントだったんだ…」
    「何か言ったかお暁人くんよ」
    「なんでもない」

    正直言ってまぁそれは事実なのだが。とっとと帰って熱い風呂に入ってビールの一本でも煽りたい。そう、KKが思っていると。
    不意にKKの手に暁人の手が触れた。

    「うわっ、ホントだ冷たい!」
    「なんだなんだ、急にどうした」
    「たまには僕も温めてあげようかと思ったんだよ」

    へらりと笑う暁人。自然と繋がれた手は深夜だからこそなのか、人目を憚ることもなく。
    ……たまには悪くねえな。こういうのも。

    「暁人」
    「ん?」
    「冬になったらアイツらの居る雪山に行ってみるか?ゲレンデなんかも近くにあるらしいぞ」
    「えっ、本当に!?」
    「エド達が変な依頼入れなきゃな」
    「それは…うん、言えてるね」

    お互い顔を見合わせてどちらともなく笑う。手の温もりに絆されたからかどうかはわからないが、少なくとも今の気分は悪くない。木霊の件についてはお咎めなしにしてやるかな。

    「…よーし、アイス引き換えてとっとと帰るか」
    「えっ嬉しくないんじゃなかったの」
    「今は食いたくねえけど風呂から上がったらそりゃ食うよ。あの宮司からってのは気に食わねえがアイスには罪はねえ」
    「ふふ…素直じゃないな」
    「あ?なんか言ったか?」
    「なんでも!」

    なんだか知らないがやたらと機嫌の良さそうな暁人。その様子についつい魔が差して「風呂一緒に入るか」と言ってみたら思いっきり手を強く握られてしまった、何なんだコイツの馬鹿力は。めちゃくちゃ痛え。

    いつもなら蒸すような夏の夜。
    今夜だけ不快に感じなかったのは──雪わらしのおかげかそれとも。
    …言葉にするのは無粋かな、とKKは思った。


    それから一週間後。件の知り合いの宮司とやらから冷凍パックにより大量のアイスクリームが送られてきて、アジトの冷凍庫がパンク寸前になったのは言うまでもなかったそうな。


    了.

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    na2me84

    DOODLE #毎月25日はK暁デー
    参加させていただきました。お題は『匂い』
    厭世的で嫌煙家の暁人くんのお話。
    sensory adaptation 雨の夜が明け家族とも一夜の相棒とも別れて、僕は日常に戻ってきた。妹を取り戻すことは出来なかったから、今までと全く同じという訳にはいかないだろうけれど、とにかく僕は一人生き残ったわけだ。それに意味があるかはまだ分からない。それでも、とりあえず僕がやらなければいけない事がまだ残っている。向こうで両親と共に旅立つのを見送った妹の現世での抜け殻に病院で対面し、身体も両親の元へと送り出した。その日は青空にふわりと薄い雲が浮かぶ、良く晴れた日だった。この世のしがらみを全て捨てて軽くなった妹は、きっと両親と共に穏やかに笑っているだろう。そうであって欲しい。

     追われるように過ごした日々が終わってふと気が付くと、これからどう生きていけばいいのかすら何も考えつかなくて、自分が空っぽになったように感じた。ほとんど物の無い空虚な部屋を見回して、置きっぱなしになっていたパスケースに目が止まる。すっかり忘れていた。あの夜の相棒の形見、最期に託された家族への伝言。これを片付けなくては。彼とは出会いから最悪で途中も色々あったが、最終的にはその関係は悪くなかったと思う。結局のところ、僕にとっても彼にとっても失うものばかりで、得るものの少ない結果だったとしても。
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    もちこの本棚📖

    DONE幽霊の日に間に合わなかったけど⊂(^ω^)⊃セフセフ
    短くするつもりが長くなってしまい申し訳……
    幽霊シリーズ、色んな方から感想とか反応いただけてとっても嬉しいです…☺️
    最初の話のアンサー的な感じで書きました、つ、伝われーッ
    幽霊の日の話「今日って、幽霊の日なんだって」
    『ほー。よく知ってるな?』
    「だから、KKの日でもいいなぁって思って」
    今日はちょっとお供え物も豪華にしたよ?と机にビールや暁人が作ったおつまみ、お菓子、それに食後の一服用にとタバコが置かれた。
    「気になってちゃんと起源も調べたんだよ」
    『偉いな、知識を得ることは良い事だよ』
    うんうん、と横でふよふよ浮いているKKが頷く。
    「まぁ、僕がたくさん食べたいから付き合ってもらおうと思ってね?」
    金曜日の夜だからいいよね、と先にKKの分の缶ビールを開けて向かいの席に置き、その後自分の缶ビールも開ける。いつの間にかKKが姿を現せるようになってからというもの、お供えスタイルから向かい合って一緒に食べるような食卓スタイルに変えた。以前KKが「これじゃお供え物じゃねぇな」と言ったが「僕からKKへのお供え物って名目だったら問題ないだろ?」と暁人は笑って返した。
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