ありのまま『ありのまま』
自宅のように使用しているアジトのソファに座って、二人はテレビを見ていた。今日は麻里が友達のところへお泊りの為、長く一緒にいられるとリラックスしていた。何気なくつけたテレビ番組はバラエティー番組で、KKの笑いのツボにヒットしたようだ。大きく口を開け、笑っている。一緒に笑っていた暁人の視線が、ふと、KKの口元へと移動した。
「……」
「はっはっはっ」
「……」
「はっはっはーーあ”?」
ぐいっ、大きく口が開いた瞬間を見計らって、暁人の指が二本侵入する。KKの歯がよく見えるように口角を引っ張ってくる。
「はきと?」
「KKって、八重歯だよね」
何の脈拍もなしにされた行動に、呆けた声が出てしまう。無理やり引っ張られているものの、手加減しているのか、痛くはない。二本の指の隙間から八重歯が覗く。その鋭い歯に噛まれたら痛そうだと、暁人は感じた。
「あー」
「笑うと僅かに見えるんだよ」
「そういうお前は歯並び良いよな」
「まあね」
口角を引っ張る指を退かし、暁人の顎を片手で固定すると、歯を見せるように笑う。時々、突拍子もないことをするなと内心呆れながら、綺麗に並ぶ歯に視線を落とす。
「矯正でもしてたのか?」
「全然」
「羨ましいことで…」
「KKは八重歯いやなの?」
顎を掴まれたまま、KKの両頬を両手の指、一本ずつで押す。不自然に口角が上がり、人相の悪い顔が不気味な笑い顔になる。子供なら、絶対に泣き声が聞こえてくる悪人面だが、暁人にはそんな面でも愛おしく思ってしまう。
「やめろって、良いことないだろう?」
「そうかな?KKの八重歯は可愛いと思うよ?」
顎を掴んでいた手が、頬を押す手を払いのける。しかし、気にもせず、暁人の手が口元へ近づくと人差し指がかさついた唇を撫でる。
「……」
「僕は、好きだよ」
素直な気持ちを伝えていく。優しく唇を撫でていた指が僅かに開いた隙間から入り込む。撫でるように歯をなぞっていく。
「……」
「KKって、あんまり笑わないでしょ?だから、笑った時に見えるのが、僕しか知らないKKみたいで嬉しいし…」
幸せそうに笑う。
「……」
「あっ、けど、噛まれたら痛そうだよね」
「はぁー」
楽しそうに笑う暁人の手を掴み、指を引き抜く。僅かについた唾液が糸を引く。
「まだ、触ってたんだけど…」
「お望み通り、噛んでやるよ」
八重歯を見せるように大きく口を開けると、暁人の喉仏に嚙みついた。
「KKーーーーー‼‼」