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    とっても遅れたキスの日のお話。五乙の一日と言うような感じです。

    #五乙
    fiveB
    #乙受FES2
    bIsSubjectToFes2

    不意打ち時々、気まぐれのち、本命。 優しい音色を刻む目覚まし時計を止め、眩しい朝日から逃れるように布団を引き上げる。ふかふかのベッドはキングサイズで、首が痛くならない枕は特注品だったか。滑らかなシーツは肌触りが良く、起きるのが億劫になってしまう。あと少しだけ――そう言い聞かせて寝入ろうとすれば、おもむろに扉が開いた。
     ペタペタと足音を鳴らしながら、近付いて来る人の気配。誰か、なんて確認するまでもない。ぎしりとマットレスが沈み、「憂太」と呼ぶ声は低く穏やかだ。僅かな呪力の変化に気付いて、起こしに来たのだろう。そうとなれば寝た振りが通用するわけもなく、横になったまま渋々顔を出す。
     アイマスクやサングラスで隠れていない瞳は、いつも通り澄んだ青空のように綺麗だ。そんな呪術師たちが忌み嫌う六眼を、恐れることなく直視してムッと尖らせた唇。「まだ寝れました」と駄々を捏ねれば、「朝ご飯が食べられなくなるでしょ」と正論を突き付けられて口を噤む。年上で一枚も二枚も上手な五条を、言い包めるなど至難の業か。
     食事と睡眠を天秤にかけたら、余程のことがない限り後者を取るだろう。学業と任務の両立には、かなりの体力を有するのだ。転入した当初よりも成長したとは言え、五条のように器用なわけでもなければ、屈強な肉体を持っているわけでもない。非力なのは変わらず、友人たちからも心配されるくらいである。
     恨めしそうに見つめたところで頭を撫でられ、「ほら、おはよう」と鼻先に子供の遊びみたいな口付けが一つ。擽ったさと羞恥心に、もぞもぞと足を動かす。消え入りそうな声量で挨拶を返せば満足そうに微笑まれ、上手く宥め込まれたことに不満を露わにした。

    「先生はズルいです」
    「大人だからね。着替えて、顔洗っておいで。憂太はただでさえ細いんだから、食事抜きなんて許さないよ」

     ひらひらと手を振りながら、脅し文句を置き土産に五条が部屋を出て行く。今さら緊張感を抱くことはないが、形容しがたい感情には溜め息が漏れる。乙骨が逆らえないと知りながらの、有無を言わせないやり方は我が道を行くあの人らしい。けれどこうして五条の掌で踊らされるのには慣れたものか。
     高身長でスタイルは抜群。目隠しがなければ色素の薄い髪と相まって、美形の部類に入る。おまけにこの界隈においては、現代最強の呪術師だ。唯一の難点があるとすれば、捻くれた性格くらいだろう。挑発はお手の物、相手が誰であろうと容赦なく、振り回される毎日。それを仕方ないと割り切れてしまうのは、乙骨が五条に惚れ込んでいるからかもしれない。
     始まりは突然だった。「僕と付き合ってよ」なんて五条から、教師であることを忘れてしまいそうなほど、あっさりと告げられた愛の一歩手前。悩むまでもなく「いいですよ」と、快諾した自分もなかなか普通ではないのか。呆然とされながらも、「意味、わかってる?」と尋ねられたのには納得がいく。それは二度目の白い制服に袖を通して、一ヶ月が経とうとしていた時だ。あれから一年、月日が流れるのは早いものである。
     鈍いと思われがちだが、一度は愛した人がいるからこそ、恋愛感情には敏感だったのかもしれない。自分の気持ちに、嘘が吐けるようなタイプでもなかった。「両想いですね」と伝えれば赤面され、「男前過ぎるでしょ」なんて褒め言葉。もっともすぐに主導権は、五条に奪われてしまったが。
     二度寝を諦めて準備を済ませ、美味しそうな匂いに釣られてリビングへと向かう。こっそりと中を覗けば、五条が手際よく朝食を作っていた。世話好きと言うよりも、甘やかされているのか。泊まりに来た時はいつも、至れり尽くせりだ。

    「相変わらず凝ってますね」
    「そりゃあ、育ち盛りの子がいるからね。僕のところにいる時は、ちゃんと食べてもらわないと」

     真っ白なプレートの上には、きつね色に焼き上がったフレンチトーストと果物が添えられている。二つの小鉢にはサラダとヨーグルトが入っていて、仕上げとばかりに出来立てのスープが運ばれてきた。飲み物のオレンジジュースは、搾りたてなのだろう。ホテルのモーニング並の豪華さには、初めてではなくとも慣れるものではない。
     先に座って待つのはありふれた光景、五条が席に着けば二人で手を合わせる。ナイフで小さく切りながら一口、程よい甘さとふわふわのトーストに舌鼓を打つ。

    「今日もここにおいで」
    「そのつもりでした」
    「いい子」

     棘は長期出張で不在。真希とパンダは京都に遠征中で、寮に帰っても一人だ。寂しく過ごすくらいならば、五条と一緒にいる方がいい。付き合っているのだから、これくらいの我儘は許されるだろう。もっともそんな願いを、伝えるまでもなかったが。
     出された料理をすべて平らげ、ゆっくりしている暇もなく出発の時間。刀袋を背負い振り返れば、「いってらっしゃい」と額に優しいキスが落とされた。ぽうと熱くなる頬に、はわわとしながら唇を結ぶ。不意打ちなんて卑怯だろう。高鳴る鼓動を落ち着かせ、「いってきます」と返した声は震えていたかもしれない。
     半ば飛び出すように家を出たわけだが、少し歩けば平常心に戻っていた。これから行く場所がどんなところであろうと、暖かな陽気に気分は晴れ晴れとしている。あれがおまじないだったら、効果は抜群か。任務へと赴くには勿体なくなるような青空に、ほんのりと冷たい風が乙骨の黒髪を撫でていく。どこからともなく舞ってきたのは桜の花びらで、自然と笑みが零れた。
     呪術高専に迎えられた季節。友達が出来た季節。そして五条に、初めて会った季節。転機とも言える春は、乙骨にとって特別なのである。今日も頑張るぞ、と自分を奮い立たせ、足取り軽く待ち合わせの場所へと歩みを進めていく。

    「本日の任務ですが、些か厄介な呪いとなっております」
    「厄介、ですか?」
    「ええ。五条さんが言うには、乙骨特級呪術師の訓練にはぴったりだと」

     今日の担当でもある補助監督は、気の知れた伊地知だ。他人行儀なところはあるが、役割に線引きをしているのだろう。名前の後に等級を付けて呼ぶのも、彼なりに敬意を表しているからだと聞いた。そんな伊地知から告げられた内容には眉根を寄せ、意味がわからず首を傾げる。おまけに五条が絡んでいるのだとしたら、不吉な予感しかしない。嫌々ながらも顔には出さず、話に耳を傾けることにした。
     ターゲットは至って普通の呪いだが、特殊な体質をしているのだと言う。調査ですらも全貌が掴めず、危険ではないにしても乙骨にお鉢が回って来たのか。形と呪力の質を変化させられるなど、一風変わった呪霊である。強さも術式も不明のまま、苦労しそうだと肩を落とす。
    すでに帰りたい、と思ったのは秘密。呆けていたのが悪かったのか、伊地知には「乙骨君?」と心配そうに尋ねられ、「続けてください」と冷静さを繕った。聞けば聞くほど、疑問と確信を抱く。

    「カメレオン……」
    「みたいな呪い、です。姿や形を変えるだけではなく、呪力の質まで変わるのでそう呼んでいます」
    「それって本当に準一級ですか?」
    「術式か体質かはっきりしないので何とも言えませんが、攻撃性には欠けるようです」
    「これ、先生が仕組みましたね? 伊地知さん、責めませんので教えてください」
    「……はい。五条さんが視察し、乙骨君に任せるようにとのことでした」

     小さく悲鳴が上がったのは、感情を抑えられず呪力が溢れたせいか。伊地知には悪いことをしたと思いながらも、五条に対して微かな憤りを覚えていた。

    「……あの人、本当意地が悪い」
    「それでは帳を下ろします。ご武運を」

     ふと漏らした不満には、伊地知も同じことを思ったのだろう。肯定も否定もされずに印を結ばれ、早急に帳が下ろされる。心の準備なんてものはなく、広がる夜にざわめく大地。この件について問いただすのは帰ってから、まずは呪いを対処するのが先決だと刀を抜く。
     有象無象と湧き上がる低級の呪霊は呪力で弾き飛ばし、本命を探すも見つけられない。コロコロと力が変化するせいで、捕らえたと思った瞬間には逃げられる始末だ。等級としては二級くらいなのだろうが、取り込んだ呪霊の性質を利用しているのか。本当にカメレオンのように擬態が上手く、己の呪力感知の雑さが露呈されている。

    「すばしっこいなぁ……この一帯吹き飛ばしたら怒られる、よね?」

     まるでいたちごっこを繰り返しているようだ。繊細さがないわけではないが、相手に合わせるなど面倒極まりない。いつまでも終わりの見えないやり取りに嫌気が差し、大胆な発想が浮かぶも断念。伊地知の青褪めた顔が頭を過った。
     強大な呪いが傍にいたからこそ、呪力感知は苦手だ。殺気や敵意と言った空気には敏感だが、今回の呪霊には向いていないのだろう。突破口が見つけられず、無駄な時間だけが流れていく。被害は最小限に、悩み抜いた結論はただ一つ。

    「ちょっとだけ、本気出しちゃおうか」

     こまごまとした呪いは粗方片付いている為、残すは本命だけとなった。追って躱されるのならば、退路を塞いでしまえばいいのだ。爪先を軽く地面へと打ち付け、帳全体に薄い呪力の膜を敷く。作り上げるのは、升目が描かれたフィールド。想像通りの俯瞰した光景が頭の中へと広がり、口元を緩めながら目を細める。呪霊の位置は座標で把握するだけ、形を変えようが、隠れようが、この場にいる限り乙骨からは逃げられない。
     思い付きにしては上出来だと思う。集中力と神経を要するのは難点か。反応を示したのはすぐのこと、鬼ごっこは終わりだと予備動作なく詰め寄った。再び姿を眩ます猶予は与えない。呪力を込めた刀で一閃。呆気なく呪霊は雲散していく。手応えの無さには拍子抜けだが、そんな相手に梃子摺った自分の力不足を痛感。どっと疲れが押し寄せてきたのは、相性が悪かったせいか。
     帰りの車ではいつの間にか微睡んでいたらしく、眉を下げた伊地知に起こされた。マンションの前まで送ってくれたのは、五条との関係を知る彼の優しさだろう。お礼を告げてエントランスへと入り、長いようで短いエレベーターに乗り込む。
     目的の階を告げる軽快な音。一部屋しかない最上階のフロアの静かな廊下を歩き、玄関先で足を止める。扉を開ければ待っていてくれるのだろう。戻って来たことなんて、五条には筒抜けのはずだ。朝の清々しさはどこへやら、重い気持ちのままドアノブを捻る。

    「おかえり」
    「ただいま戻りました」
    「時間掛かったみたいだね」
    「先生のせいです。最悪でした」
    「いい鍛錬になったでしょ? 呪力のコントロールは上手いのに、憂太は面白いなぁ」

     どこが、と言い返さなかっただけ大人か。壁に寄り掛かっていた五条が身を起こし、真っ直ぐと伸びて来た手。耳朶をなぞるように指を滑らされたかと思えば、近付いてきた唇が頬に触れた。一瞬でもキスをされるかもしれない、と期待した自分が恥ずかしい。
     ふっと顔を綻ばせながら、「手を洗っておいで」と一言。何事もなかったかのように、五条は踵を返していく。その背中を眺めながらズルズルと座り込み、高鳴る鼓動に胸元の服を握る。

    「もう……何がしたいんだろ」

     立ち上がれず蹲っていれば、名前を呼ばれ肩が跳ねた。己の行動などお見通しと言うわけか。翻弄されるのは日常茶飯事のはずなのに、今日はやけに調子が狂う。そんなこともあってぼんやりとしながら刀袋を部屋に置き、手を洗って向かったリビング。家庭的な匂いにようやく、意識がはっきりとしてきた。
     朝食の豪勢さもさることながら、夕食も負けずこだわられている。肉じゃがとサバの味噌煮は、スーパーの総菜ではないだろう。ほうれん草の胡麻和えに、みそ汁まで用意しているくらいだ。五条とて任務や仕事があったはずでは、と思いながらも彼のハイスペックさを実感する。

    「ささ、どーぞ」
    「先生って、魔法使いですか?」
    「いいえ。普通の最強ですけど? え、どうしてそうなったの?」
    「だって忙しいはずなのに、朝も夜も手作りなんて……」
    「これは僕がやりたくてやってんの。憂太が大好きだから、美味しい物をいっぱい食べて欲しいんだよ」
    「胃袋まで先生の虜ですね」
    「それはそれは、嬉しい限りで。冷めない内に、食べようか」

     ほんのりと甘い味噌の味付けにご飯が進む。煮崩れを起こしていないじゃがいもやにんじんは、食べ応えがある。野菜は好きだがキャベツに偏るからこそ、こんな風に出されるのはありがたい。みそ汁は身に染みるようで、具材が少なめなのはおかずが多いからか。デザートと言って出されたのは、高級そうなお菓子屋のプリンだった。
     すっかりお腹は膨れ、眠気が襲ってくるもやることがある。洗い物を二人で済ませ、溜まっていた報告書を纏めていく。適当でいいんだよ、なんて五条は言うが、乙骨の性格ではそうもいかない。正直に綴ることも出来ず悩みながら、やっとのことで書き終えた紙の束を揃えて息を吐く。
     四肢をだらりとさせながら、ソファーの背凭れに全身を預けて見上げた天井。そっと瞼を閉じようとすれば、視界いっぱいに蒼穹が広がった。

    「さて問題です。今日は何の日でしょう」
    「これと言って思い付かないんですが」
    「憂太はもっと世の中に目を向けなきゃダメだよ」

     そう言って上から、降り注ぐようなキスが落ちてくる。舌を捻じ込まれ、咥内を弄られること数秒。ちゅぱとリップ音を立てて唇が離れ、五条との間に透明な糸が引いた。急な出来事には唖然。にんまりとした笑みに、荒い呼吸を繰り返す。
     お風呂行ってくるね、と軽く告げられ、目元を覆うように乗せた腕。ああ――本当に性質が悪い。傍に置いていたスマホで調べ、理由を知ってさらに赤面する。

    「そう言うことか……」

     それならば乙骨も黙ってはいられない。烏の行水の如く、五条は十分程度で戻って来た。隣に座って水を呷り、端末を確認し終えたところを狙って服を引っ張る。驚きに瞠られた目、両手を頬に添えながら唇を奪う。掠める程度のキスは初心すぎたか。

    「今日が何の日かわかった?」
    「キスの日、ですよね?」
    「じゃあ今のは、わかった上での憂太からの仕返しか」
    「やられっぱなしではいられませんから」
    「可愛くて可愛くない! 僕に食べられたいの?」

     獲物を捕らえたような目をする五条には、間髪置かずノーを突きつけてやる。キスはいいけど、それ以上は駄目。明日は学校で、久しぶりに友人たちとも会えるのだ。楽しみにしているのだから、不調を抱えて登校したくはない。そう伝えれば残念そうな表情をしながらも、「また今度ね」と言って何回目かもわからない口付けを交わした。
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    DONE一日遅れたのですが、呪0地上波放送記念で!
    WEBオンリーで発行した「揺蕩う白銀」の一章部分を少し削って、これだけでも読みやすいようにしてみました。(本編に関わりありそうなとこ消してます)
    揺蕩う白銀「憂太の事が好きだよ」

     雪が解けてもまだ、肌寒さの残る季節。桜の木にようやく、蕾が見え始めた頃。呪術高専に来て二度目の春が、もうすぐ傍まで迫っていた時だ。
    校門の前で出迎えてくれた五条に、開口一番に告げられた言葉。理解が追い付かず、踏み出そうとした足が止まる。肩からずり落ちかけた刀袋の紐を握り締め、「えぇぇ」と心の中で叫ぶ。
     特級と言う未知の領域に踏み入れて早々、次から次へと与えられる任務に呪術界の闇を見た。里香がいた時とは違って、己の意思と力で上り詰めた場所。決して楽な道のりではなかったが、その後の洗礼も無茶苦茶なものだ。
     北から南、西に東へ。呪いが出現すれば、駆り出される日々。五条が毎日のように、不満を漏らすのも無理はないか。低級の呪霊だろうとお構いなし、どんなことが起ころうとも一人で事足りるのが特級呪術師である。そのおかげでさんざん振り回され、三日ぶりに帰って来た乙骨には刺激が強すぎた。
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    DONE呪霊退治したり、呪力譲渡したりするお話。五条にとっての乙骨とは。
    ※付き合ってはいないので、五乙未満みたいな感じです。
    切り札は手の中に 内気なタイプであることは自覚していた。否、里香を失う前までは至って普通の、活発な子供だったと思う。肺炎をこじらせて入院したこともあるけれど、外で遊ぶのが大好きな男の子。病院であの子と出会ったのは、運命だったのかもしれない。なんて、あの時は考えもしていなかったが。一緒に居られるのが楽しくて、嬉しくて、こんな日々がずっと続くと思っていた。
     突如として襲った受け入れ難い現実が、自然と心を閉ざすきっかけとなってしまったのかもしれない。学校と言う小さな社会にすら馴染めず、周りと壁を作ったのは己の意思。幼い乙骨が背負ったのは、手に余る強大な力だ。
     激しく雨粒が窓を叩く音と、教室内に漂う鉄錆のニオイ。気弱だった自分は、嗜虐性を持つ人間にとって恰好の的だったのだろう。恍惚とした表情を浮かべながら詰め寄られ、恐怖を抱いたが最後。乙骨の制止も空しく、同級生を掴んだのは人ならざる手。下劣な笑い声は途絶え、悲鳴が掻き消されていく。そこからの記憶は曖昧で、ただただ壊れた機械のように謝っていた気がする。
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     突如として襲った受け入れ難い現実が、自然と心を閉ざすきっかけとなってしまったのかもしれない。学校と言う小さな社会にすら馴染めず、周りと壁を作ったのは己の意思。幼い乙骨が背負ったのは、手に余る強大な力だ。
     激しく雨粒が窓を叩く音と、教室内に漂う鉄錆のニオイ。気弱だった自分は、嗜虐性を持つ人間にとって恰好の的だったのだろう。恍惚とした表情を浮かべながら詰め寄られ、恐怖を抱いたが最後。乙骨の制止も空しく、同級生を掴んだのは人ならざる手。下劣な笑い声は途絶え、悲鳴が掻き消されていく。そこからの記憶は曖昧で、ただただ壊れた機械のように謝っていた気がする。
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    yuino8na

    MOURNING自分が書きたかっただけの、半獣人(獣族)なごじょさとる。
    適当設定。半獣人な五と人間の乙。
    本当に自分が好きな設定を詰め込んだだけです。気が向けば続きます。
    ・呪術とか呪霊とか一切出てきません
    ・乙は成人してます
    ・里香と同棲していました(里香自身は出てきません)
    ・キャラいろいろ崩壊しています
    ・自分の書きたい設定を自由に詰め込んでいます。やりたい放題です
    空に誓い 今一番不幸なのは自分なのでは。そんな感覚に襲われる日がある。

     乙骨憂太にとってはこの一週間がそんな日々だった。
     幼い頃に両親を亡くし、頼れる身内もなく施設で育った。そこで出会った女の子と恋をして、ずっと一緒に過ごした。幼いおままごとのように思われていた恋も、五年十年と続けば結婚という恋のその先も見えてきた。
     週末には式場の見学に行こう。そんなこれからの話をした翌日、最愛の婚約者であった折本里香を事故で亡くした。
     葬儀や身の回りでしばらく仕事も休んだが、それでも生きている以上仕事には行かなければならない。一週間ほど休みを取って久しぶりに仕事に行くと、上司から「帰って休め」と言われてしまった。
     なんでもいいからなにか食べて寝ろ、と言われてそういえば最後に食事をとったのはいつだろうかとぼんやり考えたが、思い出せない。食べるのも眠るのも生きるために必要な行為だ。それを自分からする気にならなかったことは、なんとなく覚えている。
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