オメガバどひふ※
初めて巣作りをした一二三が招き入れてくれた巣は、外界から守られたような深い安心感があった。一二三匂いも篭って逃げていかない。
独歩は一二三の匂いを取り込むように深く吸い込むと、意識がとろとろ溶け始めたのが分かった。早くΩを、番を、一二三を抱きたいと、目の前の一二三を勢いよく引き寄せ搔き抱いた。
「んぐっ、独歩……嬉しい。あ、ふふ、先にお疲れ様だったな」
一二三は気付いたように独歩の首元に擦り付いた。そこにはまだかっちり締められたネクタイが。
独歩はまだ帰ってきたばかりで、外の様々な匂いが入り混じって付着していた。 取引先の病院の消毒の匂い、昼に食べたお弁当の匂い、デパ地下のお惣菜、何種類かのアロマ、都会の喧騒を生み出す行き交う車の排気、走って帰ってきた汗の匂い。
一二三はスンスンと嗅ぎ分ける中、汗の匂いに反応して腰がびくりと跳ねた。
「どっぽ……、もっと、もっとぎゅってして」
一二三の体温が瞬間的に上がる。巣の中が湿り気を帯びていよいよ繋がる時が間近なのを物語っていた。
早く抱きたいのはやまやまだが、こんなに匂いが混ざっていては気が散ってしまう。独歩はシャワーを浴びてくる、と一旦一二三から離れた。
「え、う〜……んん。分かった。早くな。独歩以外の匂い全部落としてきて」
素直に離してくれたので、まだヒートが深くなってないことが分かる。この後数時間もすれば一二三は仕事中の精悍な顔付きとも、普段の朗らかな顔とも違うΩの顔になるのだ。独歩はそれが堪らなく愛おしい。一心に自分を求めてくれるのだから。
いつもは悲観的な独歩も、ヒートの時だけは自分が必要とされていると心から感じることができる。
一二三は独歩じゃなきゃダメで、独歩も一二三じゃなきゃダメで。
シャワーの間に独歩はふと気になった。
(どうして巣作りなんてしたんだろう)
一二三は今まで一度も巣作りをしたことがない。愛情表現の一種だと言われているが、巣作りをするかしないかは二人にとって大した問題ではなかった。
番になって十数年たってさらに愛情が深まってきたという事なのだろうか。それはそれで嬉しいけれど、何かきっかけがあって巣作りしたのなら、そのきっかけがなんのか気になったのだ