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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    MondLicht_725

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    夏五版ワンドロワンライ第79回お題「境界線」お借りしました。
    高専1年生の頃の夏五。

    #夏五
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    ##夏五ドロライ

    夏五版ワンドロワンライ第79回お題「境界線」 これが境界線だ、と五条は言った。
     そこら辺から拾い上げた木の枝で、五条と夏油の間に引かれた線。高さもなければ深くもない。一歩踏み出せば簡単に越えることができる。しかし言われた途端に、夏油の足は動かなくなった。
     五条の背後に聳え立つ、半分朽ちた建物を見上げる。緩やかだがだらだらと続く山道を、2時間もかけて登ってきて、ようやく辿り着いた目的地だ。
     この先に、遂行すべき任務がある。しかし。
    「別に、俺ひとりでも平気だし、ここで待っててもいい。今回行けなかったからって退学にはなんねぇだろう。生涯呪霊だけ祓った呪術師だっていっぱいいる」
     だから無理はしなくていい。決めるのはお前だ。色の濃いサングラス越しでも、五条のあの青い瞳が夏油を窺っていることはわかる。
     選択を、急かされてはいない。しかし焦りなのか興奮なのか、急激に喉の渇きを感じた。


     俺は毒らしい、と五条が口にしたのはつい3日前のことである。
     酒入りとは気付かずに、止める間もなく夏油が貰ったチョコレートをひとつ口の中に放り込んで、そのたった一粒で箍が緩んだ。
     普段よりも笑みも口も軽い。白い頬を染めてヘラヘラ笑いながら覚束ない声で口にしたのは、やけに物騒な内容だった。
     ある者にとっては即効性の、ある者にとっては遅効性の、でもどっちみち命を奪うことには変わりない。遅かれ早かれ、俺の近くにいる者は毒にやられて、死ぬ。だから長いこと側にいる愚者はいない。家族でさえも。
     ――お前は、どうかな。
     夏油は、なんと答えていいかわからなかった。どっちみち、チョコレート一粒分のアルコールといえども、酔っている最中の出来事はまるで覚えていないのだと知っている。
     私は――――したいな。ぼかした言葉を、次の日頭痛に苦しむ五条はやっぱり覚えていなかった。


     あのときとは違い、今は誤魔化せない。すぐに答えを決めなければ。
     建物からは、複数の呪力を感じる。しかしアレらは、呪霊ではない。あそこにいるのは。
     なぜ五条は、こんなにも迷いがないのだろう。浮かんだ疑問には、すぐに答えが出る。
     それは彼が、五条悟だからだ。呪術界の御三家の嫡男。数百年ぶりに現れた、稀有な術式の持ち主。
     生まれたときからこの世界にどっぷりと浸かって、生まれたときからコレが当たり前だった男。だから、どんなに遠くても、どんなに強くても、文句は言いながらも祓うことを躊躇しない。
     そして。
     処刑対象となった呪詛師を手にかけることも、迷わない。
     夏油とは、生まれ落ちた世界が異なる。夏油はマジョリティの世界から、このマイノリティに足を踏み入れたばかりだった。
     呪いが何たるかを学ぶこと。呪霊を祓う術を身につけること。そのために鍛錬も欠かさないこと。
     高専生でありながら呪術師として任務が与えられることは入学前から伝えられ、そのせいで命が脅かされる可能性があることも了承した上で古めかしい門をくぐったのだ。ある程度の覚悟はあった、はずだった。現にそのあと、実地訓練も含めて祓除も行った。大なり小なり怪我も負った。
     しかし、今までの覚悟なんて、もしかしたらちっぽけなものだったのかもしれない。
     一度大きく息を吐く。迷って、悩んで、結論を出す。いや、本当は心はとっくに決まっていた。
    「一緒に、行くよ」
    「――本気か?この先に行ったら、二度と戻れねぇぞ」
    「わかってる」
     足元の、少し歪んだ境界線を見る。もう一度息を吐いてから、一歩向こう側へ、五条の方へと踏み出した。
     一歩、二歩、三歩。越えてしまえば徐々に緊張はほぐれ、体が軽くなっていく。
    「…本当にいいんだな?」
    「もちろん」
     さあ、行こう。夏油から、促すように肩を叩く。しばらくまたジィッと見つめていたが、やがて口の端を吊り上げ、笑みを見せた。とても嬉しそうに見えるのはきっと、自惚れなのかもしれない。
    「じゃ、とっとと片付けてさっさと帰ろうぜ。お前と2人なら、すぐ終わる」
     肩を並べて、建物へ向かう。恐怖は、なかった。










     たとえ毒でも、私は君のそばに居たいな。人々の呪いを飲み込む私には、もしかしたら君の毒も効かないかもしれないしね――――
     このときの青かった私は、心の底からそう信じていたのだ。
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