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    まめだぬき

    @mamedanuki__hp

    書いてはみたけど支部に投げるのは考えちゃうものを置いておきます。

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    まめだぬき

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    ※年齢操作、同棲、暴力表現注意
    よその劇団でいじめられる司くんの話です。
    年齢操作、及び今回は暴力表現が含まれるので、苦手な方はご注意ください。

    可哀想な司の話 2呼び出し音を鳴らし続けるスマホを耳から離し、類は通話終了のボタンをタップした。司が類からの電話に出ないなんて珍しいが、確か日本時間だと夜中の11時を過ぎていたと思うし、疲れて寝てしまったのかもしれない。

    「でもさっきまで起きていたのに……」

    少し不満に感じながらも、仕方ないかと割り切る。後でメッセージを送ればいいやと小さくため息をついた。
    類は2、3日に一度、必ず司に電話をしていた。単純に司の声を聞きたかったし、勉強のためとはいえやはり一人ぼっちで海外に来るのはいささか寂しくもあったのだ。司から連絡してくることはほとんど無かったので、いつも類からメッセージを送ったり電話をかけたりしていた。
    ついさっき、今現在お世話になっている劇団の座長から、再来週は色々なショーを観に行こうと半ば強引に誘われた。確かに、他のショーを観た方が学べることは増えるし、座長の顔の広さもあってか舞台裏にも入れてもらえるらしい。その話を類が断る筈がなかった。
    しかしそうなると、いつものようにゆっくり時間をとって司と話せる機会は少なくなるだろう。観たショーの内容や演出、舞台装置などをまとめて自分用に資料を作りたいし、もしかすると新しい演出案が浮かぶかもしれない。時間には限りがあるし、記憶力だって限界があるから、その日のうちにある程度形にはしたいのだ。
    突然連絡が無くなったら司を心配させてしまうかもしれないので、それを伝えたくて電話をしたが、数分前まで話していた筈の司はなぜか一向に電話に出なかった。類はなんとなく不審に思いながら、通話履歴ばかりが残るトークルームを見ていた。まぁ、あまり早い段階で伝えても変更になったり忘れてしまうこともあるだろうから、もう少し後で話せばいいか、と心の中に広がるモヤモヤに蓋をした。

    ***

    財布が無い。司は鞄の中を何度も探して、中に入っている荷物も全部出してみたが、やはり見つからない。確かに持ってきた筈だし、スタジオに来る前にコンビニに寄った時はあったのだから、家に置き忘れているという訳ではないだろう。
    昼休憩の間に水を買いに行きたかったが、仕方ない。水筒も、午前の練習中に中身が全部なくなっていた。もちろん司が飲みきった訳ではないし、なんなら数口程度しか飲めていない。勿体ないことをしたな、と考えながら、司は鞄から昼食を取り出してスタジオから出た。
    いつも決まって昼食は誰もいない場所で食べている。近くのレストランやカフェは劇団員がいるし、スタジオ内は飲食禁止だ。ビルとビルの間の薄暗い通路にぽつんと設置してあるベンチが、司の定位置だった。
    今日は珍しく寝坊してしまったから、朝の残り物を適当に食パンに挟んでサンドイッチを作ってきた。サランラップに包まれたサンドイッチは、パンにマヨネーズを塗らなかったからかトマトとレタスの水分を吸ってベチョベチョになっていて、何となく食べる気が失せてしまう。
    それでも食べなければ午後の稽古がもたないからと、ラップを剥がし口を開けた時だった。

    「天馬さん」

    びくっと肩を揺らした司は恐る恐る声のした方を見る。そこに立っていたのは、一緒に練習をしている司より少し若い役者だった。
    彼は人の良さそうな笑みを浮かべると、ポケットからすっとある物を取り出した。白地に淡い紫のラインが入った長財布。司の目が大きく見開かれる。間違いなく、失くしたと思っていた司の財布だった。

    「これ、うちの団員が持ってました」

    「……え、」

    「天馬さんのだと思って急いで取り返したんですけど、中身は既に抜かれてて……すみません」

    震える手で受けとり中身を確かめると、彼の言った通りお札は全て抜かれていたが、カード類や小銭は残されていた。ほっと息をつく。
    しゅんとした表情で眉を下げる姿がどことなく類と重なる。司は彼の言葉を反芻して、ようやく理解できた。
    目の前の彼は、彼だけは、自分の味方でいてくれる、と。

    「わざわざ、取り返してくれたんですか……?」

    「はい」

    「なんで……」

    「だって、人の物を盗むのは良くないでしょう?」

    「ぁ、えっと、……オレ、ここで嫌われてると思うんですけど……」

    「まぁ確かに、あんまり良い扱いは受けてないと思いますけど、少なくとも俺は、天馬さんのこと役者として尊敬してるので!」

    にっこりと笑った彼の顔が眩しくて、司は思わず目を逸らした。初めて、仲間ができた。その喜びと安心感で、じわりと涙が滲む。すび、と鼻を啜りながら、司は少し左にずれて相手の座るスペースを作った。彼もまた、手にコンビニの袋を提げていたからだ。

    「良かったら、一緒に食べませんか?」

    「良いんですか?」

    「はい。実は、一人でいるの少し寂しくて」

    苦笑する司の隣におずおずと腰掛けた彼の横顔からは、嫌がらせをしてくるような人たちとは違う優しい雰囲気が感じ取れた。ずっと孤独で、一人で耐え続けていた司にとって、これほど心強いことはない。
    さっきまでは食べたくないと思っていたサンドイッチも、心なしか美味しそうに見えた。司は彼と練習中の舞台の話をしたり、気になっているショーの話をしたりして、約一ヶ月ぶりに食事が楽しいと思えたのだった。

    ***

    一度親切にされるとそこから心を開くのはあっという間で、いつの間にか司たちは二人で食事をするのが当たり前になっていた。他愛もないお喋りをしながらリラックスして過ごせる数少ない時間が、司は大好きだった。
    足を引っ掛けられて司が盛大に転んだ時は、大丈夫ですか?と休憩時間にこっそり聞きに来てくれたし、面白半分で髪を切られてしまった日なんて司の代わりにその場で憤慨してくれた。流石にやり過ぎだ、これは笑えない、と怒りを露わにして叫ぶ彼の姿は、少なからず司に勇気を与えた。自分のために怒ってくれる人がいるのは、なんて嬉しいのだろう。
    しかし、彼が司の味方についたと分かると、今度は彼に見えない場所で嫌がらせを受けるようになってしまった。暗転中に思い切り足を踏みつけられたり、トイレに入ったらドアを閉められしばらく外に出られなくなったり。トイレに閉じ込められた時は、災害用に備蓄してある2Lの水のペットボトルがドアの前に数十本置かれていて、重たい扉を無理やり押し開けて脱出したのだ。稽古に遅刻して監督には怒られるし、翌日は筋肉痛になるしで散々だった。
    それでも昼食時には、彼は毎回「何かされたならすぐ教えてください」と言ってくれた。何度か相談もしたし、主犯格の役者に彼が声を掛けている様子も見た。いよいよ普通に稽古をする日々が送れるかもしれないと希望を持つ一方で、やはり今だに話しかけてくれるのは彼以外に誰もいなかった。
    その日もまた、いつものベンチで二人で昼食を食べて、喋りながら彼の食後の一服が終わるのを待っていた。彼がタバコを吸うと知ったのはつい最近で、それまでは司がストレスに感じるかもしれないから、と控えていたらしい。なんて気の遣える人なんだとつくづく感心した。
    司はビルとビルの間から見える空を眺めながら、自嘲的に呟く。

    「無視されるのも、何だかもう慣れてしまった」

    「やめてくださいよ!まだまだこれからじゃないですか!」

    「ははっ、そうだな。まだ挽回できるかもしれないしな!」

    そう言って彼の顔を覗き込んだ司は、ひゅっと息を呑んだ。今までの彼とは全くの別人と言っても良いほどどす黒く曇った瞳が、ゆらゆらと揺れていた。
    そういえば、今日は灰皿は持って来ていないのか、なんて呑気すぎる考えが脳裏をよぎる。足下に灰が落ちていた。彼は白い煙をふーっと長く吐き出すと、真っ直ぐ司の目を見据えた。

    「天馬さん、舌、出してください」

    「は……?な、何で、」

    「いいから出せよ」

    ぶわりと背筋が粟立つ。圧倒的な恐怖を前にして、早く逃げなければと本能が警鐘を鳴らす。それに反して足は情けなくガクガクと震え、立ち上がることすら叶わなかった。

    「口、開けてくれません?」

    がっしりと顔を掴まれ、薄らと口が開いてしまう。爪が食い込んで、頬はヒリヒリと痛み始めていた。必死に顔を逸らそうとするが、掴む力が強すぎて顔を動かせない。
    目の前の相手はタバコを口に咥えると、司の顔を掴む手はそのままに、もう片方の手で司の口をこじ開け舌を無理やり引きずり出した。

    「じゃあ、ちょーっと我慢してくださいね」

    練習中とは全く違うくぐもった声に、体がガタガタと震え始める。顔を掴んでいる手がゆっくりと離れていった。怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
    彼は空いた手で咥えていたタバコを持つと、それを司の舌に近付けてにたりと笑った。
    瞬間、ジュゥウウっと音を立てて舌にタバコが押しつけられる。

    「っ、ぁ、ああ!」

    「煩いんで黙ってください」

    熱いなんてものじゃない。尋常じゃない痛みに脳を焼かれていく感覚。喉からは自分の声とは思えない汚い叫び声が止まることなく漏れ出して、両目からは狂ったように涙が溢れる。
    火から逃れようとしても、相手の爪が舌に食い込んでいてなかなか離してくれない。口の端からだらだらと涎が垂れる。

    「あ、火消えてる」

    ぽつりと呟く声は放心状態の司の耳には入っていなくて、ぐりぐりと舌先にタバコを押し付けた後、彼は素直にタバコを司の舌から離し、舌を掴むのもやめた。あまりの痛みに司はその場に蹲り、両手で口を押さえる。
    ハッ、ハッ、と短い呼吸をしながら、一向に引く様子を見せない痛みに耐える。相手を見ることなんてできなかった。ずび、と大きな音を立てて鼻を啜る。

    「じゃあ俺スタジオに戻るんで、適当にこの辺片付けといてください」

    いかにも話すのが面倒といった声が聞こえた後、スタスタと歩いていく音が響いた。
    仲間なんかじゃ、なかった。自分を助けてくれる訳じゃなかった。信じた自分が馬鹿だった。きっとこの痛みも、彼を信じた代償なのだ。自分なんかが、誰かと仲良くしてはいけなかったんだ。結局、オレは独りぼっちなんだ。裏切られたんじゃなくて、最初から味方なんていなかったんだ。
    スマホが聞き覚えのあるメロディーを流し始める。類からの電話だ。一瞬ポケットに伸ばしかけた手を、司はゆっくりと引っ込めた。今は類と楽しく喋れるような気持ちじゃないし、何より舌が痛くて話せない。
    司は荒くなる呼吸を落ち着けるように深く息をする。いつの間にか着信音は止まっていた。ポケットからスマホを取り出し、電源を切る。プツンと音を立てて真っ黒な画面のまま動かなくなったスマホを持ち、ふらふらと立ち上がった。
    れんしゅう、と呟いた筈の口からは、ひゅぅ、と息の漏れる音しか聞こえてこなかった。それでも司の耳にはしっかりと、練習、と普段のように明朗に響く自分の声が聞こえていた。

    ***

    『それで、この時間に司センパイに電話すればいいんすか?』

    「うん。無理のない範囲で構わないから、頼まれてくれないかい?」

    『まぁ別に……こんなパンケーキ食わされたら断るモンも断れないっつーか……』

    電話越しにぶつぶつと呟く彰人の声を聞きながら、類はコーヒーを一口飲んだ。
    司と連絡がとれなくなってから、もうすぐ一週間が経つ。明後日から観劇三昧の一週間が始まってしまうので、しばらく連絡ができなくなるであろう類はなんとかして司の安否を確認したかった。電話をかけても電源が切られているらしく繋がらず、メッセージを送っても既読が付かず、もしやこっちに来ている間に連絡先を消されたかと不安になった類は、日本にいる彰人に人気で予約が取れないと噂になっているカフェのパンケーキチケットを送り付け、半強制的に味方につけて自分に協力させたのだった。
    もし司が自分以外の人間からの電話に出たのなら、もちろん寂しいが司は生きていると知ることができるので、自分のメンタルを犠牲にしてでも頼む価値があると類は考えた。冬弥にも頼もうかと思ったが、幼少の頃から司を慕っている冬弥に「司くんと連絡が取れないんだけど」なんて伝えたら彼の方が倒れてしまいそうな気がしたので、若干怖くなって彰人に声を掛けた。面倒だなんだと文句を言っていた彰人も、類の話を聞くうちに「まぁ、電話するだけなら」としぶしぶ引き受けてくれた。
    朝、昼、夜と三回程電話を掛けてもらって、どこかで司が出れば一安心だし、出なければ何か問題があったと考えていいだろう。なんとか都合をつけて日本に帰るしかない。類は静かに深呼吸を一つすると、

    「それじゃあ、お願いするよ」

    とだけ伝えた。思ったより緊張していたらしく、硬い声が出たことに自分で驚く。

    『分かりました。何日かやってみて、また連絡します』

    スマホ越しに聞こえてきた彰人の声も、どことなく緊張感を孕んだ声だった。そっと通話を終了させて、類は大きくため息をついた。
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    まめだぬき

    DONE※派生、トルペの不調、キャラ崩壊注意

    団トルです。不穏にしたかったのですが、団トルトラップに引っかかり見事にいちゃいちゃしだしました。
    派生、トルペの耳が片方聞こえない描写がございます。苦手な方はご注意ください。

    長いことお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。マシュマロでも依頼をいただいていたので、申し訳ございませんがこちらのお話で回答とさせてください。
    団トル子供の頃、高熱で倒れたことがあった。心の底からピアノを楽しめていて、まだ世の中の残酷さを知らない無垢な生き物だった。夜中にもかかわらず両親が必死に駆けずり回り、大金を叩いて医者を呼んでくれたおかげで、トルペは一命を取り留めた。
    しかし、代償は大きかった。ピアノを弾くために必要な聴力を、半分失った。左耳が聞こえなくなったトルペは、呆然とこちらを見つめる両親のありありと絶望を読み取れる顔を見て、泣けなかった。悲しい気持ちもあったし、この先片側では何も聞き取れない一生を、神様を、恨んだ。だが、自分以上に悲しそうな顔をする両親を前にすると、自分にはそんな風に泣く資格は無いと思った。お金を払って医者を呼んでくれたのは彼らであって、自分ではない。それからトルペは泣くのをやめた。
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