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    はじめ

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    はじめ

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    面あた 6話補完
    くっつきそうでくっつかない面あた

    白ラン姿の面堂くんがあたるくんの部屋にいる姿にかっとなりました。
    きっとあたるくんの部屋に戻って来るんだろうな。

    #面あた
    face

    冷えたからだはきみのもの 押し入れから流れ込んできた冷気のおかげで部屋はよく冷えていた。薄曇った窓ガラスは残念ながらもすっかり見慣れた光景で、これがいつまで続くのかと投げやりな気持ちにもなる。いたるところに出来た氷柱を見回しながらくしゅん、とくしゃみをひとつ。なんとか登校はしたが、あたるの風邪はまだ、治りきっていなかった。
    「…寒いのぉ」
     鞄を机の上に放り投げ、寒さをしのぐために制服の上から赤い半纏を羽織った。陽は沈みきっていないとはいえ、もうずいぶんと冷える。まるで冬の夜みたいに。
     押し入れが使えないので、部屋の隅に畳んでおいた布団を敷いていると、頬を撫でる風の冷たさが増した。不意に押し入れの奥の方から、ざっざっとよく冷えた冬道を踏みしめる独特の靴音がして、誰かが近付いてくるのが分かった。
     誰だろう、と頭をひねったタイミングと、押し入れが開いたタイミングは全く同じだった。ぐしゃ、とおよそ押し入れが開く音とは思えないようなひしゃげた音がして、思わず顔を上げるとくちびるを青くした面堂がいた。
    「………お前、そんなところでなにしとるんじゃ」
     呆気に取られたとはこのことだろうか。白い制服に身を包んだ面堂が、いまにも死にそうな顔で突っ立っている。素肌の白さに加え、身に付ける制服までもが白いので、余計に冷ややかに見えた。
     あんぐりと口を開けるあたるをよそに、面堂が泣きそうな声と顔で呟いた。
    「………ようやく戻ってこられた」
     あっと言う間もなく、あたるが敷き掛けていた布団にダイブをする。あたるよりも体格の良い面堂の体が布団に沈んでいくのを、ほとんど茫然と見つめた。
    「なにしとるんじゃ、おれの布団だぞ」
     言って頭をはたいて指先に触れた髪の毛の冷たさに驚いて息を飲んだ。手についた雪の欠片はすぐに水蒸気となって消えていく。指先を馴染ませるように擦ると、手が少し濡れた。
    「…ずいぶんと姿を見掛けんかったが」
     普段あたるが使っている枕をなんの躊躇もなく抱き締めながら、面堂が「聞くな」と悔しそうに呟く。聞くなと言われても、からかいたくなるのが性というもので。ずいぶんとくたびれた様子の面堂が不憫で面白かったので、あえて無言を貫いた。中途半端に敷かれたまんまの布団に、鼻につくあの面堂が横たわっているのは些か滑稽だった。
    「………ラムさんは?」
     面堂がまわりを窺うようにして、密やかな声で尋ねる。
    「ラムならおらんぞ。ちょうど、いま、噂の海王星に行ってるからな」
     本当のことなのでそう伝えると、「そうか」だなんて面堂があからさまにほっとするので笑った。入れ違いだな、だなんてからかってやれば、初めて良かったと思っている、と答えが返ってくる始末。思わず口角が上がった。
    「なんで?」
     理由を聞きながらあたるも布団の近くにあぐらをかいた。こんもりと山のように盛り上がった布団は震えている。
    「…あの星は、ああ、そうだな、繊細なぼくには合わない気がする」
    「あ、そう」
     それが知れただけでも良かったじゃないか。弱っている面堂を見ながら、ずいぶんと楽しい気持ちであたるも布団に横になった。面堂とは距離を取りつつ、布団の端っこに寝そべる。隣から伝わる冷気に、少し緊張する。背中越しに感じる面堂のからだはずっとずっと冷たかった。心なしか震えている気さえする。
    「…どうしておれのところには、こうも変なやつが集まってくるんだ」
    「なんの話だ?」
    「お前の、話だよ」
     あたるも眠かったし、何よりも風邪を引いている。敏感になった鼻をすすりつつ、まぶたを閉じた。夕方とはいえ日の明るいうちから、面堂とこうして二人、布団に寝そべることになるなんて。それもあたるの部屋で。寝返りを打つと肌が触れてしまいそうだったので怖かった。でも、少しだけ興味があった。面堂がどんな顔をするのか。いま、どんな顔をしているのかも。瞬間、手の先が触れた。あえて、触れるようにしたのかもしれない。布団が擦れて色っぽい音がする。面堂が纏う冷たい空気が擦れて、ふわりと冷気が舞った。
    「…なんだよ」
    「…べつに」
     背中合わせの体勢はそのままに、視線だけを動かすと、面堂と目が合った。刺ついた声にほんのわずかに、期待を込めた。水面下で滲む色を、普段は鈍感な面堂が汲み取る。
    「――体が温まったら帰れよ」
     消え入るような声も同じ布団にいる面堂には届いたようだった。もう一度寝返りを打つととうぜん、向かい合うかっこうになる。冷たい指先が触れてしまう。体温を分け与えたいと思えるような優しさも健気さも、あいにく持ち合わせていないのに、肌を合わせてぬくもりを重ねる。温まったらな、と面堂が生意気な顔で言うので、一生凍えたままでいろとなかば本気で思う。

     まぶたを閉じると疲労が蓄積したからだが布団に沈んでいった。登校できるまでに回復したとはいえ、くしゃみは出るし節々は痛いしどこか頭がぼんやりとする。
    「…な~んか知らんがいつもよりずいぶんと狭い」
     たっぷりと込めた嫌味は面堂には刺さらなかったようだ。向かい合うかっこうで横たわりつつ、ふんと鼻を鳴らす。
    「庶民の布団は狭くてかなわん」
     笑えるほどに反抗的な態度を見せるので、「蹴り出しても良いんだぞ?」と言い返して一悶着あった。そうこうしているうちに、せっかく温まった布団のなかに冷気が入り込んでくる。元も子もないじゃないか。
    「…あ~、さむい」
     肩先が冷えはじめたために布団を引っ掴んで被ろうとしたが、隣にいる面堂が阻止しているのかびくともしない。
    「なにすんじゃ、離さんかい」
    「ぼくだって寒い」
     上の歯と下の歯が合わさってかちかちと間抜けな音が響くので、ざまあみろとは思った。雪の世界から舞い戻ったばかりのからだはそれはそれは冷たくて、心なしか息も冷ややかで、それらに感化されるように、あたるのからだも凍ったように動かなくなる。
    「…さむい」
     とぽつり言って、おそらく無意識に面堂が距離を縮めてきた。少しでも暖を取ろうと、熱のおかげで火照ったあたるに近寄ってきたのだ。ちょっとびっくりして、ばれないように体をのけ反らせる。ごほん、と声色を整えながら、布団に顔を半分ほど沈めた。
    「…文句言うくらいならはよ帰れ」
    「…温まったら、と言ったのは貴様の方だぞ」
     ああ言えばこう言うやつだ。とはいえ、震えて動けん、と涙交じりの情けない声が聞こえてくるので、なんとか溜飲を下げた。
    「おまえのせいで寒いわい」
    「元はと言えば貴様が風邪なんか引くから」
    「勝手に家にやって来たのはお前らだろ」
     ひとしきり言い合ってから互い同時に身じろいだ。図らずも、よりいっそう、距離が縮まるので、堪らず息を止めた。実のところ先ほどから、指先が触れたままでいる。あまりにも面堂が寒そうにするので、わずかに触れた手と手の行き場を見失っていた。指先が擦れる。指紋の僅かな皺がすれて、なんともいえない気持ちになる。
    「…なんでこんな目に遭わなならんのだ」
    「…おれだって同じ気持ちじゃ」
     繊細な瞬きの動きが分かる距離で、互いの息が空気中で掠れる。触れたら終わるし、触れたら始まる。血の気の引いた面堂の頬は人形めいた儚さがあった。
     きっかけなんて、きっとなんだって良くて、むしろどうでも良いくらいが良かった。特別ななにかがあるなんて、“らしく”ないから。ちょっとだけその頬や髪の毛に触りたいな、と思った瞬間に腰を引かれた。
    「…なにすんじゃい」
    「…寒い、と言っとろうが」
     それは、クラスメイトが抱き合う理由になるんだろうか。おずおずとした慣れない手つきで腰を抱かれ、そのままあたるの肩の窪みに面堂の顎が乗る。頬が掠める距離で、キスが出来そうな距離で、心臓を戦慄かせながら、瞬きをする。自然と指を絡めると、もう面堂しか見えなくなった。
     その瞬間、下の階からあたるを呼ぶ母の声と、窓ガラスを叩く音が聞こえた。窓の外を見ればラムがいた。
     布団の中で面堂と向かい合って、声にはせずにどうする、と聞いた。触れるだけのキスすらも躊躇した面堂が、でも我慢出来ないといったふうに一度だけぎゅうとあたるを抱きしめる。それが答えだった。臆面もなく、ちぇっと舌打ちをする。素直に残念に思う。至近距離にある、どこかぶすくれた面堂の顔を見てから少し笑って、前髪をぐしゃぐしゃにかき撫ぜた。
    「………体、温まったか?」
    「………おかげさまで」
     互いの額がくっつく位置で上目がちに尋ねれば、面堂が不貞腐れた顔で呟いた。
    「…そうか、じゃあ、早く帰れよ」
     そう言って、手を離した。指先は、温かいのに、どこか冷たい。
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    はじめ

    DOODLE面あた
    名前を呼べばすっ飛んで来る関係。

    あたるくんの「面堂のばっきゃろーっ」を受けて0.1秒ですっ飛んでくる面堂くんも、呼べばすぐに来るって分かってる確信犯なあたるくんも大好きです。
    恋より淡い 校庭の木々の葉はすっかり落ちて、いかにも「冬が来ました」という様相をしていた。重く沈んだ厚ぼったい雲は今にも雪が降り出しそうで、頬を撫でる空気はひどく冷たい。
     期末テストを終えたあとの終業式までを待つ期間というのは、すぐそこまでやってきている冬休みに気を取られ、心がそわそわして落ち着かなかった。
    「――なに見てるんだ?」
     教室の窓から校庭を見下ろしていると、後ろから声を掛けられた。振り向かなくても声で誰か分かった。べつに、と一言短く言ってあしらうも、あたるにのしかかるコースケは意に介さない。
    「…あ、面堂のやつじゃねえか」
     校庭の中央には見える面堂の姿を目敏く捉え、やたらと姿勢の良いぴんと伸びた清潔な背中を顎でしゃくる。誰と話してるんだ、などと独り言を呟きつつ、あたるの肩にのしかかるようにして窓の桟に手を掛けている。そのまま窓の外の方へと身を乗り出すので危なっかしいたらありゃしなかったが、落ちたら落ちたときだ。
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