なにか 2人でベッドに潜るのにも慣れてきた。フェリシアーノのベッドは男2人で横たわるには少し狭すぎて、ほぼ向かい合って抱き合いながら寝つかねばならない。初夏も近く、密着した体もそろそろ汗ばみそうな時期だが、以前のようにソファを借りて別々に眠るつもりにはなれなかった。
いつものようにフェリシアーノの体を腕で包みこんで、たわいもない話に時折挟まれるキスを大人しく受けとめる。初めの頃こそ全く慣れなかったものだったが、今となってはさほど動じずにいられるようになった。
「ルートの目って綺麗だね」
「……そうか」
彼の唇から何気なく溢れる口説きにもある程度慣れてきた。いちいち動揺していては身が持たない。
「あ、信じてないでしょ!」
膨れっ面をするフェリシアーノを見て、自然と笑みが浮かぶ。
「俺、本当のことしか言わないんだよ。嘘つくと鼻が伸びちゃうからね」
「お前はピノキオか」
そうそう、俺実はピノキオなんだよ、と鼻先をつまんでふふんと笑う。呆れて顔を背けようとした俺の顎をそっと両手で捕まえて、目の前に持ってくる。柔らかな光を宿すアンバーの瞳にじっと見つめられ、一瞬息が詰まる。
「お前の目って夏の海みたいにさっぱり透き通ってて、その光を集めてそのまま宝石にしたみたい。俺が今まで描いてきたどんな水面よりも、どんな高価な宝石よりもきらきらしてる。きっと神様が世界の綺麗な光だけかき集めて作ってくれたんだよ。そんで、俺は美しいお前を描いて世界に遺すために使わされたんだ」
「やめろ小っ恥ずかしい」
あまりの恥ずかしさに背筋がもぞもぞする。よくもまあ、そんな歯の浮いた言葉をすらすらと。
「なんでだよ〜。あっほら見て、俺の鼻そのままでしょ?」
「……馬鹿らしい」
悪態を吐く俺をあやすように、眉間にキスを落とす。さらにシワが寄るのを感じた。
「ヴェ〜そんな怖い顔しないでよぅ」
「お前が変なこと言うからだ」
「だからほんとなんだって」
にへらにへらと締まりのない笑い声を上げながら、額に、頬に、ちゅっちゅっとキスの雨を降らす。
「お前の考えることはよくわからない」
「俺はずっとお前のことしか考えてないよ?」
「馬鹿、真面目に会話をしろ」
当たり前のように発せられた愛の告白に勝手にどぎまぎしてしまう。
「俺は至って真面目だよ〜」
軽やかに笑いながら体に腕を絡めてくる。
「あと、俺は多分お前が思ってる何十倍もお前のことが大好きだよ」
「口だけは達者だな」
「口だけ〜?」
「よく女性に声をかけているだろう」
「だって女の子には声かけなきゃだもん」
きょとんと不思議そうな顔をするのを見て、これは価値観の違いだと諦めることにした。
「ルート、俺ね、お前とこうして抱き合ってるだけで天国いっちゃいそうなくらい幸せなんだ」
眉間にそっとキスを落とされる。
「確かに色んな子に口説いてるけどさ、こうやって触るのは世界でお前だけだよ」
今度はキスを唇に受け、そのままの状態で優しく肩を押されて仰向けにさせられる。唇がほんの少しだけ離れる。目と目の間は3cmもない。心拍数が勝手に上昇していく。
「愛してるよ、ルート」
そのシンプルな言葉に、顔がみるみる熱くなっていくのを感じた。
「ね、分かってくれた? もっかい言ったほうがいい?」
「いやいい、十分に分かった!! ……疑うようなことを言ってすまなかった」
「いいんだよ、俺の愛しいバンビーノ!」
「だからそういうのはやめろ!!」