Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ろまん

    @Roman__OwO

    pixivに投稿中のものをこちらでもあげたり、新しい何かしらの創作を投稿したりする予定です。倉庫です。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 37

    ろまん

    ☆quiet follow

    【TrutH】高校卒業後、一人暮らしを始めた橙真の部屋に入り浸るひゅーいの話です。熱帯夜にキムチ鍋を食べたりしてわいわいしてます。

    ジュブナイル・ナイト 熱気漂う夏の夜。橙真が住むアパートを訪ねた僕は、酷く混乱していた。網戸から入り込む生温い夜風を浴びながら、ぽつりと零す。
    「鍋……?」
    「ああ」
    「こ、こんな暑いのに……?」
     部屋の真ん中にある座卓の上には、大きな土鍋が置かれていた。しかも、中身は真っ赤だ。ぎょっとして橙真――もといシェフを伺うと、彼は「キムチ鍋だぞ」と満足気に告げた。繰り返すが、本日は熱帯夜。熱帯夜だ。
    ……よりによって今日、キムチ鍋を食べようと思う? これってチュッピのトレンド? それとも橙真がちょっとヤバい? 
     次々と浮かぶ疑問を黙ったままでいると、橙真が眉を寄せた。
    「何か文句でもあるのか?」
    「ない。ないです」
     橙真はよし、と頷くと、賑やかしに点けていたテレビを消した。鍋がぐつぐつと煮立つ音が部屋に広がる。僕達は向かい合うと、手を合わせた。
    「いただきます!」
    「いただきまーす」
     取り皿いっぱいによそった具から、まずは白菜を摘み、口に入れる。
    「辛っ! あっつい!」
    「舌、火傷しないように気をつけろよ」
    「ふぁーい」
     ふぅ、と冷ましつつも熱々のまま口に頬張る。やっぱり、橙真の料理は美味しい。すごく。
     生真面目で凝り性な橙真は、高校卒業後に一人暮らしを始めてから、料理の腕をみるみる上達させた。僕がこの家に入り浸る理由も、橙真に会いたいからでもあるし、橙真の料理を食べるためでもある。最初はお金を渡そうとしたけれど、結局は野菜や果物、お菓子を渡したり、他の家事手伝いをすることでトントンとなった。
    「……料亭とか開いても大成しそう」
    「え? 俺が?」
     橙真のことだから、その気になれば努力でなんとかしてしまうだろう。そう思ってふと呟いた一人言を、耳聡く拾われてしまった。
    「うん」
    「いや、無理だろ」
    「そう? イケると思うけどなあ」
    「俺、飴作りたいし」
    「ああ」
     そういうことね、と納得しつつ肉を食べようと、あ、と口を開いたところで橙真がぼそっと言った。
    「それに俺、プリマジやってるし」
     不意打ちだ。思わず、肉を取り皿へと落とした。びちゃっと跳ねた赤い汁が、皿まわりに飛び散る。あちゃあ、という顔でティッシュを引き抜く橙真を見ながら、僕は口元を緩めた。
    「ふふっ、そうだねえ。じゃあダメだ」
     笑ってないで拭けよ、と言いながら、さりげなく僕の衣服にシミがついていないか確認している橙真は、やっぱり優しい。
     ……昔は。大人しい橙真を大衆の目の届く場所に引き上げてしまったことに、申し訳なさを感じていたけれど。共に過ごす時間が増えるうちに、いつしかそんな感情は消え去った。
     僕の愛するプリマジを、橙真も愛した。シンプルにそれだけのことだと、ゆっくり理解していったのだ。

     結局、ぺろっと鍋を平らげて。食べさせてもらったお礼に僕が洗い物を済ませ、ベランダで涼んでいると、橙真が風呂から出てきた。
    「ああ、そういえば昨日、コンビニで買ったアイス入れといたの言ったっけ?」
     冷蔵庫を開く橙真の背中に声をかける。
    「聞いてない。食べていいのか?」
    「いいよ。僕の分も取って」
     ベランダに出てきた橙真に、アイスを渡される。さっそく齧るとヒンヤリして心地良かった。
    「いやあ、穏やかだねえ」
    「ああ」
     橙真は僕に、魔法を使えばいいんじゃないか、とはあまり言わない。橙真にはきらめくワッチャがあり、僕は他のマナマナよりも遥かに豊富なマジを使える。わざわざ暑さに悶えなくたって、僕達はいつでも涼しく快適な環境に身を置けるのだ。本来は。
     けれど、こうしてくだらないやりとりを積み重ねる時間が、僕にとっては何にも代え難く、橙真もそんな僕の希望を察して尊重してくれていた。
    「ねえ橙真、明日花火しない?」
    「え?」
     ――来年も、再来年も。もしくは何十年後だって、こんな日々を紡いでいけるように。明日もまたくだらない、そしてかけがえのない時間を君と共有したい。
    「……明日、か」
     橙真が空を見上げてポツリと呟いた。
    「残念だけど、明日は大雨らしいぞ。花火は厳しいと思う」
    「へ?」
     空を見上げる。確かに、月は雲に覆われていた。
     ……へえ、そうか。
     僕は橙真に向かって微笑んだ。
    「じゃあ、今からちょっとあの雲蹴散らしてくるね」
    「は?……えっ!? ひゅーい!?」
    「ふふっ、いってきまーす!」
     少年時代の多くを大人達の争いに交ざることに使ってしまった僕は、今だからこそ持って生まれたこの強大な力を、子供っぽく、これ以上なく我儘に使ってみせよう。
     そう、橙真を大好きな僕のために、ね。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator