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    巨大な石の顔

    2022.6.1 Pixivから移転しました。魔道祖師の同人作品をあげていきます。

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    巨大な石の顔

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    サンサーラシリーズ番外編。明知不可而為之(四)のつづきになりますが本編とするには短い話。うちの江澄もなかなか兄上を振り回しています。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #藍曦臣
    lanXichen
    #江澄
    lakeshore
    #曦澄

    寒室の夜 寒室へ入ると、それまで誰もいなかったそこは外よりも冷たかった。
     藍渙は江澄を抱きしめてきた。彼の体臭である花のように甘い香りが鼻をくすぐる。
     このまま情事にもつれこむのだろうかと半ば覚悟するかのように江澄は瞳を閉じていたが一向に唇は合わされなかった。
    「君は私に体を委ねても心は見せてくれない」
     目を開ければ藍渙はみるからに悲しそうな表情を浮かべていた。顔の造りは違うのに、その表情はさきほど見かけた藍啓仁とよく似ている。
     彼は江澄をまたしても詰ってきたわけではない。夜空のように深い色の瞳には手で雪をすくって溶けてしまうのを止めたくても止められないかのようなあきらめが浮かんでいた。
     かつて父にお前は家訓をわかっていないと首を振られたときのように、江澄は胸が千々に乱れる思いがした。
    「俺の心は、いつも俺の言葉通りだ」
     平然とした振りをして答えたが、江澄の情人はゆるく首を振った。あのときの父のように。
     当たり前だ、優しい彼は素直ではない江澄にこれまで何度もはぐらかされ、ごまかされてきてくれたのだから。
    「今の私には、君の心に触れるのは初雪をかき分けて草の芽を探すかのごとく難しい」
     藍渙は江澄の体からそっと離れた。
     その秀麗な顔には泣いた痕が色濃く残っているものの、常のように背筋をすっと伸ばし粛然とした様子で立った。
     江澄が少年時代に雲深不知処の窓から眺めた細雪のように、彼の佇まいはほんのり明るく儚くそして冷ややかだった。
     江澄がどんなに取り繕っても今の彼をごまかすことはできそうにない。あえてごまかされてもくれないような峻厳さもたたえていた。
     さきほどまで江澄の腕の中で泣きじゃくったわがままな年上の幼子はもういなかった。
    「さっきは君を困らせてすまなかった。江澄、私はもう大丈夫だから無理にここへ泊まってくれなくてかまわない」
    「そうか。沢蕪君ともあろう人があんな子供のような駄々をこねるとはな。驚いたぞ。金凌が五歳の頃を思い出した」
     離れていった彼にはからずも後ろから頭を殴られたような衝撃を受けた。お前は家訓を理解していないと少年だった江澄を見放した父がどうしても重なってしまう。
     この人もとうとう俺に愛想を尽かしたのではないか。そんな子供のとき父に対していだいた怯えやみじめな気分を押し殺して、江澄はハンと鼻を鳴らした。
     主管に任せてもかまわないが明日人と会う約束があるから今日は帰ると告げる――そんなものはない。
     ここで江澄が泊まって体を重ねても、今は交わる喜びよりもむなしさのほうが上回るとお互いわかっていた。
    「それがいい。明日も雪が降らないとは限らないから」
     もしこれから雪が降り続けば蓮花塢へ帰る機会を逃してしまうだろう。
     藍渙は穏やかな口調で言った。今目の前に立つ男は昔からよく知っている沢蕪君だった。
     春に降り注ぐ慈雨のように慈悲深く他者を思いやることを忘れない男。
     蓮花塢へいっしょに連れ帰ってほしいと彼はもう江澄を困らせるようなことを言わなかった。それなのに、どうして引き留めないんだ、と藍渙を心の中で責めているひどくわがままな自分がいる。さきほどまで蓮花塢へ押しかけようとしていた彼を拒んでいたのは当の江澄だというのに。
     今なら、大世家の宗主同士という藍啓仁はじめ世間から望まれている形に戻れそうな気がした。けれど戻りたくないのだ、まだ――いいや本当はずっと。
    「江澄、そんな顔をされたら帰したくなくなってしまうよ」
     扉に手をかけようとしたら、手首を強く掴まれた。沢蕪君に戻った男の穏やかな表情に焦りとも迷いともつかない歪みが浮かぶ。
    「俺がどんな顔をしているというんだ?」
    「今にも泣きそうだ」
     強気な口調とは裏腹に、江澄はすっかり顔色を失っていた。外へ一歩出せば今にも青ざめて震えそうだった。元来感情豊かな彼は胸の内を言葉でさらすことはなくとも表情に滲み出ることはよくある。
     江澄が藍曦臣のことをこれから置いて帰るというのに、まるで彼の方が置きざりにされてしまうかのようだ。
     俺から離れないで。
     薄布の奥からそんな声なき声を震わせているようだった。今ならば頭からかぶっている玻璃のごとき薄布越しに抱きしめても許してくれそうだ。
     今日あまりにも迷惑をかけてしまったから、今夜は彼を逃がそうと思っていたのに。
     藍曦臣はたまらなくなって細い手首を引っ張ると、白い袖でもう一度江澄の体を覆い隠すように抱きしめた。
     まだ血色の戻らない彼を熱のこもった眼差しでみつめて藍曦臣は懇願する。
    「江澄、心は見せなくてかまわない。でも今日はどうか君の声を聞かせて」
     了承するかのように、江澄もまた恐る恐る彼の広い背中に腕を回した。

     この後、誰も立ち入らせないように寒室は主によって完全に閉ざされた。まるで冬ごもりする獣の巣のように。
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    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
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     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
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     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
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    MAIKING平安時代AUの曦×澄♀ ②
    今回は帝(主上)曦臣が女官の中から江澄♀を探し出します。
    ちょこちょこ続きを書いていこうと思っているのでお付き合いいただけると嬉しいです。
    平安時代の衣装や行事等そんなに知識なく書いているのでそのあたりはスルーしてください。
    平安時代AU 第2話「大変ですっ!主上がこちらに向かっていらっしゃいます」

    女官達が集まり、次の宮中行事の衣装を準備していた時だ。まだ年若い女官がばたばたと慌てて入ってきた。常なら大きな足音をさせてはしたないと叱るだろう古株の女官達も、主上のお出ましとあっては目を白黒させている。
    すぐに衣装を片付けるように指示が出たが、片づけ終わる間もなく主上が入室した。
    「忙しいところに急に来てしまって悪かったね。」
    「主上、とんでもないことでございます。御見苦しいところをお見せしてしまいました、お許しください。」
    女官達がひれ伏していると、皆顔をあげるようにと言われた。
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