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    yukuri

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    yukuri

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    🐑🔮1
    付き合っている二人のお話です。

    #PsyBorg

    拾う奇跡を永遠と呼ぶ「今夜?」
    「ああ、ヴォックスがホームパーティーするらしくてな」
    「じゃあご飯はいらないね」
    「そうしてくれると助かる」
    「…はーい」
    「どうした?浮奇も来るか?」
    「ううん、俺はいい」
    「何かあったのか?」
    「別に」
    「何もない顔じゃない」
    「…鈍いのか聡いのか」
    「うん?」
    「ふーふーちゃん、俺のこと好き?」
    「ああ、好きだよ」
    「じゃあキスして」
    「ちゅ…」
    「ここ、跡付けていい?」
    「襟で隠れる所なら好きなだけ」
     この愛おしい人にどれだけ深い朱を落としても満たされない気がしてしまう。
     一緒にいてもいなくても、この人に対する欲に際限がない。これが俺の恋なのだと、もう自分では制御できないところまで来てから気づいてしまった。
     好きになればなるほど、失った時に辛くなる。恐ろしいのに止められない。

     彼、ファルガーとの出会いは半年ほど前。俺が働いているバーにファルガーは友人と共にやって来た。
     第一印象は隙のなさそうな人、強いお酒を提供しても平然と丁寧な態度で受け取る姿に、紳士的な人だと思った。
     それから彼は友人たちと、そしてたまに一人で訪れるようになった。
     顔見知り程度になってから、少しずつ会話をするようになった。共通の趣味を見つけ、話した。少しマニアックな作品の名前を挙げると、ぱぁとあどけない笑顔を見せてくれた。
     第二印象は可愛らしい人。好きなことを語る姿が少年のようで、魅力的な人だと思った。
     彼の誰も傷つけない優しさ、愛が深いところ、許容が広くて男らしいところ、きらりと光る星のような魅力を見つけては、大切に拾い集めた。転がるように恋に落ち、気づいた時には彼のどの部分も愛おしいと感じてしまうようになっていた。
     しばらくして、趣味の話から映画を観に行かないかとファルガーから誘ってくれた。
     バーの外で初めて会った彼は、低めのヒールブーツを履いていった俺に「私服も素敵だな」と言って微笑んだ。
     帰り道に「楽しかった」と伝えれば、立ち止まって名前を呼ばれキスをされた。あまりにも自然な流れで驚いた、と同時に慣れている様子に心がしゅんと萎んだ。
    「好きなんだ。付き合ってくれないか」
     珍しくぎこちなさを含んだ話し方から、緊張しているのだと分かり、萎んだ心がぱたぱたと踊った。

     交際をしてから約3ヶ月、お互いの仕事場から程よい距離で部屋を借りた。
     俺が今まであまり綺麗な交際の仕方をしてこなかったことを知っている友人たちには、相手に騙されていないかと心配されたが、ファルガーを紹介すると安心し、暖かく祝福してくれた。
     
     同棲を始めてからも特に争うことなく平和に生活ができている。心地よさに慣れてしまいそうな自分にいつも喝を入れ、手放しに喜んではいけないと繰り返す。
     こんな幸せを享受して、いつか何かに奪われてしまったら?いつか彼が違う人を選んで去って行ってしまったら?
     心のどこかでストッパーをかけ、全てを明け渡していないことに安堵する。
     できるだけ長くと願う心と、傷は浅いうちにと囁く脳内。
     交際経験はあれど、ここまで人に心酔したことはない。初恋とも言えるそれに苦しめられ、その苦しみすらどうでもいいほどに愛している。
    「…難儀だなぁ」
     彼の残り香に包まれて玄関で一人、ぽつりと呟いた。



    「それは難儀だな」
    「だろう。でもそこがまた可愛い」
    「結局惚気るのか」
    「そっちが振ってきたんだろう。『最近恋人とはどうなんだ』って」
    「まぁな、でもまさか『嫉妬しても言葉にして伝えてくれないんだ。もっと縛ってくれてもいいのに』なんて言葉が帰ってくるとは思わないだろう。弟カップルのSM話を聞いて喜ぶような趣味はないな」
     揶揄う目でにやにやとする兄を軽く殴りたい衝動を抑える。
     ヴォックスは血の繋がらない兄だ。元々見寄りのないファルガーは小学生の頃ヴォックスの親戚に引き取られた。
     幼少期は喧嘩もしたが、大人になってからはこうして定期的に会っては軽口を叩き合うような関係性に落ち着いた。
     引き取られた当時、子供にとって他所から来た弟なんて邪魔な存在でしかないだろうと嫌われる覚悟でいたが、ヴォックスは血の繋がりなどなんだと簡単に跳ね除けた。兄として世話を焼いてくれるヴォックスにファルガーは感謝していた。
     なにより、最近できた可愛い恋人のことを手放しに惚気られるのがいい。

     浮奇の第一印象は、綺麗な人。
     顔や仕草はもちろん、透き通るびいどろのように美しく、びいどろより柔さを含んだ声に魅了された。
     話をするにつれ、見え隠れする男らしさ、可愛らしさに自然と恋に落ちた。
     初めてのデートの帰り、『楽しかった』と微笑む浮奇の瞳が切なく光り、この人を逃すまいと口付けた。
     我ながら強引だったと反省するところではあるが、世界で一番愛らしい彼と同棲にまで至っているので結果オーライである。
     今日も兄の所に行くと、見送られたばかりだった。
     順調な交際だが、ファルガーは浮奇が自分の感情を伝えてくれないことを気に掛けていた。
     事あるごとに「自分のことが好きか」と確認はされるが、その奥に隠された気持ちを伝えてくれることはなかった。
     大方、嫉妬をしてくれているのかと想像はしてみるが、相手の気持ちを想像で決め付けるのは危険だと、あまり多くもない交際経験から学んでいるので、立ち止まる。
     愛する人と好きだと言い合える関係にあるだけで十分幸せ者だと自覚していても、彼のことになるとあれもこれもと教えて欲しくなってしまう。あわよくば、彼の望む全てを叶えてやりたいとさえ思う。
     年上としての余裕を持ちたい自分と年甲斐もなく恋に浸る自分がせめぎ合っていた。

     グラスを傾ければ、シャンパンの炭酸がしゅわしゅわと音を立てて弾ける。
     理性と欲望とが対峙する脳は、「相手に求めるのならまずは自分から」と折衷案を編み出した。
     好きよりも深い心の開示。するのもされるのも得意ではないが、試みようと思った。彼を心の中から取り出しては、もう自分が完結しない。
     ならいっそ開き直ってお互いなしでは生きられないと誓い合うのもいいかもしれない。
     ふわりとした気持ちで幸せに浸った。



     最悪だ。
     浮奇は絶望に似た感情を抱いた。
     目が覚めて一番に隣にいるはずの人が居ないことに気づく。起きたてで上手く回らない頭は捨てられたのだと最悪の可能性を導き出そうとしていた。
    「あんなこと…言わなきゃよかった」
     昨日のファルガーとの一連を思い出し胸が締め付けられる。
     昨晩、同僚と飲んで帰って来たファルガーにひどいことを言ってしまった。
     初めて一緒に飲んだと言う同僚の話を満面の笑みで話されて嫉妬した。いつもなら我慢できる程度の痛みだったが、気が緩んでいて失敗した。
     同棲を始めてから半年とすこし。事あるごとに気持ちを言葉にしてくれるファルガーに懐柔されていくのがわかった。
     ここが好きだ、ここも愛らしいと囁かれる度に夢見心地になった。見返りのない愛に包まれ、言うまい見せまいと気をつけていた欲望が口をついて出た。
    「ーーそいつがまたおかしな事を言い出して。アルバーンというんだが」
    「そんな話聞きたくない」
     被せるように棘を持った言葉が出た。
     ファルガーは驚いた顔をしていた。その後何か言いそうなのを察して、ベッドへと逃げ込んだ。しばらくしてシャワーの音が聞こえ、俺はそのうちに眠ってしまった。

    「幻滅…されちゃったかな」
     だんだんと苦しくなる胸。鼻の奥がつんとして視界がじわり滲んだ。
    「ふーちゃ…」
     ガチャリ、と音がして無意識に走り出す。鈍った体で飛び出した為足がもつれてファルガーの胸に飛び込んだ。
    「おお浮奇、どうした?そんなに慌てて」
    「…出て行っちゃったのかと思った」
     彼の手には近くのパン屋さんの袋がぶら下がっていた。
    「今日は二人とも休みだろう?たまにはゆっくり一緒に朝食を食べたいと思って」
     そうはにかむ彼を見て涙が溢れ、コーヒーを淹れてもらった。
     ソファで彼の腕とほろ苦い香りに包まれながら、思っていたこと、欲張りな自分のことを少しずつ打ち明けていった。
     一つまた一つと欲深い自分を告白する度、髪や顔にキスを落とし、ひどく嬉しそうに微笑む彼に安心した。
    「幻滅しない?俺ふーちゃんが思うほど綺麗でも初心でもないよ」
    「幻滅なんてするはずがないだろう。こんなに愛してるのに」
     いいのだろうか。自分の全てを見せても。綺麗でない部分も纏めて愛してくれるこの人に身を任せても。失った時に苦しい思いをしたくないと我慢していた自分をもう思い出せないほど、ここは心地が良かった。



    「それで、今日は大丈夫だったの?恋人さんは」
    「ああ、駄々は捏ねてたがな。早く帰ると宥めてきた」
    「じゃあファルガーは二次会不参加?」
    「そろそろ帰る」
    「そっかぁ」
     つい先日実を結んだ、他部署との合同プロジェクトを通して出会ったアルバーン。今日の飲み会もそのプロジェクトの打ち上げだった。
     初めは食えないタイプの男だと思ったが、一度酒を酌み交わして話してみると、想像よりも馬があった。
     相手のテンポに合わせることが基本のファルガーと相手に気を遣わせないテンポを持ったアルバーンが良き飲み仲間となるのに、そう長くは掛からなかった。
     普段は同僚に個人的なことをあまり話さないファルガーだが、人の懐に入るのが上手いアルバーンには珍しく自分から恋人の存在を明かした。
     初めて浮奇が自分から「嫌だ」と口にして伝えてくれたのは、アルバーンと飲みにいった日の夜だった。
     その日から、浮奇は本当の意味で甘えてくれるようになったと思う。
     自分はこう感じている、違う部分は尊重するけれど知っておいてほしい。謙虚ながら芯の通った告白に毎回愛おしい気持ちが込み上げる。
     いつだったか、浮奇は「自分の全部を見せるのが怖かった」と言っていた。
     怖いだなんて思う隙がないくらいに愛を与えたい。
     こんな言葉を掛けたら逆に怖がらせてしまうだろうか。
    「幸せそう」
     いつの間にか口元が綻んでいたらしい。年甲斐もなく惚気てにやけて、こんなだらしない顔を浮奇に見られていなくてよかったと思う。
    「ああ、幸せだよ」




    「幸せ、か…」
     なんとなく眺めていたテレビは新婚夫婦を映し出していた。結婚を控えたカップルが自分好みの結婚式をするための準備期間を追う番組だ。お互いの要望を摺り合わせ、結婚式当日を迎えた2人は安堵と幸せの表情。
     満面の笑みで「この人と一緒になれてよかった。今すごく幸せです」とインタビューに答えていた。
     幸せという単語を聞いて思い浮かぶのはただ一人。
     今まで、誰か一人とこんなに長く一緒に居ることになるなんて想像したこともなかったとふと思う。

     今日は、ファルガーと付き合い初めて三回目の記念日だった。
     仕事帰りのファルガーと待ち合わせをしてディナーに行くのだ。精一杯おしゃれしなくては。

     予約してくれていたお店は以前も浮奇の誕生日に来たことのある隠れ家レストラン。
     好きな雰囲気と料理の完成度に感動し、「また特別な日に来たい」と呟いたのを覚えてくれていた。細やかな気遣いをそつなくこなすことを指摘すれば、「浮奇にだけだ」と恥ずかしげもなく言ってのけてしまうのだから、この人は本当にずるい。
     
     前回さながら大満足の食事を終え、ほろ酔い気分で散歩をしながら夜道を歩く。
     小波の上にいるような気持ち良い感覚だ。
    「浮奇、」
     一歩前で立ち止まったファルガーは手を差し出す。
    「転ばないよ、ヒール慣れてるし」
    「ただ俺が手を繋ぎたいだけなんだが、駄目か」
    「ダメじゃない。繋ぐ」
    「はは、よかった」
     自分の手に馴染んだファルガーの掌から安心感が伝わってくる。
     二人、星を見上げてぽつりぽつりと出会ってからのことを振り返った。楽しかったこと、嬉しかったこと。たまには喧嘩もしたこと、その度に譲り合って仲直り出来たこと。
     三年間、深い懐で何でも受け止めてくれる彼の腕の中で愛を育てた。
     終わりが来ることを恐れていた自分は、いつの間にか自分の特別な感情を大切にできるようになっていた。
     愛されている実感と愛していると伝えられる奇跡に涙が溢れてしまいそうになる。
    「浮奇」
    「…うん?」
     繋がれた手がファルガーのコートのポケットに仕舞われた。
     奥に手を差し込むと、コツと硬い箱のような何かに指が当たった。
    「…これ」
     まさか、とファルガーを見つめると、色素の薄い瞳がきらりと光った。
    「貰ってくれるか?」
    「ほんとに…?」
     ポケットから取り出されたそれは紺色の小さな箱。
     中にはペアリングが入っていた。
    「結婚、してほしいんだ」
     初めてのデートでの告白を思い出す。その時も、この愛おしい人はぎこちなく緊張した様子だった。
    「……俺でいいの?」
    「浮奇がいい」
    「…俺もふーちゃんがいい」
     指輪を嵌め合い唇を合わせる。
     誓いのキスにも似たそれを、月明かりだけが優しく照らした。
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    Replies from the creator

    yukuri

    DONE🦁🖋
    ボスになりたての🦁くんが🖋くんと一緒に「大切なもの」を探すお話です。
    ※捏造注意(🦁くんのお父さんが登場します)
    題名は、愛について。「うーーん」
    「どうしたの。さっきから深く考えてるみたいだけど」
     木陰に入り混じる春の光がアイクの髪に反射した。二人して腰掛ける木の根元には、涼しい風がそよいでいる。
    「ボスとしての自覚が足りないって父さんに言われて」
    「仕事で何か失敗でも?」
    「特に何かあったとかではないんだけど。それがいけない?みたいな」
     ピンと来ていない様子のアイクに説明を付け加えた。
     ルカがマフィアのボスに就任してから数ヶ月が経った。父から受け継いだファミリーのメンバー達とは小さい頃から仲良くしていたし、ボスになったからといって彼らとの関係に特別何かが変化することもない。もちろん、ファミリーを背負うものとして自分の行動に伴う責任が何倍にも重くなったことは理解しているつもりである。しかし実の父親、先代ボスの指摘によると「お前はまだボスとしての自覚が足りていない」らしい。「平和な毎日に胡座を描いていてはいつか足元を掬われる」と。説明を求めると、さらに混乱を招く言葉が返って来た。
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