配信を切ってから一息ついて、立ち上がることもせずすぐに通話を繋げた。優しい声で伝えられた「おかえり」に頬が緩む。
「ただいま。ごはんかお風呂はできてる?」
「んー、『わたし』は準備万端なんだけど」
「オーケー、じゃあそれをいただこう」
数秒の間の後、堪えきれなくなって二人で笑い声を上げた。
二人きりの配信はつつがなく終わり、俺はゲームが終わってから少しの間リスナーと雑談を楽しんでいた。何も決めていなかったけれど、毎度コラボ配信のあとは二人でごはんを食べたり飲んだりしながら話していたから、配信中に送られてきていた「時間があったら話したいな」というメッセージに快諾する返事をして上機嫌で配信を終わらせた。毎日のように話していても、浮奇と一緒に過ごせる時間が飽きることなく好きだ。
「ごはんは食べた? 水分補給はしてたと思うけどたくさん話したからちゃんと水も飲んでね」
「何か食べようかな。せっかくだしお酒も出そう。浮奇は? 一緒に飲むか?」
「え……、どうしよ、飲みたいけど、最近ちょっと飲み過ぎなんだ」
「ああ、そうだな?」
「……配信、見てた?」
「なんのこと?」
「……ふーふーちゃんは、ヤキモチ妬くことある?」
「さあ、どうだろうな」
浮奇が色々な人とのやりとりを楽しんでいることは知っているし、口にはしないが腐男子としてそれを楽しみにしている俺もいる。だけど確かに俺以外のやつといちゃついているのは少し、ほんの少し、モヤッとすることもある。酔ってたって教えてやらないけど。
「オーケー、飲む、飲むから、まだ一緒にいて?」
「飲まなくたって一緒にいるよ。配信外で二人きりで飲めるの、俺はすごく好きだけど、浮奇に無理はしてほしくないな。本当に飲みたい時だけでいいし、酔ってても酔ってなくても甘えていい」
「うあ……好きだ……」
「ありがとう?」
「飲む……」
「はは、結局飲むんだな。ちゃんと水も飲めよ」
「うん。ふーふーちゃん」
「ん?」
「俺はふーふーちゃんが他の男と二人きりで飲むの、いやだ」
自分はそれをするのに? 言ったら意地悪だと思われるだろうか。少し突いてやりたい気もするけれど、素直な嫉妬は心地良い。きっと今、浮奇の頭の中は俺でいっぱいだろう。
「俺は酒が好きだし人と飲むのも好きだ」
「うう……知ってる……でも嫌なんだもん、俺以外に可愛い顔見せないで……。酔ったふーふーちゃんに誰かが触ったら、そいつのこと殺しちゃうかもしれない」
「過激だな。悪くない」
思わず溢れた満足げな言葉を聞き、浮奇はふっと息を吐いて笑った。せっかく飲むなら楽しい酒にしたい。俺は今、浮奇にヤキモチを妬かれることが嬉しいけれど、ヤキモチを妬いている間は決して楽しいなんて言葉で片付けられるような心情ではないと知っているから。
「ほら、せっかく二人なんだから可愛く笑って。さっきまでじょうずにできてただろう?」
「……おれ、かわいかった?」
「もちろん、いつだって一番だ」
「ひひ……やった、ふーふーちゃんの一番だ」
配信でだってたくさん甘やかしているけれど、二人きりで甘やかすのはもっと特別な気がする。浮奇が言葉にする量の半分も言葉では返せないけれど、直接言葉にしなくたって伝えられることもあるだろう。例えば声とか、視線とか。自分の声が浮奇を甘やかす時は優しく甘くなることを指摘されずとも知っていた。
「コラボ配信ファイナルお疲れ様、乾杯」
「乾杯。ファイナルって言うの寂しくなるからやめて。すぐコラボしよ? 飲み配信もまたしたい。二人きりでもいいよ」
「最近飲み過ぎなんじゃなかったか? 二人きりで飲みは、……配信で流しちゃいけないことを言いそうだな。浮奇も、俺も」
「えへ、じゃあ今日いっぱい言って? キスもたくさんしてほしい」
「酔うくらい飲んだら、もしかしたら」
「二杯目の準備はできてるよ」
「ごはんとお風呂の準備より早いんじゃないか?」
「好きな人に好きって言ってもらうためなら光より早くなれる」
「ちゃんとごはんを食べて、お風呂に入って綺麗になった浮奇も好きだよ」
「う、わ……今すぐごはんの準備もするしお風呂は今朝入ったから綺麗だよ……抱きしめて……」
「あはは、声がとろけてる」
「とろけそうだよ……」
顔を覆って悶えている姿が目に浮かび堪えきれずに口角が上がった。そうして、俺にだけ夢中になってる浮奇が大好きだよ。