誕生日プレゼントは何がほしい?と聞く前から、ある程度予想はついていた。相手はあの浮奇だ。誕生日でなくても色々とおねだりをしてくる可愛い恋人。
「ふーふーちゃんのことめちゃくちゃ優しく抱きたい。俺の家に来てくれる?」
めちゃくちゃ乱暴に、と言われるよりドキドキするのはなぜだろう。咄嗟に返事が出来なくて固まった俺に浮奇は「だめ……?」と可愛らしく不安な声を出し、俺は考えをまとめる前に「行く」と返事を返してしまった。パッと笑顔に変わる表情にほんのすこし後悔。もうすこし焦らしてやれば良かったな。
「やった! 約束だよ、絶対、やっぱりやめたとか本当になしだから」
「……わかった、約束する。そっちがおまえの誕生日の日に向かえばいいな?」
「うん。前後一週間くらいいてくれてもいいけど」
「長過ぎる。どれだけオフを取るつもりだ? 誕生日配信をするんだろう? 俺も行きたいからパソコンを持って行ってもいいか? 空いている場所がなければホテルも取るけど」
「あーう……どうしようかな……でもどっちにしろ……、ちょっと待っててね」
「ああ」
確か浮奇はルームメイトがいたはずだ。自分の部屋があるにしても、家にもう一人滞在するにはその人にも断りを入れるべきだろう。
数分で戻ってきた浮奇は「大丈夫」と言った。解説を求めて眉を上げれば言葉を続ける。
「ルームメイトに聞いたら、ちょうど他の友達のところに遊びにおいでって誘われてたんだって。だから恋人と仲良くしてていいよって」
「……俺のことなんて伝えてるんだ」
「俺の大好きな人で、俺のことを大好きな人」
「……間違ってはないな」
「えへへへ」
とろけた笑みをつつくようにパソコンのモニターをコンっと弾いた。柔らかい頬に触れたいな。一週間は長いなんて言ったけれど、きっと浮奇といたらあっという間に過ぎてしまうんだろう。
「それじゃあふーふーちゃんをおもてなしする準備いっぱいしておくね!」
「ふ、楽しみにしておく。プレゼントは、俺だけ? 俺のことはいつだって好きにできるのに?」
「……いつだってはできないでしょ」
「できるさ。俺は形に残るものもおまえにあげたいんだけど、何かいい案はないかな」
「形に……ええと、もちろん却下してくれてもいいんだけど」
「言ってみろ」
「……指輪とか」
「……指のサイズは?」
「え。……え? 本当に? 俺、えっと、あの、……ペアリングの意味で言ってるんだけど」
「分かってる。俺も持つならシンプルなデザインで選ぶけど、いいか?」
「いい、いいよ、嘘でしょ、……え、いいの?」
「いいって言ってる。あとでサイズを送っておけ」
「……死んじゃいそう」
「誕生日前に死ぬなよ。誕生日当日も死ぬな。俺のことめちゃくちゃ優しく抱いてくれるんだろう?」
「……優しくできなかったらごめん」
「それは好都合」
フと笑って見せた俺に、浮奇は今すぐ抱きしめたくなる可愛い顔をしてこちらを見つめた。俺たちを遮る距離がもどかしいな。誕生日だけじゃなく、いつでもおまえと一緒にいられたらいいのに。
指輪とともにそんなことを言ったらさすがに重いと思われるだろうか。ふわふわ自由に生きる浮奇が好きだけど、時々、俺と繋げて縛り付けてしまいたくなる。きっと誕生日には酒をたくさん飲むだろうから、酔いで誤魔化してすこしだけねだってみようか。