目が覚めて自分の状況を理解した途端、俺は最高に興奮してしまった。なんてこった、夢じゃないよな? 頬をつねり、その痛みにも気分が上がる。
俺が抜け出したベッドの中には恋人になったばかりの男がまだすやすやと眠っている。オーケー、つまり、そういうことだ。イエス……!と小声で叫び、部屋の中を改めて見渡した。
真っ白で出入り口の見当たらない謎の空間。あるのは俺たちが寝ていたベッドと、その横にある何の変哲もない小ぶりのキャビネット、以上。念のため壁におかしなところがないか点検しながら部屋を一周して、何も見つけられずに元の場所に戻った。まだ手をつけていなかったキャビネットの前にしゃがんで引き出しを開ける。
「おぉ……」
完璧に理解した。ここから出るには、この寝坊助を起こさないとだな。
「浮奇、浮奇ー、起きろ。朝じゃないが緊急事態だ」
「ん、んん……ふーふーちゃん……まだ、もうちょっと……」
「待てない。俺は今までで一番寝起きを楽しんでいる。おまえも一緒にこの感動を味わってくれ」
「はぁ……? ん……まぶし……、……え? あれ、昨日、……え?」
「おはよう浮奇。悪いけど今日は顔を洗う洗面台の用意がないみたいだ」
「なに……は? 待って、……ま、まって、うそ、え、これってあの……」
「ああ、いわゆる○○しないと出られない部屋、だな」
「夢じゃなくて?」
「オーケー、頬をつねってやる」
体を起こした浮奇の横に座り、布団の跡が残る可愛い頬を摘んでやった。目を丸くしたまま「いひゃい」と言い、浮奇はもう一度部屋の中を見渡す。視線を一周巡らせて、最後に俺にたどり着いた。
「まじか……」
「まじだな」
「……ええと、そうだ、あれは? 内容、お題的なものがあるはずだよね? キス? ハグ? 相手を泣かせないと、とか、最近色々な種類があるけど」
「ああ、その中でも一番の王道だ」
「……セックス?」
「イグザクトリー」
おいでと浮奇を誘い、さっき一人で見たキャビネットをもう一度開けて見せる。中にはローションやらオモチャやらが無造作にしまわれていた。俺の部屋にも同じようなものが揃っているが、こんな分かりやすい場所ではなく、浮奇が来る時はきちんとクローゼットの奥に隠している。浮奇の部屋でも見たことはないけれど持っていても不思議じゃない。これらが何に使うものかはお互い理解しているはずだ。
「この部屋から出るためにするべきことは一つだと思わないか、浮奇」
「……ふーふーちゃん、すごく楽しそうだね」
「楽しいよ! 何回読んだシチュエーションだと思う!? 本当は付き合っていない二人が閉じ込められるべきだとは思うが俺たちはまだセックスをしていないからアリだよな。どうするって話し合って部屋から出るためにスるんだけれど、攻めが「部屋から出るためじゃなくておまえのこと抱きたいから抱いてるんだよ」とか言うやつだろう、知ってる、最高だ」
「……そのセリフはどっちが言う? 俺、ふーふーちゃんなら言うのも言われるのも大歓迎だよ」
「あー……客観的に見ると俺かな……。浮奇なら「鍵は開いたみたいだけどもう少しだけ付き合って?」とか、そんな感じじゃないか」
「最高だ。んん、あとはね、ふーふーちゃんはしばらく状況受け入れられないで「こんなのありえないだろ!」とか言ってたり、セックスした後羞恥心に襲われて「先に出てけ」って布団に包まってるのも可愛いな」
「いい、わかる、そういうやつだ。どういうパターンで行こうか。一回したら出られるようになっちゃうよな。こんな状況二度とないだろう、楽しみ尽くさないともったいない」
「オーケー、思いつく限り話し合って、最高のストーリーを作ろう」
パシンッと気分良くハイタッチをして、俺たちはベッドの上に座ったままお互いの考えを披露し合った。
時計がないからどのくらいの時間が経ったかは分からないけれど、話がまとまって顔を上げた時にはどういうわけか向かい側の壁に扉が出来ていた。俺の視線に気がついてそっちを見たはずの浮奇は、何も見えなかったみたいにそれを無視してキャビネットから必要な道具を取り出す。
ああ、もちろん、俺だってこのままこの部屋を出るなんてつまらないことはしないよ。楽しみ尽くさないと、もったいない。