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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。ヤキモチ妬きの🔮の扱いもうまい🐏がいいよね。

    #PsyBorg

    真剣な眼差しが向けられているのが自分だなんて、むずがゆくてバタバタしちゃいそうだった。でも今は一ミリも動いちゃダメ。ふーふーちゃんが、すっごく真面目に、俺にネイルを塗ってくれているから。
    「ふぅー……」
    「疲れちゃった?」
    「ものすごく神経を使う……」
    「綺麗にできてるよ。初めてとは思えない」
    「……あー」
    「……え。初めてじゃないの?」
    「……」
    「昔の彼女だ?」
    ふーふーちゃんは俺と目を合わせることなく口をつぐんだまま次の指を掴んだ。俺はハケが触れる前にその手を引き抜き、まだ乾いていないところがヨレないように気をつけながら手を胸の前に抱く。
    「ねえ、質問に答えて」
    「……機嫌が悪くなるのが目に見えてる」
    「残念だけどそれは答えなくても同じだよ。ご存知の通り俺はヤキモチ妬きで、面倒くさくて、気分屋なんだ」
    「わかった、ちゃんと答えるから、そんなふうに自分を悪く言うな。俺のことが大好きだって話だろ」
    一瞬で全部許して抱きしめたくなることを言うズルい男だ。彼が許しを乞う必要もないしどうしようもない昔のことに嫉妬してる卑怯な男は俺だけど。でも、だって、……今俺と過ごしてたみたいな時間を、昔好きだった女と過ごしてたってことでしょう。ムカつくなって言う方が無理な話だ。今も昔もこれからも、ふーふーちゃんの全部が欲しい。
    「昔付き合ってた人のを塗ったことがあった気がするって、ただそれだけだよ。言われて思い出したくらいだし特に何か思い入れがあるわけでもない。というか浮奇にやり方を教えてもらわないと分からないくらい、その時塗った記憶が残ってないんだ。今さら何も心配する必要はないし今はおまえの爪を綺麗にしてやりたいとしか考えてないよ」
    「……わかってるもん」
    「浮奇〜。ああ、おまえはすぐそうやって……抱きしめたいけど、まだ乾いてないよな?」
    ふるふると首を左右に振り、手足を縮ませ丸くなる。ソファーの端っこに逃げて「いい」と小さく呟いたらふーふーちゃんが空いた距離を埋めるみたいに俺に近づいた。ソファーが軋む音、いつもならふーふーちゃんが近くに来てくれて嬉しいのに、今は自分が嫌すぎて彼に近づいて欲しくなかった。こんなに優しい人、俺には不釣り合いだ。きっと彼ばかり損をしている。
    「浮奇、こっちむいて」
    「いい」
    「よくない。俺が浮奇の顔を見たい」
    「やだ……」
    「抱きしめるのも嫌か?」
    「……」
    うまく言葉が出てこなくてもう一度首を横に振る。ふーふーちゃんの気配が近くなったのを感じて咄嗟にネイルの塗ってある手を持ち上げた。
    「まだ、乾いてないから」
    「あとで塗り直してやる」
    気をつけてどこにも触れないようにしていたのに、ふーふーちゃんは俺の手首を掴んで腕を広げさせると間に入り込んでぎゅうっと俺のことを抱きしめた。抱き返したいけれど、でも。
    「浮奇、背中が寒い」
    「……俺なんか放っておけばいいのに」
    「過去にまでヤキモチを妬くほど俺のことが好きなんだろう。今目の前にいるのが自分だってちゃんと分からせてやらないと」
    「めんどくさいって言って」
    「めんどくさいよ。それでも、俺もおまえのことが好きなんだ」
    「……ふーふーちゃん」
    「ああ」
    「俺、自分のこと嫌いだ」
    「それ以上に俺が浮奇のことを好きだよ。それにな、浮奇、俺のほうが自分のことが大嫌いだ」
    「……ふーふーちゃんが嫌いだって思う以上に、俺がふーふーちゃんのこと大好きだもん……絶対、俺のほうが好き」
    「比べようもない」
    穏やかな笑い声が鼓膜を揺らす。優しさだけを詰め込んだみたいなふーふーちゃんの笑い声は俺の意固地な心を溶かすのに効果抜群だ。ネイルのヨレなんてもう構わずに、俺はふーふーちゃんのことを抱きしめた。
    「お願い、嫌いにならないで……」
    「そうやって可愛くオネダリしてくるうちは嫌いになれそうにない。俺はおまえの我儘が結構好きなんだ」
    「もう俺以外のネイル塗らないで。ふーふーちゃんが誰かの手にずっと触ってるって、そう考えただけで体の中がぐちゃぐちゃになっちゃう」
    「俺が触るのも、触りたいのも、浮奇だけだよ」
    髪、耳、頬と順にふーふーちゃんの唇が触れ、顔を上げると優しい瞳と目が合った。瞼を閉じればそこにもキスが降ってくる。鼻や首筋、鎖骨にまで触れるくせに本当に欲しい場所にくれないから、我慢ができなくなった俺は焦れた声で「ねえ」とせがんだ。
    肌に当たる息で彼が笑っているのだと気が付いて目を開けた途端、見計らったように唇が重なる。彼の目はまっすぐ俺を見つめてた。心臓が暴れるみたいにドキドキしてる。
    「ん、よし。一回全部落として塗り直すか。二回目だからさっきより上手くできると思う」
    「……いい」
    「ん? まだ拗ねてるのか?」
    「ちがう、てか拗ねてるとか簡単に言わないで。……そうじゃなくて、ネイル、もういい」
    彼が丁寧にネイルを塗ってくれる時間も好きだけど、それ以上に今は彼のことを抱きしめて、抱きしめられて、キスをしたかった。これからネイルを塗り直したら少なくとも一時間はムラムラしたままで待てをさせられる。そんなの耐えられるわけない。
    「ネイルはまた今度にする。今はふーふーちゃんとくっついてたい」
    「……なるほど」
    「だめ?」
    「ダメって言われると思ってないだろ」
    「だってふーふーちゃんが、俺のワガママ好きって言ったんじゃん」
    「その通り。オーケー、服に付いたら面倒だから乾いてないものは落としてしまおう。そのくらいは我慢できるな?」
    「ふーふーちゃん、ここ座って」
    「うん?」
    「それで、俺がふーふーちゃんの前に座るから、ふーふーちゃんは俺のことぎゅってしてて。すぐ落としちゃうから」
    「……了解」
    除光液を手にしたらうなじにぷちゅっと柔らかい感触。もちろんそれはふーふーちゃんの唇で、俺は落としそうになった除光液をしっかり握りながら後ろを振り返った。
    「ハグをしてろとは言われたけれどそれ以外何もするなとは言われてない」
    「……そうだったね。もちろん、何をしてても良いよ」
    「サンキュー?」
    ニヤリと口角を上げて、ふーふーちゃんは俺の服の中に手を入れた。は、ほんと、バカじゃないの。今度こそ床に落ちて溢してしまいそうだった除光液をテーブルの上に置いてから、ネイルのヨレた手でふーふーちゃんの手首を掴む。「どうかしたか?」なんて笑いながら言うイタズラっ子に寄りかかって体重をかけた。
    「重い重い、こら浮奇、ふはっ」
    「ネイル落とす間くらいも我慢できないのはどっち?」
    「あはは! 目の前に可愛い子がいたから、つい。ふ、はは、オーケー、もうちょっかいかけないから、さっさと落としてくれ」
    「……キスくらいならしててもいいよ?」
    「ダメだよ。……浮奇は敏感だから」
    わざとらしく吐息たっぷりの声を耳元で落として、ふーふーちゃんはまた楽しそうに笑った。「ビッチ」と吐き捨てた俺の背中に爆笑が降り注ぐ。早く俺もふーふーちゃんのことを抱きしめたいのに、釣られて笑っているうちは手が震えてネイルを落とすことはできそうになかった。
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