喧嘩をした後の浮奇はとてつもなく面倒だ。拗ねて口を聞かなくなるし、そのくせ俺が浮奇を放って違うことに集中し始めれば後ろから物が飛んでくる。謝罪を受け入れてくれないのに俺がそばにいることを望む、面倒臭くて可愛い子。
俺はスマホを操作して浮奇の好きな音楽のプレイリストを再生し、ブランケットに包まる浮奇をその上から抱きしめて肩に頭を預けた。もうすっかり聞き慣れて頭に入っているその歌を口ずさめば、浮奇がピクッと肩を揺らしてゆっくりこちらを振り向く。至近距離で目を合わせて、浮奇には敵わないけれど俺の中ではとびきりの柔らかく優しい声音で「もう許してくれるか、浮奇」と囁いた。
浮奇は何かを言おうと口を開き、しかし何も話さないで口を閉じた後、ブランケットの中でもぞもぞと体を動かした。自由にするため抱きしめていた腕を離し、体ごと振り向いて俺の胸にしなだれかかった浮奇の髪をそっと撫でた。その手を振り払われることがなくて、心の中でホッと息を吐く。
「浮奇」
「ん……もう、おこってない」
「……よかった」
「めんどくさくてごめんね」
「甘えてくれてるんだろう。浮奇が自分を偽らずにいられるなら、俺はそれがいいよ」
「……ふーふーちゃん、だいすき」
「ありがとう。俺も」
髪の上にキスを落とせば、浮奇はパッと顔を上げて俺の頬に唇を当てた。目を合わせて、何も言わずに唇を重ねる。仲直りした時のお互い甘えた気持ちでするキスが好きだから、浮奇となら喧嘩だって悪くない。