イルミネーションを真剣な顔で撮る浮奇を、俺は一歩下がって後ろから写真に収めた。浮奇のむこうに見えるイルミネーションはあまり写っていないしアングルや明るさにも気を使っていないから、きっとこの写真を浮奇が見たらダメ出しの嵐になる。、だからこれは、俺だけの秘密。浮奇がソファーで寝落ちている時の無防備な寝顔とか、愛犬と並んでテレビを見ている後ろ姿とか、そういうなんでもないけれどとても大切な瞬間を俺がこっそり隠し持っていることを彼は知らないだろう。
「よし、オッケー。お待たせふーふーちゃん。ん? どうかした?」
「いいや、なんでもないよ。満足いく写真は撮れたか?」
「ばっちり。後で良いやつ送るね。ふーふーちゃんは? 今日も写真は撮らないでいいの?」
「少しだけ撮ったよ。こういうところに来るのは久しぶりだから楽しかった。連れてきてくれてありがとう、浮奇」
「えへへ、こちらこそ付き合ってくれてありがと。この後どうする? どこかでごはん食べて行く?」
「そうだな……浮奇、今日は自分の家に帰るのか?」
「そのつもりだけど、……泊まっていってもいいの?」
「もちろん、ダメな時なんてないよ。寒いから暖かいところで温かいものを食べたいなと思って」
「シチューとか?」
「食べたい」
「ん、じゃあお買い物して帰ろ」
浮奇は上機嫌な様子でくるりと方向転換してイルミネーションに背を向けた。隣に並び歩調を合わせるとこちらを見上げて笑みをこぼす。イルミネーションよりその笑顔の方が、なんてベタなことを考える自分を笑った。
「んへへ、なぁに?」
「いや、なんでもない」
「えー? ……可愛いって言ってくれないの?」
「……、可愛いよ、本当に、……はぁ」
「ふふ、なんでため息?」
「……ほら、買い物に行くんだろ」
「はぁい」
ご機嫌に笑った浮奇は俺の手を取って歩き出す。イルミネーションを見に来た人たちでこのあたりは人通りが多い。いつもならすぐに咎めるけれど……。
「っ! いいの……?」
「自分から繋いだんだろ」
「そうだけど」
「じゃあ離す」
「やだ!」
ポケットの中に隠した手を、浮奇はぎゅうっと強く握りしめた。最初から離すつもりはないのに。笑い声を漏らした俺に気がついてムッと拗ねた顔をするのすら可愛くて仕方ない。
「ふーふーちゃん!」
「どうした、うきき?」
「……可愛い顔したって誤魔化されないから」
「可愛い顔してるのはおまえだろ?」
「えっ……」
「……もう一回言ってやったほうがいいか? いつも思ってるよ、おまえはすごく可愛い」
「んん……んー……、……ありがと」
「照れてる顔も可愛いし、怒った顔も、泣いてる顔も……もちろん笑った顔が一番」
「……いちばん、なに?」
「ふ」
欲しがりで甘えたな恋人を甘やかすことができるのは俺の特権だろう。イルミネーションから少し離れたおかげで人気も少なくなった道の真ん中で、俺は浮奇に顔を近づけた。まぁるくなった瞳を見つめたまま口を開く。
「どんな時でも、浮奇が一番可愛い」
囁いて、一瞬だけ冷たい唇を吸って手を離した。一歩二歩とステップを踏むように浮奇から距離を取ると、浮奇は突進の勢いでその距離を詰めてくる。俺に笑いながら揶揄われるのが気に食わないのに、嬉しくて仕方ないという素直な表情で俺の胸元を掴んで踵をあげた浮奇のキスを避ける必要はないだろう。今は周りに人がいないのだから。
「ふーふーちゃんのほうがもっと可愛いもん」
噛み付くというには甘すぎる。言葉も顔も、重ねられた唇も。