ソファーの隣に座りジッと見つめて数十秒、全く気がつくことなく本を読み続けていると思っていたファルガーが瞬きをしてから不意にこちらを見上げ「何か言いたいことが?」と優しく笑った。俺は目を丸くして固まり、数秒経ってからようやく「なんでもないんだけど……」と呟いた。こてんと首を傾げる可愛らしい仕草も目に焼き付けて、もう一度口を開く。
「ただ、……ふーちゃん、可愛いなって思って」
「……サニー」
「うん、ごめん」
「ふ、なんで謝るんだよ」
可愛いなんて言って怒らせちゃったかなと思ったけど、本を閉じたファルガーは俺の背中に腕を回した。サイボーグパーツは硬く冷たいはずなのに、彼に触れられる時にそう感じることはほとんどないことが不思議だ。優しく抱き寄せられて、俺はそれ以上距離が近づいてしまわないようにファルガーの肩に手を乗せた。
「ふ、ふーちゃん?」
「うん? 甘えたいんだろう?」
「え!? そんなこと言ってない!」
「顔にそう書いてある。それにおまえが俺を「ふーちゃん」と呼ぶ時は甘えたい時だろ?」
「……まって、無意識だった……気をつけるよ……」
「可愛くて好きだよ。せっかく二人なのに本なんて読んでて悪かったな。どうぞ、サニーの好きにしてくれ」
「え、や、いいよ、全然、ファルガーはファルガーの好きなことをしててほしいし、二人だからって二人で何かしなきゃいけないってことはないでしょ」
「じゃあ何もしないのか?」
「……たとえば?」
「たとえば? サニーが何かしたいことがあるのかと思ったんだけど?」
「……ふーちゃんは、何がしたい……?」
「……おまえはズルい子だな」
背中をするっと撫でた手が頭まで上っていき、ファルガーは俺の髪をかき混ぜてぐしゃぐしゃにしたあと後頭部を引き寄せた。顔が近づき、至近距離であまいグレーの瞳と視線が絡む。
「サニーから触れてほしい」
「……ん、じゃあ、そうする」
ぱちんと目を閉じてしまったファルガーとの距離をゼロにして、優しく唇を重ねた。数回、ちゅっ、ちゅっ、と触れるだけのキスを繰り返した後、うすく口を開けた彼の唇の隙間に舌を滑り込ませる。肩に触れていた手で彼の後頭部を引き寄せて呼吸全部奪うようなキスをすれば、ビクッと震えたファルガーは両手で俺の背中をぎゅうっと抱きしめた。薄く目を開き、彼の顔が紅潮しつむったままの目尻から涙の粒が溢れているのを見て心の中で笑った。「かわいい」と口の中に呟きをこぼすとファルガーは鳴き声のように小さく呻いた。
「ん、……はぁ、ファルガー、ふーちゃん、大丈夫?」
「んん……、……あぁ、だいじょうぶ」
「……もう一回する?」
「……して」
熱っぽい瞳で見つめられるとめちゃくちゃにしたくなって困るよ。きっと、あなたはそれを望んでるんだろうけど。