Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💞 💯
    POIPOI 288

    おもち

    ☆quiet follow

    PsyBorg。🐏🔮。ワードパレットの「チャロアイト」なぞる・唇・秘密がお題でした。

    #PsyBorg

    例えばデートの時。
    俺はどこでも隣でくっついて手を繋いで歩きたいけれど、フツーの人たちがそれを奇異の目で見ることを分かってる。自分がどう見られようがもうどうだっていい。だけど彼が知らないヤツにじろじろ見られるのを好まないことも知っていたから、俺は彼と友人の距離を保ち、触れるのも最小限に抑えていた。
    彼の優しい瞳が俺を映すとキスをしたくて堪らなくなるけれどそれも外ではグッと我慢だ。行きたいところも、食べたいものも、俺に聞いて選ばせてくれようとする彼の優しさだけ受け取って、本当の答えを半分以上隠した綺麗な上澄みをそれらしく答えてみせる。俺のしたいことを全てしてたら一日中デートしても足りなくなってしまう。彼を困らせたくないし、わがままだと思われたくないから、いつからか言葉を飲み込むのが当たり前になっていた。
    例えばセックスの時。
    はぁはぁと荒い息で胸を上下させる俺の隣に、ゴムを外して片付けた彼も寝転がる。まだ、もう一回、ううん、本当は気絶しちゃうくらいまでめちゃくちゃに抱いてほしい。ごろんと体を転がして彼の方を向き、呼吸を落ち着かせようとする彼の横顔を見つめた。俺の視線に気がついてこちらを向いた彼の目がとろりと眠気を帯びている。いつもはもう寝てる時間だもんね、今日は俺に付き合って夜更かしさせちゃってる。
    ちゅっと鎖骨にキスをして彼の体を抱き締めると、彼は俺の額にキスを返して優しく肩を抱いてくれた。まだ足りないなんて、言えっこない。抱かれてる時は満たされて溢れかえっていた心がもう渇いて愛を求めてる。欲張りな自分に蓋をして、「おやすみ」と呟き目を瞑った。優しいおやすみのキスでは満たされない貪欲な心が嫌いだった。
    例えば朝起きた時。
    彼は毎朝愛犬の散歩のために俺よりうんと早く起きてベッドから出て行ってしまう。いつものことだからちゃんと分かっているのに、ぽっかり空いた隣のシーツを撫でて冷たいそれが彼の温もりすら感じさせてくれないことに寂しさを覚える。じわりと視界が滲み、俺は枕に顔を押し付けた。
    同じベッドでくっついて眠るだけじゃ足りないんだ。朝もおはようって言ってキスをしてぎゅうって抱きしめてもらいたい。俺はぐすっと鼻を啜り涙を拭って体を起こした。彼に見つかる前に顔を洗って、いつも通りにしてからおはようを言いに行こう。少しテンションが低くてもそれは寝起きのせいにできるから、おはようって言って、彼の隣にぴったり座って甘えるんだ。それくらいなら大丈夫だよね。
    今まで付き合ってきた人にフラれる時のセリフはほとんど同じ。「浮奇は重いよ」だった。重いって何。好きな人に甘えてキスをねだってハグをするのが重いの? いつでも一緒にいたくて、ずっと愛してほしいのが重いの? それを我慢しなくちゃいけないなら付き合ってる意味ってある?
    次は俺のことを丸ごと受け入れてくれる人と付き合おうって、そう思ってたのに、そんなの考えることも忘れてどうしようもなく好きになってしまったのがふーふーちゃんだった。優しくて、真面目で、面白くて、かっこよくて可愛い彼のことを、俺はあっという間に大好きになってしまった。
    怖くなったのは恋人になった後だった。片思いの間は楽しいだけだったやりとりも、終わりがある関係では失敗はできない。また今までと同じようフラれるのは嫌だった。本当の俺でいたいという気持ちより、ふーふーちゃんと別れたくないという気持ちが勝ち、俺は重いと思われそうな本心を秘密にして彼に可愛いと思ってもらえるわがままのラインを慎重に探りながら過ごした。
    もちろんずうっと我慢しているわけじゃないし一緒にいられるだけで幸せだ。ふーふーちゃんは優しいから俺のわがままを笑って聞いてくれるし、ヤキモチを妬いて理不尽に怒っても「怒った浮奇もセクシーだ」なんて言って俺を甘やかす。
    この人なら本当の俺でも変わらず愛してくれるんじゃないか、なんて、期待をしたくなってしまう。でも俺は今までの人生で嫌というほど現実の残酷さを見てきたから、この幸せな時間を少しでも長引かせるために、やっぱり重たい本心は隠したままふーふーちゃんに可愛らしく甘えてみせるんだ。
    「お、起きたな。おはよう寝坊助。もう顔は洗ってきたみたいだな、何か食べるか? ちょうど果物を買ってきたからそれならすぐに、っと、……その前に」
    笑みを浮かべるふーふーちゃんに「おいで」と手を差し出された俺は迷わずその手を取って彼の胸に抱きついた。ふーふーちゃんはくすくすと心地好い笑い声で俺を包みながら頭の上にちゅっとキスを落とすから、俺はそっと顔を上げた。だって、おはようのキスは唇に欲しいもん。だけどこれもわがままかな? ハグだけで我慢した方がいいの? まだ起きたばかりでいつもより考えるのがヘタクソな脳みそでは答えを出せなくて、ただふーふーちゃんをじっと見つめた。首を傾げたふーふーちゃんは何も言わない俺の唇にキスをして照れたように笑う。
    「合ってたか?」
    「……どうして」
    「おはようって言いにくる時、いつもキスをして欲しそうな顔してるだろ。今日は正面から抱きついてきてくれたし顔を上げてくれたからな、やっとできた」
    「え……」
    「なんて、俺がしたかっただけかも。寝起きの浮奇はいつもよりぽわぽわしてて可愛いし」
    「……いつも、かわいいもん」
    「ふ。もちろん」
    もう一度キスを落とし、ふーふーちゃんは俺の目を覗き込んだ。その瞳にほんの少し不安が混じっていることに気がつき俺は慌てて口を開いた。
    「したかった! 俺も、……俺も、ずっと、おはようのキス、したくて……でも、俺、わがままばっかりだから」
    「……浮奇?」
    「っ、ごめん、やっぱり今のナシ。でもおはようのキスは本当にしたかったし嬉しいよ。ありがとう」
    そう言いながらふーふーちゃんの腕の中を抜け出そうとしたけれど、彼が俺のおかしなところに気が付かないはずもなくて、背中に回った腕は力強く俺を抱いたままでちっとも離してくれそうにない。その力強さにときめいているいるうちに、ふーふーちゃんはもう片方の手で甘やかすように俺の頬を撫でて、それに顔を上げてと言われた気がした俺は恐る恐る顔を上げた。目が合ったふーふーちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべる。
    「こんないい子のどこがわがままだって?」
    「……いい子じゃないよ」
    「俺から見たらすごく素直ないい子だよ。もっとわがままを言ってほしいくらい」
    それは俺がそう見えるように隠してるからだ。本当の本当にわがままを全部言ったら、きっと嫌われちゃう。唇を噛んでふるふると首を振ると、ふーふーちゃんは真面目な顔をして俺のことを見つめた。サイキックでもなんでもない彼に俺の頭の中なんて分かるわけないけど、でもふーふーちゃんは俺の表情で考えてることを当てるのが上手いから、俺は視線から逃げるように顔を俯けた。
    「浮奇」
    ふーふーちゃんの声は少しも怒ってない。むしろ俺のことを気遣う気持ちがたっぷり詰まって優しさに溢れてる。それでも俺は本心を言いたくなくて、ふーふーちゃんに嫌われたくなくて、かすかに首を左右に振った。
    「教えて、浮奇。わがままだって笑わないし怒らないよ。……それとも、俺のことは信じられないか?」
    「ちがっ、……信じてるよ、誰よりも信じてる」
    「じゃあ隠し事はナシにしよう。代わりに俺の秘密も教えてやる」
    「えっ、秘密ってなに?」
    「よし捕まえた」
    ふーふーちゃんの秘密という魅力的なワードに引っかかって顔を上げた俺を、ふーふーちゃんはニッと笑って抱き上げキッチンの調理台に座らせた。下から覗き込まれてしまえば俯いたって隠れる場所はない。視線を彷徨わせてもそれも全部ふーふーちゃんの視界の中だ。
    「……やだ」
    「何がいや?」
    「……ふーふーちゃんに、きらわれたくない」
    「嫌わないよ。俺がどれだけ浮奇のことを好きかちゃんと伝わってると思ってたけど、足りてないみたいだな。大好きなんだよ、浮奇。好きな子のわがままなんて全部聞きたいに決まってる」
    「……俺の全部なんて、重くて、嫌になっちゃうもん」
    「俺のことを押しつぶすくらい重い愛なんて、ぜひお目にかかりたい」
    「冗談じゃないんだって」
    「ああ、俺も冗談じゃないよ。ちゃんと俺を見ろ、浮奇」
    「っ、……でも、だって、……ふーふーちゃんに嫌われたら……もう、生きていけない……」
    「……先に俺の秘密を教えてやる。ここで待ってろ。動くなよ?」
    たっぷりと目に溜まった涙は顎を引いて頷いただけでぼろりと溢れて頬を濡らした。真剣な顔をしていたふーふーちゃんはそれにちょっと笑って、俺の頬を両手で挟んで涙を拭いながらしょっぱい唇にキスをした。「すぐ戻るよ」と優しい声音で言われて瞬きを返す。
    本当にすぐ、一分もかからずに戻ってきたふーふーちゃんは片手に小さな箱を持っていて、調理台の上に座ったままの俺を見て表情を緩めた。さっきと同じように両手を台について俺を閉じ込め、まだ濡れて火照っている目元にキスを落とす。
    「俺の秘密を聞く準備はいいか?」
    「……ん、ききたい」
    「俺の秘密は、これ。浮奇の好みに考慮はしたけれどちゃんと聞かないで勝手に決めて買ってしまったから、渡すか渡さないか悩んで引き出しの奥にしまったままだった。サイズももし合わなかったらかっこ悪いよなぁと思って」
    「……これ……」
    「指輪。お揃いのやつ」
    ふーふーちゃんが俺に渡した小さな箱をパカッと開けると、中にはふーふーちゃんの言う通り指輪が二つ、ちょこんと、だけど厳かに収まっていた。震える指先で一つ取り出し、飾り気のないシンプルで美しいそれを視線の高さまで持ち上げる。
    「……嵌めてみるか?」
    「い、いいの……?」
    「ああ、もちろん。おまえのものだよ」
    貸してごらんと言ってふーふーちゃんは俺の手から指輪を受け取ると、俺の手のどちらを取るか少し悩んで、「くそ……」と照れ隠しだと分かる声音で呟いて左手を掴んだ。心臓が、破裂しそうなくらい、ドキドキしてる。
    ふーふーちゃんは俺の薬指に指輪を通し、ぴったり指の根本に嵌まったそれを見てほっと安心したように息を吐いた。俺は堪らず彼に腕を伸ばし頭をぎゅっと抱きしめた。ねえ、こんな秘密、いつまで隠しておくつもりだったの。買ったその日にちょうだいよバカ。
    「ふ、浮奇、心臓がすごい」
    「うぅ〜……」
    「なんで泣くんだよ」
    「だいすきぃ……」
    「ああ、俺も、大好きだよ」
    とんとんと優しく背中を撫でながら、ふーふーちゃんは俺が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。心臓がようやくいつも通りのテンポに戻って涙が渇いた頃に、「それで」とふーふーちゃんが俺の後頭部に手を添えて顔を上げる。目が合って、唇を重ねて、呼吸を整えてからようやく俺は腕を緩めた。
    「そろそろ浮奇の秘密も教えてくれるだろう。俺のとっておきを教えたんだから、浮奇も、な?」
    視線は逸らさず、だけどまだどうしようと悩んで閉じたままの俺の唇を、ふーふーちゃんは親指の腹でするりとなぞった。端を引っ張り無理矢理口角を上げさせるから思わずムッとして唇を尖らせる。ふっと笑ったふーふーちゃんはそこにちゅっとキスをして至近距離で俺を見つめた。
    「これがただの指輪ならこんなに悩んでない。浮奇とこれからもずっといたいって証だよ。俺に嫌われるかもって心配してるところ悪いけど、俺はおまえに嫌われたって離してやれないんだ」
    「……、……ずっと、ぜったい、離さない……?」
    「ああ、ずっと、絶対、離さない。もし浮奇がこれより重いって言っても、俺は大歓迎だ」
    「……朝、一人で起きるの、さみしい」
    「……そうか。そうだよな。いつも寂しい思いさせて悪かった」
    「んん……あと、おはようって言って、ぎゅってして、キスしてほしい」
    「オーケー。今日の俺は正解だったってことだな」
    良かったと笑ってふーふーちゃんはもう一度キスをした。目を瞑って、開いて、まだふーふーちゃんが俺の言葉を待っていてくれることに心臓がきゅっと甘く鳴る。
    「……夜、する時、本当はちょっと足りない……もっといっぱいふーふーちゃんに抱いてほしい」
    「……浮奇の方が負担が大きいから、あまり無理させちゃ悪いと思ってた。……もっとしても、いいのか?」
    「うん、もっとして。ふーふーちゃん、眠そうだし、疲れちゃうと思って、我慢してた」
    「……今日は早めに風呂に入ろうか」
    「うん」
    「はぁ……聞けて良かった。そうだったのか……。……それで? まだあるんだろう?」
    「……」
    「全部教えてくれるまで離さないよ」
    「……じゃあずっと内緒にしておこうかな」
    「浮奇」
    「ふふ、うそ、ちゃんと話す」
    笑い声を溢してふーふーちゃんの唇に甘いキスをする。ずっと心の中にしまっていたことを吐き出したからか、今までで一番気持ちがいい。なんかもう怖くないかも、なんて口角を上げて、両手でふーふーちゃんの頬を包み込んだ。
    「デートの時、手を繋ぎたいしちゅーもしたい。ふーふーちゃんが人目が気になるのも分かるけど、この人は俺の彼氏なんだって世界中に言いふらしたいくらい、ふーふーちゃんは最高の人なんだよ?」
    「……大袈裟だ」
    「大袈裟じゃないもん。……わがままでごめんね?」
    「……いいんだよ、浮奇。分かってるだろう、俺はダメな時はダメだって言うし、おまえがあんまりわがままが過ぎるようなら怒ってやる。だからこれからも秘密はナシで、全部教えてくれ。……で、これは俺のわがままだけど、浮奇は俺のこと嫌いになるか?」
    「ならないよ!」
    「ふ……。そういうこと。だから、な?」
    「……」
    「ほら、まず手始めに、いま思いつくわがままを一個教えてくれ。バカみたいなことでも絶対できないことでも、なんでもいいよ」
    俺の閉じた唇に魔法のキスをして、ふーふーちゃんはふわりと笑った。なんでもいいなんて、そんな簡単に言わないでよ。俺はそっとキスを返して、また潤んできた視界の真ん中にいるふーふーちゃんをまっすぐに見つめた。
    「一生、俺のこと離さないで。俺はもう一生ふーふーちゃんのこと離せないから」
    「……ああ、一生かけて叶えてやるから、最後までちゃんと確認してくれよ」
    両手をぎゅっと握って額をくっつけ、俺たちは二人きりのキッチンで誓いのキスのように丁寧に唇を重ねた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭💒❤💜☺🙏💒💒💒💒💒💒😂😭😭😭😭💯💒💒😭😭💗💖😭👏👏👏😭😭❤💒💖😭🙏💖☺☺😭❤💜💒💒💒💘😭😭😭💒💒💒💒💒😭😭💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works