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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。うきがふちゃの家の猫ちゃんたちと初めて会う話。好き勝手書いてます。

    #PsyBorg

    インターホンを押して家の前で待っていた俺は、いつもより時間がかかって開いた扉の向こうから現れたふーふーちゃんを見て言葉をなくした。正確には、ふーふーちゃんが両脇に抱える猫を見て。
    「いらっしゃい浮奇。待たせて悪かった」
    「……えっと、……」
    「……とりあえず入るか?」
    一歩後ろに下がって場所を開けてくれたふーふーちゃんに曖昧にお礼を言って、俺は家の中に入り玄関の扉を閉めた。
    ふーふーちゃんはホッとした表情で両手を下げ二匹の猫を床に下ろす。途端、その子たちは弾丸のようなスピードでリビングの方に向かって駆けて行った。
    「……猫、飼ってたっけ?」
    「先週末に迎えたんだ。驚かせようと思ってナイショにしていた」
    「あぁ……驚いたよ……めちゃくちゃ驚いた……。だってふーふーちゃん、犬派じゃん」
    「そうなんだが、猫みたいに可愛い恋人と恋人の可愛い猫を見るうちに、猫と暮らすのも悪くないって思ったんだよ」
    ふーふーちゃんはそう言ってチュッと俺の頬にキスをした。腰を抱き寄せられた俺の体は磁力で引っ張られたみたいにふーふーちゃんにくっつく。俺が持っていたバッグはいつのまにかふーふーちゃんの手の中だった。
    「シェルターから迎えた子たちで、まだ全然俺に懐いてない。犬みたいに躾をすれば言うことを聞くようになるわけでもないだろ? ちゃんと調べて知ってはいたんだが、なかなか手がかかる」
    「俺みたいに」
    「……ふ、たしかに。でも浮奇は俺のことを大好きだからなぁ? 案外簡単に操れる」
    「オーケービッチ、今からベッドに行こうか?」
    「ふふ、冗談だよ。ベッドは後でのお楽しみに取っておこう。猫には逃げられてしまったが、うちのもう一人の家族はおまえに会いたがってるだろうから」
    廊下を進みリビングに行くと、日当たりのいい窓辺で寝転がっていたドッゴがパッと体を起こしてすぐに俺たちのところまで寄ってきた。フンフンと興奮した様子で鼻を鳴らす可愛い大型犬に笑顔を溢し、俺は彼の前にしゃがんで頭から首周りまでわしゃわしゃと撫で回す。
    「ハロー、元気そうだね。キミは新しい家族とうまくやれてるの?」
    「どういうわけかあいつらは俺よりコイツに懐いてる」
    「なるほど、ふーふーちゃんの愚痴を言って仲良くなってるのかな」
    「おお、それなら浮奇も仲良くなれるかもな?」
    「あは、もう、拗ねないで。こんな素敵な人の家族になれるこの子達が羨ましいくらいだよ」
    俺がドッゴと仲良くしている間に、ふーふーちゃんは部屋の隅っこで警戒したようにこちらの様子を見ていた猫たちを素早い動きで捕獲して俺のところに連れてきた。暴れ回って爪を立てても彼の腕には効きはしない。俺の顔の前に二匹を突き出す乱暴さに少し笑って、俺はふーふーちゃんに「大丈夫だよ」と言った。
    「そのうち仲良くなれる。無理矢理話し合おうとしたってこの子たちは嬉しくないんだ。まだこの家にも来たばかりでしょう? 新しい環境に慣れるまで、もう少し時間をかけてあげて」
    「……そういうもんなのか」
    「うん。それとね、猫は現金だから、ごはんをくれる人のことは覚える。慣れたらごはんをよこせ〜ってにゃーにゃー言ってくるようになるよ」
    「なるほど……? わかった、ありがとう」
    ふーふーちゃんは二匹の顔を覗き込んで数秒目を合わせた後、「悪かったな」と言ってその子たちを解放した。一匹はまた部屋の隅っこまで走って行って、もう一匹はドッゴの足元にくっつく。見た目はよく似ているけれど性格は結構違うみたいだ。
    「女の子? 男の子?」
    「女の子だよ」
    「……ふーふーちゃんの家に女がいるのか」
    「猫だぞ」
    「わかってる。ねえレディー、俺とちょっとお話ししない?」
    ドッゴの足元から俺のことを見ていた方の子にそう声をかけて、俺は窓辺のラグに腰を下ろした。ぽんぽんと床を叩けばドッゴが寄ってきて、彼の足元から離れない猫も一緒にこっちにやってくる。俺のすぐ横にドッゴが寝転がり、彼女はそのすぐ横で座って俺を見上げた。
    「ふーふーちゃんはちょっと乱暴なところもあるけれどうんと優しい人だよ。数日だけでも一緒にいたならもう分かってるかな。追いかけてきてくれるから逃げるのも楽しいかもしれないけど、ああ見えてショックを受けやすいんだから、もっと優しくしてあげて。おまえたちはこの家に来られて、ふーふーちゃんの家族になれて、本当に幸せだよ」
    ゆらりと彼女のしっぽが揺れる。まるで俺の言葉に返事をするような仕草だ。そっと手を伸ばせば猫に触れる前にドッゴが僕を撫でてと言うように頭を押しつけてきて笑ってしまった。遮られた形になった猫はするりと隙間を縫って俺のすぐ目の前にやってくる。求められるままに頭と顎の下を撫で、温かい体にも手のひらを触れさせた。
    「え! なんで!?」
    「ふーふーちゃん大きい声出さないで」
    「あっ……悪い。でも、……なんでだ……?」
    「俺が乱暴なことしないって分かるのかもね」
    「……まだ一度もちゃんと撫でてないんだよ」
    「ふふ。大きい声は出さないで、ゆっくり静かに俺の隣に座って」
    こくんと頷いたふーふーちゃんはスローモーションみたいにゆっくり恐る恐る俺の隣に腰を下ろした。俺に撫でられながらふーふーちゃんのことを見上げる猫をじっと見つめるから「目を合わせすぎない方がいいよ」とそっと助言する。すぐに視線を逸らしてどこを見るかと思ったら俺のことを困ったような顔で見るから可愛くて堪らなかった。
    「リラックスしてるから大丈夫。そうっと、優しく、怖くないよーって思いながら撫でてあげて」
    「……」
    「ん、いい感じ、そのままゆっくりね。ドッゴみたいに大きくないから指先だけで撫でてあげる感じで、……うん、そうそう」
    「……ごろごろいってる……」
    感動した様子でそう呟き、ふーふーちゃんは静かに猫を撫で続けた。いつのまにかもう一匹も俺たちに近づいてきていたから「おいで」と声をかけてみる。まだ警戒が解けないようでそれ以上近づいてこないけれど、きっと少しずつ距離を縮めてくるだろう。こんな優しい人の前で、いつまでも警戒してることなんてできっこないんだから。
    「う、うき……! 見てくれ……! 寝た……!」
    「……かわいい」
    こくこくと頷くふーふーちゃんは自分の足に寄りかかって眠っている猫のことを見ているけれど、俺が可愛いと思っているのはふーふーちゃんのことだよ。
    ああどうしよう、やっぱり羨ましいな。彼と同じ家で暮らせて、寄り添って眠ることができるなんて。
    気持ちよさそうに眠る猫を見て無意識に尖った唇に、ふーふーちゃんの指がふにっと触れた。顔を上げると俺のことを見るふーふーちゃんと目が合う。
    「拗ねてる?」
    「……拗ねてない」
    「嘘つき。本当に拗ねてなかったら拗ねてるって言って俺に甘えるだろ。おまえが拗ねてないなんて言うのは拗ねてる時だけだよ」
    「……じゃあ拗ねてる」
    「猫にヤキモチ?」
    「……そうだよ、心が狭い男でごめんね。可愛い女の子と仲良くしてればいいじゃん」
    「ふ、ははっ」
    笑い声を上げたふーふーちゃんは俺が睨むとツボに入ったようで聞き慣れたケトル笑いをして体を震わせた。彼に寄りかかっていた猫はびっくりして起き上がり、ドッゴのおなかのところに移動してそこに寝転がった。
    ふーふーちゃんは猫のことなんて気にせず笑い続けて、でも俺が立ちあがろうとすればすぐに俺の手をぎゅっと掴む。手だけじゃなく心までふーふーちゃんに握られたみたいで心臓がきゅんと鳴いた。
    「……ねこ、かわいいし、ふーふーちゃんの周りに大切にできるものが増えるのはすごくいいと思うんだ。本当に」
    「ん……っ、……はぁ、ああ、そうだな。笑って悪い。浮奇が可愛いことを言うから」
    「可愛くないもん」
    「可愛いよ。猫にもヤキモチ妬くような恋人、可愛くないわけないだろう」
    ほんのわずか、ふーふーちゃんが手を引くだけで、俺は簡単に引き寄せられてふーふーちゃんにくっついてしまう。離れたくないのに「離して」と言う可愛くない俺を、ふーふーちゃんはぎゅうっと抱きしめて「離さない」と言った。
    「……俺が一番がいい」
    「浮奇が一番だ。宥めるために適当に言ってるわけじゃない。犬も猫も大切な家族だけど、俺の恋人は浮奇だけなんだから。一番に決まってる」
    耳元で伝えられる温かい声に涙腺が刺激されたけれど、グッと堪えて俺もふーふーちゃんの背中に腕を回した。俺だって、泣いて甘えるばっかりじゃないんだから。
    「ふーふーちゃんの家族も一緒に大切にしたい」
    「大切にしてくれてるじゃないか。急なことでまだ整理できていないだけだろう。ゆっくり時間をかけて慣れていけばいい」
    「……俺が教えてあげたことじゃん」
    「そうだったか? ああそうだ、今日の夜ごはんは肉料理にしようと思ってて、良い赤ワインを買っておいたからそれを開けよう。デザートの甘いものも用意してあるよ」
    「……餌付けしないで」
    「ふ。やっぱりそう簡単に釣られないか?」
    「……おいしいごはんがなくても、俺はずっとふーふーちゃんのこと大好きだもん」
    「俺が浮奇のメインディッシュだったりするんじゃ?」
    「それは、……否定できないね」
    「ふはっ」
    俺の心が緩んだ隙を見逃さず、ふーふーちゃんは抱きしめていた腕の力を抜いて俺の顔を覗き込んだ。目を合わせて、額をくっつけて、「まだ拗ねてるのか?」と揶揄う口調で言うから、俺はわざとらしくツンと唇を尖らせる。
    「すっごい拗ねてる」
    「ああ、それじゃあとびきり甘やかしてやらないと」
    ふーふーちゃんはくすくす笑いながらそう言ったあと、ちゅ、ちゅっ、と、とびきり甘いキスを何度も繰り返した。
    新入りにはちょっと刺激が強いかな。俺はちらりと猫に視線をやり、俺たちのことを見上げる彼女にウインクを送った。どうぞ、気にせず眠ってて? 俺がいる間は、ふーふーちゃんはキミたちに構ってられないから。
    なんて、こんなふうに大人げなくふーふーちゃんを独り占めをするのは今日だけにするよ。きっと明日からはキミたちのことも受け入れて愛することができるから。だからお願い、今日だけはこの人の心を奪わないで。
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