お店で見つけた瞬間衝動買いしちゃったけど使い所がなくてずっと使えずにいた可愛いレジャーシートは荷物を置いて二人で座るには少し小さくて、俺は仕方ないよねって言い訳をしてふーふーちゃんの隣にくっついていた。ふーふーちゃんはちょっと呆れた顔をしたけれど、でも実際離れて座る余裕がないことを理解して小言を言うこともなく肩をすくめただけ。これが昼間で人の多い公園だったら彼はこんな簡単に諦めてくれなかっただろうけど、今は夜中で街から離れた人気のない広場だ。俺たちの周りは芝生が広がっているだけで見える範囲に人はいない。広い星空は、俺たちだけのもの。
「寝っ転がりたいなぁ。やっぱりもうちょっと大きいレジャーシートにすればよかった。同じ柄でサイズ違いがあればよかったのに」
「だな。……少しだけ、横になるか?」
「はみ出ちゃうよ?」
「ここで良ければ、ご自由に」
「え」
ぽんぽんとふーふーちゃんが叩いたのは自分の太ももで、俺は目を丸くしてふーふーちゃんを見つめた。だって、そんな、外なのに。
「いいの……?」
「その後に交代してくれるなら」
「いいよ!」
「あはは、いい返事。ほら、先にどうぞ」
俺はドキドキしながらふーふーちゃんの足の上に頭を乗せた。俺の部屋とかふーふーちゃんの部屋でくっついてる時に膝枕をしてもらうことはたまにあるけど、こんなに緊張するのは初めてかも。
うるさい心臓を押さえながら視線を上に向けると、降り注いできそうなくらい満天の星空が広がっていて、俺は「わぁ……」と小さく声を上げた。ふーふーちゃんも後ろに手をつき少し体を逸らして空を見上げてる。星空よりも近くにあるその顎のラインに心臓がトクトクと高鳴った。
「ふーふーちゃん」
「んー」
「……ちゅーしたい……」
「は」
小さく呟いた声は物音のしない静かな夜空の下できちんと彼に届き、ふーふーちゃんはパッと顔を下に向けて俺を見つめた。
「……なんで星を見て興奮してるんだよ」
「ふーふーちゃんを見ちゃったんだもん……」
「……」
「一回だけ……そしたら帰るまで我慢するから……」
ちょんと彼の服を掴むと、ふーふーちゃんは一瞬だけ星空を覆い隠してくれた。すぐに離れていった不機嫌そうな顔が照れ隠しだって知ってるから、俺はふーふーちゃんのおなかにぎゅーっと抱きついて大好きって何回も繰り返した。
しばらくそのままにさせてくれたけれど、許容量を超えたらしく「星を見に行きたいって言ったのは誰だ」ってふーふーちゃんが俺のこめかみを拳でぐりぐりと押してきて、俺は笑いながら顔を上げた。笑ったふーふーちゃんの顔と、そのむこうで瞬く星が俺の胸をいっぱいにする。幸せすぎてだめかも。ずっとこのまま、この時が一生続けばいいのに。
はぁと吐き出した息は体に収まりきらなかった幸せが溢れ出したようだった。ふーふーちゃんがちょっと首を傾げて、俺の頬を優しく撫でる。大丈夫だよって言うみたいにその手に擦り寄り唇に近づいた指先へちゅっとキスをした。
「浮奇」
「へへ。ね、次ふーふーちゃんの番。こっちおいで」
体を起こした俺はふーふーちゃんがしてくれたようにぽんぽんと太ももを叩いた。優しい彼に甘えるのが大好きだけど、甘やかしてあげるのも大好きなんだ。
⭐︎
寝転がって見上げた星空のうんと手前で、浮奇が空を見もしないで俺を見下ろしていた。俺を見つめるその目が、つんと尖ったその唇が、何を求めているのか分かってしまう。風で流れてきた薄い雲が星空を隠してしまったから、少しの間だけ空から目を離してもいいかな。
「浮奇」
たった二音、名前を呼ぶ声だけで俺の考えを察した浮奇は嬉しそうに表情を緩めて俺の視界を塞いだ。ちゅっと触れた唇は夜をまとってひやりと冷たい。ブランケットでも持ってくれば良かったなと頭の片隅で考えながら、俺は手を伸ばして浮奇の後頭部を引き寄せた。
簡単に体温を上げる方法を、俺たちは知っている。