俺は今とても疲れが溜まっていて、しっかり休むべきだった。それなのにベッドに入ることもせずリビングのソファーにだらしなく座って酒を飲んでいるのだから、自己管理がカケラもできていないことは自覚していた。酔いが回るとともにどんどんと体がだるくなっていくのを感じながら、あとすこし、もうすこし、と酒を注いでいく。
どうしてここから動きたくないんだろうと自問自答していた問いは、「ただいま」の声が聞こえてようやく答えに辿り着いた。
「あれ、ここにいたんだね。ただいまふーふーちゃん」
「……」
「ふーふーちゃん? ……どうしたのベイビィ」
帰ってきてリビングを覗いた浮奇はそこに俺がいるのにいつものようにおかえりと返さないことに首を傾げ、すぐに俺の隣に座って頬に触れた。やわらかく温かい手に擦り寄ると心が和らぐ。ほっと息を吐くと浮奇は心配を滲ませた瞳で俺の顔を覗き込んだ。
「ふーふーちゃん……」
「……おかえり」
「ん、ただいま。ぎゅーってしていい?」
弱く首を横に振れば浮奇は頬から手を離し、俺の持っていたグラスを奪いとった。中身の減った酒瓶を見て「どれだけ飲んだの……?」と小さく呟きながらグラスをテーブルに置く。
お互いの手がフリーになったところで浮奇は俺の両手を優しく握った。細い指がそっと絡み、「今日はいい天気だったよ。あとでドッゴのお散歩一緒に行こうね」と他愛もない、いつも通りの話を振ってくれる。
二人きりの時は黙ってくっついてくることが多いのに、今日の浮奇は俺の代わりをするように優しい声でたくさんの言葉を紡いだ。聞いているうちにだんだんと体から力が抜けていき、俺は浮奇の肩に額を寄せて体重を預けた。俺の頭に浮奇が頬をくっつけているのを感じて余計に浮奇に寄りかかってしまう。
「……ごめんな」
「うん? なぁに、なんにも謝る必要ないよ。俺はふーふーちゃんが甘えてくれて嬉しいもん」
「……ありがと」
「ん、えへへ、どういたしまして」
浮奇は俺の手を自分の体に触れさせて、俺が自分の意思で浮奇を抱き寄せるとふふっと嬉しそうに笑った。離れた浮奇の手は俺の背中と頭を抱いてふわふわと撫でる。体全部、頭も心も浮奇でいっぱいになって、思い出したように眠気がやってきた。
目を開けていられなくなった俺は眠りたくないと駄々を捏ねるように浮奇の肩にぐりぐりと額を擦り付けた。浮奇はもう何も言わずに俺の頭を撫でていて、おやすみも言えずに意識が遠のいていく。
起きたら必ず愛していると伝えるから、このまま俺を離さないでくれ。