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    ラーヒュン ワンライ 「看病」 2023.09.24.

    #ラーヒュン
    rahun

     ラーハルトが高熱を出して、ヒュンケルは思い知った。病人の介抱が分からない。とりあえず宿に担ぎ込み、生命維持の必需品である水と塩だけは確保したが。
     次はどうすればいい。己は度々体調を崩して彼の世話になっているというのに、いざ立場が逆転すれば右往左往するばかりだとは。情けない。
    「なにか食べるか?」
    「食えん……」
     ラーハルトは布団に包まってベッドで丸まり、ガチガチと奥歯を慣らして苦悶の汗を浮かべている。
     旅の最中ならば物資は乏しいのが当然だが、それでもラーハルトはヒュンケルが倒れればどこからともなく甘い果実のジュースなんかを調達して来た。市場の立たぬ農村でもだ。
     あれらはどう手に入れていたのだろう。こうなる前に教えを請うておけば良かった。
     いやそれよりも。
    「オレが不覚を取らなければ……」
     昨日の戦闘で、ヒュンケルは敵の攻撃をいなしきれず後ろに吹っ飛ばされた。湖に落ちる覚悟をしたが、バックステップで追いついたラーハルトに胴を支えられ、岸へと押しやられた。
     そして代わりにラーハルトの派手な水しぶきが上がった。一瞬で戦線に復帰してきたので戦況にこそ問題はなかったが、彼はその後もずぶ濡れのままだったのだ。
    「風邪……? オレがそんな人間の罹るような軟弱な病で寝込むものか」
     言外に、落水とは関係ないから責任を感じるなと含ませているのだろうが、気遣われると余計に心が沈む。寝台で呼吸を乱しながらもヒュンケルを案じてくれている彼に比べて、相棒として看護の役すらも果たせていない自分は。
    「そうだな。軟弱な人間だな」
     横臥のラーハルトが気怠げに瞼を上げた。
    「……違う種類の生き物なのだ。患う病気も違う。だからおそらくこれはおまえにはうつらん。そこは利点だ」
     慰められるほどに心苦しくて、彼の視界に居すわることすら烏滸がましくて、背を向けた。
    「安静にしていてくれ。オレは少し出てくる」
    「待てっ」
     枯れた声にしては鋭く引き留められた。
    「どうした? 欲しいものでも?」
    「こちらへ来い」
     助けが必要なのかと急ぎ引き返してベッドの横に跪くと、額にペタリと手を置かれて驚きに肩が揺れた。
     当てられた手はすぐにするりと離れて、シーツの端に力なく落ちた。
    「やはりな。おまえも熱がある……」
    「違う生き物だからうつらんはずでは?」
    「……忘れていたがオレは半分は人間だった。つまり、これは人間の罹る、ただの軟弱な風邪だったらしい」
     言われてみれば頬が少しぼうっとする。自身ですら気付かなかったのに。
    「なぜオレに熱があるとわかった?」
    「おまえが急に悲観的になるのは、大体は体調が悪いのだ」
     ベッドから伸びてきた手に二の腕を掴まれたヒュンケルは慌てて身を引いたが、握力を増して指を食い込まされた。
    「離せ。オレは症状の軽い内におまえを回復させる薬なり食品なりを調達しなければ」
    「要らん。寒いから入れ」
     寝具に引きずり込もうとする手は痛いほどに強引だ。体力的に問答の余裕が無いのかも知れない。
     抵抗をやめたヒュンケルは、たちまち布団に取り込まれて抱き枕よろしく足でホールドされた。
    「まったく……。二人共が寝込んだらどうするんだ」
    「治るまで二人で寝ておけば良かろう」
    「ただの風邪ではなかったら? 両方が死んだら?」
    「それもいいさ。そうしたらおまえはずっとオレのだろ」
     竜騎衆として使命に生きるラーハルトが、その鉄の意志を忘れて心中擬きの発言をするとは。
    「おまえが急に悲観的なのも体調が悪いからなんだろうな」
    「……そうか……これが、そうか。体が悪いとは不安なものだな」
     ラーハルトは笑いたかったようだが、吸った息が喉にからんでゲホゲホと派手な咳をした。生理的に込み上げたのだろう涙で濡れた睫が可愛かった。
    「置いて行くなよ……。今のオレでは、追いかけられん……」
     いつになく気弱な台詞が熱っぽくて、ヒュンケルは、彼の胸元へと顔を寄せて精一杯に湯たんぽを務めた。
    「おまえが病んでいようが、いまいが、変わらん。共に居るさ」
     そう答えると、ラーハルトの手足がぎゅうとしがみついてきた。震えていた。
     寒いなら今は眠るといいだろう。
     二人して布団に包まれて目を閉じる。まるで巣穴に篭もる冬越しのようだ。
     だったら春は必ず来るだろう。






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