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    ラーヒュン ワンライ 「ウィンク」 2024.02.17.

    #ラーヒュン
    rahun

     ヒュンケルが快癒したのは僥倖だった。元の戦闘能力が戻らなければ、とてもではないがラーハルトと二人連れの魔界調査になどは出向けなかっただろう。
     しかし二人はまったく反りが合わなかった。
     剣戟の喧噪を駆け抜けて、ヒュンケルとラーハルトは、剣と槍を振るう。
    「だから言ったのだ、時間が無駄だと! 早くダイ様を探さねばならんものを……!」
     敵の魔族を一人、また一人と薙ぎ払い、ラーハルトは苛立たしげに吠えた。
    「だが大勢が命を落とすのはダイとしても本意ではあるまいっ」
     ヒュンケルが襲い来る敵を切り伏せながら反論すると、ラーハルトは更に食って掛かってくる。
    「こんなものは唯のマフィア同士の抗争だ! オレたちが割って入る必要はなかったろうが!」
    「勢力に差がありすぎる、あのままでは一方的な嬲り殺しだった……!」
    「ここは魔界だぞ!? それが普通だ!」
    「だが……!」
     戦闘中にも、侃々諤々、喧々囂々。
     こんなに気の合わないヤツがこの世に存在しているとは思いも寄らなかった。
     地上より魔界へ、調査隊がいくつか派遣されたのはもう、一週間も前になる。その際、同じような性格だから気が合うのだろう、そんな短絡的な見立てでパーティが編成されたのかも知れないが、これがとんでもなかった。
     同じような性格だからこそ軋轢が生じる。価値観が同じなのに出す結論が違うのだ。これが最悪だった。
     意見の食い違いが度々起こった。今回もそうだ。
    「囚われていた奥方たちは解放すべきだったろう!」
     複数の女達が力尽くで連れ去られる現場に遭遇した。誘拐犯のルーラの軌跡を見送るしかなかったヒュンケルが即座に周囲に居た者たちを捕まえて、口を割らせたところ。それはここを牛耳る一団の常套手段らしかった。弱小組織の家族を攫って人質とし、傘下に入ることを強要する。もちろん断れば皆殺しだ。一団はそうやって勢力を拡大中とのことであった。
     しかし今回は狙われた組織も気骨のある連中ばかりだったようで、人質奪還の討ち入りが決行されたというわけだ。
     全滅必至の実力差にヒュンケルは静観を決め込んではいられなかった。
    「……女には危害を加えるなと、オレは父から教わったのだっ」
    「女ならな! 奥方たちとやらも相当な使い手だったぞ! 組織の立派な構成員だ! 女である前に戦士だ!」
     マァムが戦士だから女で無いかと問われたら、ヒュンケルとしては答えは否だ。
    「今回は付き合ってやったが、甘い考えは今後改めろよ!」
     腹立たしい。こんな偉そうな男は初めて見た。
     とにかくやることはやった。後は包囲網を抜けるだけ……。
    「くっ! また来るぞ!」
     渓谷の淵沿いを追われているゆえ移動ルートは変えられない。
    「やるしかない!」
     取り囲まれる。数が多い、なのにそれぞれが雑魚とは呼べない強さなのは流石の魔界である。
     しかしながら毛ほども負ける気はしていない。
     斜めに背中を合わせあう絶妙の間合い。ヒュンケルの苦手とする敵はラーハルトの得手であり、逆もまた然り。息を合わせて補い合えば面白いように敵が数を減らしていく。
     どうして、こんなに、戦闘の相性だけは信じられないくらいに良いのだろう。そうでなければもうとっくに縁を切っていたろうに。
    「くそっ、退かんと本当に殺すぞ!」
     致命傷を避けて戦闘不能にするのが邪魔くさくなってきたのだろうラーハルトが吐き捨てた。
     彼が命を取らずにいるのは主君たるダイの心を慮ってのことであり、彼自身の思いやりではない。その事にヒュンケルはまた辟易する。
     もうそろそろ、別行動を申し出るべきなのだろうか。
    「……っ!」
     と、緩み掛けていた気が瞬時に引き締まった。
     前方に現れた剣士の男は、見た目こそこれまでの魔族と変わらぬが。
    「こいつだけ他とレベルが違う」
    「ああ」
     二人、構えたが、ラーハルトが先に仕掛けた。
     背後に崖。立ち塞がる魔族と一撃勝負の一騎打ち。
     槍が届くも、斜めに振り下ろす剣にヒットされ、鎧の魔槍の額当てが砕け散る。
     相打ち、いや、やられた。ラーハルトと同等の速さだが、威力はあちらが上だ。
     ラーハルトの身体が受け身も取らずにバウンドして底の見えない谷底に落ちてゆく。
     意識が無いのか。
     咄嗟に飛び込み、追いかけて捕まえ、彼を抱えて庇って崖に打たれながらヒュンケルは転げ落ちた。



     谷底で目を覚ます。少々の時間経過があったようだが、日が無いので計れない。
    「偶然にも追っ手は撒けたようだな」
    「不幸中の幸いだな」
     遙か頭上の大地の切れ目に、魔力による偽りの太陽が覗けていた。このような登る手立てすら無さそうな絶壁は、奴等も降りたくはなかったのだろう。
    「さて、どうするラーハ……」
     そちらを見て絶句した。怠そうに胡座を掻くラーハルトの、顔の左半分が血で青く染まっていた。急いで駆け寄って膝立ちになり検分する。
    「傷はすぐに治りそうだが……」
     乾いた血で塗り固められて左目の瞼が上がらないようだ。
    「このまま先程の奴に出会したら後れを取るぞ」
    「支障はない。片目くらいで……。それともなにか? オレがクロコダインに劣るとでも?」
    「戦い方がまるで異なるだろうが。槍にとっては遠近感が掴めんのは致命的だ」
     ヒュンケルは水筒を取り出して膝でにじり寄り、水で血を洗い流そうとしたのだが、ラーハルトは手で制した。
    「魔界では飲み水は貴重だ。ましてやこのようないつ抜け出せるとも分からぬ地で。やめておけ」
    「おまえが万全であることは生き抜くために必要なことだ」
    「オレは支障がないと言っとろうが。だが人間は水がなければすぐに支障がでてくるんだろう?」
    「その前に敵と遭遇しないとどうして言い切れる」
    「その前に水が尽きないとどうして言い切れる」
     平行線だ。言葉に詰まる。
     首を傾けて見上げながらジロリと不機嫌に流し目をくれてくる彼の、左目は閉じているものだから、まるで遠い右目から意味深な目配せをされているかのようだった。その高慢のままに。
     ストレスが限界を超えた。頭の中で線がプツリと切れた感じがした。
    「もう黙れ」
     顔を近づけて、唇を降ろす。これ見よがしに、ゆっくりと。
    「ヒュ……」
     口を大きく開いて、ラーハルトの左目を舌で包んだ。
     睫毛を巻き込んで固まる血糊を、唾液を乗せた舌で刮げて溶かし、飲み込んではまた新たな唾液で拭う。
     ざらついた睫毛の列を舌先に感じながら汚れをこすり落とし、舐め上げて瞼を起こす。
     少し顔を離すと、限界まで大きく見開かれた目に凝視されていた。その左目の中に血の欠片を見つけたので、再度口を近づけた。
     舌で舐めると、表面にはほんの僅かな瞳の膨らみがあった。
     谷底に吹く風の音しかしなかった。
     次に離れた時にはもう、ラーハルトは平常時の表情を取り戻していた。
    「……最適解だ」
     開いた自らの左目にそっと触れ、ラーハルトはそれを認めた。
     水を使わずに視界を取り戻す。これ以上の解決法はない。だがしかし。
    「男にこんな事をされて、よくオレを突き飛ばさなかったな」
     最後まで大人しくされるがまま上向いていたラーハルトに、ヒュンケルは、内心では天地が返りそうなくらいに驚いていた。これを期に激怒させて道を別とうかという思惑も、無きにしも非ずだっただけに。
     だが。
     立ち上がり、荷物を背負い直したラーハルトが嘆息と共に吐き出した言葉は。
    「男とか女じゃないだろう。……おまえじゃなきゃ殺してた」
     冷淡なようでいて、信頼だった。
    「ラーハルト……」
    「なにしてる。行くぞ。谷底で行き倒れるつもりか?」
     目が覚めた。
     そうだった。彼との歩みは信頼から始まったのだ。なにせ、あの魔槍を受け取って始まったのだから。
     本当に彼には、思いやりは無かったか?
     見なければ。もっと注意深く彼を見なければ。
     誰のために水を節約したのか。
     どうして一人であの魔族に掛かっていったのか。
    「先程の敵はオレの苦手とするスピードタイプ。おまえでなければ死んでたかもな……ラーハルト」
     ヒュンケルはそれを素直に認めた。
    「……? なんだ急に、気味の悪い」
    「いいじゃないか。偶には」
     真横まで追いついて、共に進む。
     そうして並んで歩く二人の距離が、ほんの少しだけだが、これまでよりも近かった。













    2024.02.17. 15:05~18:00  SKR















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    (アポロさんとヒュンケル、ほんのりラーヒュン)

    2021年、ダイ大、ラーヒュンにはまって。Twitterを始めたり、自分で何かを創作する日がくるなんて想像もしていませんでした。そしてそれがこんなに楽しいなんて!
    挙動不審にも関わらず、温かい声をかけてくださったり、仲良くしてくださって、本当に本当にありがとうございました。
    感謝しかありません。
    ヒュンケル、仕事を納める年の暮れ、パプニカ。

    平生は穏やかでありながら行き来する人々の活気を感じられる城内も、この数日ばかりはシンと空気が落ち着く。
    大戦前の不安定な世の頃は年の瀬といえど城の警備を手薄にするなどありようもなく、城内で変わらず職務をこなしながら、見知った仲間とただ時の流れとともに志を新たにしたものだった。

    勇者が平和をもたらしてくれたから。
    三賢者のうち、マリンとエイミの姉妹は今日うちへと帰った。アポロは今夜と明日の晩は城で過ごすが、二日後は姉妹とバトンタッチをして帰郷する。墓前に挨拶などこんなときにしかしない。頭の中で、城下の花屋でブーケを買い帰る算段をしているとき、意外な人物を認め足を止めた。

    姫の執務室の扉の前。
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