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    闇鍋参加させていただきます。R-18ではないです。
    ちょっと長くなったのと、セクシャルマイノリティのセンシティブな部分に触れてしまっている話になってしまったので、ぽいぴくでの投稿にさせていただきました。よろしくお願いします。

    #侑日
    urgeDay

    強引な人「いい加減にして下さい。そのノリ面白くないですし、俺そういうの好きじゃないです。気持ち悪いです。」

     最高に調子が良くて気持ち良い勝利に終わった試合の後、更衣室で侑さんに俺の事が好きだと言われて返したのが冒頭の言葉だ。



     恋とか愛とかは難しくてよく分からない。ずっとバレーに夢中だった。男女共に友達は多かったけど、恋愛は20歳を過ぎた今でもしたことはない。でも高三になって背が170センチに届いたくらいの頃から告白をされる様になった。だいたい後輩の一年生。顔と名前が一致しない人と恋人になんてなれないし全部お断りしてたけど、俺より小さくて年下の女の子から好きだと告白されたりバレンタインにチョコを貰ったりすると一晩はその子の事が頭から離れなかった。それからは自分がそういう対象で見られる事もあるんだって意識する様になった。そしてブラジルに行くともっとそれが顕著になっていった。流石に女の人じゃなくて男の人からの方が多くなったのは自分でもびっくりした。でもブラジルは同性婚も認められてるくらいの国だもんなって特に深くは考えなかった。だけど、配達のバイトのお客さんと意気投合してそのまま家に誘われて、ベットに押し倒されそうになって間一髪で逃げおおせた時は本気で怖くて、帰った後ホッとして情けないけどちょっと泣いた。
     一人で抱えきれずそのとき一緒にペアを組んでいたやつに相談したら、烈火の如く怒って大事になりそうだったから「大丈夫!!聞いてくれただけで充分!!」って怒りを抑えてもらって、友達を傷つけたくないしそれからは少し警戒して過ごす様になった。
     でも、ペアを解消するときにそいつから俺のことを好きだったと言われた時は本当に今までで一番ビックリした。ブラジルに生まれた彼は敬虔なキリスト教の両親の元で大切に育てられたから今まで誰にもその事を話したことはなかったと言っていた。俺を好きになって耐えられなくて言ってしまったと告白した後「気持ち悪いでしょ。ごめんね。」と言って泣いていた。「気持ちには応えられないけど、そんな事思ってない。好きになってくれて嬉しいよ。」ってはっきりとそう言った。それに嘘や気使いがないってことが伝わるように真剣に伝えたらそいつはもっと泣いてしまったけど、最後には笑ってくれた。そんな強くて繊細な気持ちを向けられても恋愛感情は分からないまま過ごしてきた。俺にはバレーがあるしバレーしかなかった。
     
     だからこんな気持ちになるのはおかしいんだって分かってる。

     日本に帰ってきてトライアウトを受けたチームから無事採用された俺は今年からMSBYブラックジャッカルでバレーをする事になった。チームには顔馴染みの先輩がいてすぐに溶け込めた。先輩もキャプテンもコーチも監督も優しくてでも優しいだけじゃない強さもあって毎日刺激を受けている。
     特にセッターの宮侑さんは俺に特に良くしてくれる。寮でのルールやチームの規範もいろいろ親身になって教えてくれて、引っ越しのときは荷物運びなんかまで手伝ってくれた。普段も頻繁に飯誘ってくれたり、一緒に買い物に行ったり。もちろん治さんのお店にも何度も連れて行ってもらった。俺が自炊するって言ったら安い近所のスーパー教えてくれたり買い物一緒に付き合ってもらったりもよくする。
     もちろんバレーもすごくて夜遅く時間ギリギリまでトスを上げてくれるかと思えば、俺が今日はやりすぎてるかなと思う前に「翔陽くんアカン。オーバーワーク気味や。」と中断してくれるのも侑さんだ。
     最高のセッターがめちゃくちゃにいい先輩だったというラッキーな状況だ。本当に良くしてもらってる。
     そういえばスーパーを教えてもらった時失礼ながら結構意外だったから
    「侑さんも自炊とかするんですか?」
     って聞いたら、
    「ん?せぇへんけど。彼女おるときは頼まれる事とかあるからな。まぁ今はおらへんけど。」
    って言ってた。みんなの評判いわく曰く侑さんは「ヤリチン」らしい。他のチームメイトからも「時間を見つけて女をとっかえひっかえしてんねん。翔陽は悪い遊びにはついていったらアカンで。」と念を押されている。
    侑さんは確かに時々寮を外泊するけどそれにはまだ誘われたことはない。それに、女の人にモテる人は怖い人とか自分勝手な人っていうイメージが漠然とあったけど、そういうのを改めないとなと思うくらい侑さんは優しい。だから、俺たちの知らない優しさを持っている侑さんも確かに存在していて、そういう人が女の人にモテるのは当然だよなって気持ちに変わっていった。
     
     そして最近俺は侑さんが自分がしたくないことしない人だっていう事が分かってきた。侑さんはそんなことを俺に分からせるくらい分かりやすい人なのに、俺にたくさん優しくしてくれる。俺を肯定してくれる。バレーを褒めてくれる。ダメなことは嗜めて改善策を一緒に考えてくれる。
    「さっきのすごいやん、翔陽くん。」
    「ええな、翔陽くん。」
    「アカンで翔陽くん。困ってんねやったら一緒に考えようや。」
     いつもそうやって距離を詰めて俺にのそばにいてくれる。いつも笑ってくれている。バレーうまくいってない時は厳しくしてくれて、立ち上がれるようにそのあと奮い立たせてくれる。そんな侑さんをいつしか好きになってた。かっこよくて優しくて何より全部バレーにして生きている人に惹かれていく。至極当然のことだったのかもしれない。
     でも、最初から失恋が決まっているなんて本当に虚しい。まさか初めて恋愛感情を持った人が侑さんじゃなくたっていいじゃないかと自分を呪いたくなる。そんなふうに思っても報われない。侑さんは女の人が好きだ。男の俺を好きになったりしない。きっと誰に対してもこういうふうに優しい人じゃない。だから俺は多分気に入られてる後輩なんだ。でも歴代の、彼女さんにはもっと特別に優しくしているんだろう。仕方がないことだ。そうやってちょっとずつ傷つきながらやり過ごそうとしてるのに、侑さんは優しいだけじゃないから困るんだ。バスは基本的に横に座ってくる。まぁ、それは嬉しいからいいんだけど。隣に座ってることや横にいることが多くて、そういうとき俺の肩は顎をのせられたり、肘をのせられたり侑さん専用の肘置きになってる。最初は気にしてなかったけど、自分の気持ちを自覚してからは心臓がうるさいくらいドクドク波打つ。そして俺が赤くなるのを分かっているのかいないのか分かんないけど、女の子に言う様なことを言ってくる。「今日も翔陽くんに最初に挨拶できたわーうれしーわ。」とか「翔陽くん今日もかわええなぁ。」とか。いいプレイが出来たら「今の翔陽くんごっっつかったな!!」ってそのままハグされたり、いやそれは別に他の選手ともするけど、俺にとっては侑さんと他のチームメイトとは話が違う。そんで俺が赤くなったり照れたりするのを見て満足そうにしてる、様に見える。揶揄われてるんだって分かっててもドキドキしちゃうものは止められない。耐性も対処法も知らないから気持ちがバレないように「もう!何言ってんすか!」って嗜めるのが精一杯だった。


     だから、今日試合終わりの更衣室で思いついたみたいに言われた言葉についカッとなって言ってしまった。そこまでいう必要なかったんじゃないかなって思う気持ちもあるけど、でも俺の気持ちも、ブラジルでの経験も、泣きながら自分のアイディンティティに苦しんでいたあいつのことも踏み躙られたような気がした。悔しくてやるせなくてでもそれなのに好きな気持ちをバカにされた気がして言ってしまった。こんなに怒ったのは多分人生で初めてだった。



    **
     

     俺、その日めっちゃ調子良かってん。ボールが手に収まる感じ。離れる感じ。エエ感触でブロックもよく見えた。そんで今の俺にはプロの仲間がおる。そん中に好きな人がおる。翔陽くんというスパイカーがおる。あん子は俺の完璧なトスをより高く高く跳んで俺の想像のつかん程のスパイクをキメよる。
     今日の気持ちええ勝ち方、気持ち良おて、ホンマに嬉しかってん。今なら言える気ぃがして、なんでか翔陽くんも受け入れてくれる様な気ぃもして言ってしもたんや。言い訳してもしゃーないけど、完全にはしゃぎすぎてたんや。
     キモいんは自覚してる。俺かてちゃんと分かってるよ。でも俺はどんなに自分で自分の事キモい思うても、君に会う前から男が好きやってん。最初に好きになったんは小学校5年生のときの担任や。背ェは小さかったけど、足速くて明るくて。俺とサムを中々見分けられへんポンコツな部分もあってんけど、俺らがバレーやっとるん知ってから「先生もう覚えたで!侑はセッターの方やんな!」って言うてくれてん。ホンマごっつ嬉しかった。誰にでも優しくていつも元気で先生の方がずっと大人やのに、かわええなと思ってた。
     でも俺はそれがフツーとはちゃう事に気付いてた。サムもクラスの奴らも好きんなる子はちいこくて柔らかい女の子や。
     今はLGBTとかそういうんであんまり流れんくなったけど、そん頃テレビとかで男で男好きな奴は怖がられて逃げられよるのをよう見かけた。それを見た時に不快感よりも先に湧いたんは恐怖心やった。「あ、俺はフツーではないねんな。」って思った。俺のこの感情は人に逃げられるほど醜いものやねんなって怖くなってん。そんでも女子が先生にバレンタインチョコ渡しとるん横目で見て羨ましいて悔しいてしゃーなかった。なんで俺はフツーやないねんって思ってた。そんでも先生に俺の気持ちをわかって欲しいって事よりも、俺はフツーからの爪弾きが怖かってん。バレーではフツーなんかつまらん思うのにな。
     小学生までは何も気にせんでよかった。男は男でつるむし、もし誰が好きやなんて話題になってもみんな大体おんなじ子の事好きやしそれに合わせておけば良かった。せやけど、中学生になったらホンマにお付き合いを始めるやつもちらほら出始めよった。怖かったけど、それでもバレーがあるしサムも部活の奴らもバレーしよったら恋愛なんかにかまけてられへんって頑張ってたしな。
     ほんでも高校になってついにサムに彼女が出来た。勝手に焦って、どうしたらええか分からんで、悩んで、こんなんアカンと思ったけども試しに告白してきよった女子と付き合う事にした。もしかしたら好きになれるかもしれへんって淡い期待もしてた。周りからもかわええって言われてた子やったし。でも2人きりで雰囲気作られて、こん子とキスせなあかんのやって思ったら嫌悪感で耐えられんくて突き飛ばしてもうて振られた。次の日にはサイテーな男として噂が流れとった。ほんで、使えるって思ったんや。
     それからは女と気まぐれで付き合ってポイする奴を演じた。今思い返さんでもサイテーやとホンマに思うねんけど、そんでも俺はそんくらい自分の保身に躍起になってた。せやけど俺が好きになるんは男ばっかりや。ちょっとちいこくて、一生懸命で明るい感じの後輩とかが多かったな。でもそういう子は結構モテてすぐ彼女できんねん。人知れず失恋しながらも好きな子から良え先輩と思われたいから「彼女出来たんか!良かったなぁ」ってアイス奢ったりして、帰り道ホンマに落ち込んだりして、でも誰にも相談も愚痴も吐かれへんかった。

     そんな時に君が現れたんや。
     春高で初めて対戦した次の日。退場していく君の後ろ姿を見て、前の日に君らに負けた事よりも悔しかった。
     たった一回会っただけやのに忘れられへん。最初は気のせいやって思ってたんやけど3年になる頃にはもう誤魔化されへんと思うところまで来てた。次の年烏野がインターハイ負けよったって聞いたときは1人でキレ散らかしたりもしたんやけど、そんでも君が心配やった。せやから春高で再会出来て勝ててホンッマに嬉しかった。やっぱり翔陽くんが好きやと思ったんや。
     そんでやっと女の子と付き合うのはやめてん。人を本気で好きになる気持ちが分かって、目の前の女の子達が俺のことがホンマに好きなんやってやっと分かったから。ポンコツの俺を君が恋が出来る人間にしてくれたんやって思ってる。君が分からせてくれたんや。でも俺はこの期に及んで、男が好きやって思われるんは怖かって意図的にチャラついて遊んどる様にそう見させてた。
     誰にどう思われてもええと思ってるはずやのにずっとずっと怖かった。ホンマに誰にも言われんで、サムにも言えんかった。
     でも今更君以外の子とどうこうなるとも思われへんし、誰ともどうともならんままこのまま終わるんやと思ってた。
     君が高校卒業した年から、君の名前がないかなっていろんなところで君の名前探した。そんでも君はバレーをしてるやろって確信してたから、見つからんでも全然心配はしてなかってん。まさか地球の裏側でしてるとは思わへんかったけど。いつか一緒にバレーしたい。そう思ってた。それだけで充分やって思ってたんや。
     

     そして、また君は俺の人生に現れた。

     
     翔陽くんが隣におること許してくれて、嬉しくて浮かれてはしゃいで、我慢できんくなって溢れ出て、それやのに、それやのに。「何言ってんですか!」って呆れながらツッコミいれてもらえてる時にやめればよかった。んでも、俺は本気で好きやってどうしても分かってほしかってん。
     キモいって分かっててそんでもはっきりキモいって言われるのキツイな。きっちり傷付いてるわ。でも今冷静になってめちゃくちゃ怖わなっとる。バレー出来んくなったらどうしよう。翔陽くんがなんでも許してくれるから俺はすっかり忘れてたんや。俺が怖かったんはずっとこれやったんやってやっと思い出した。俺がおる世界は男だけや。男しかおらんのに、そいつらに拒絶されたら俺はバレー出来ひんくなるんやないかって怖かったんや。俺にはバレーしかないのに明日からバレー出来ひんくなってたらどうしようって、震える程怖くなった。最初はちゃんと女と遊んどる雰囲気とか嘘とかつけてたのに、いつのまにか忘れてもうてた。翔陽くんはホンマに怒ってたからセクハラとかで訴えられるんやろか?チームにおられへんくなったらどうしよう。バレー出来ひんくなったらどうしよう。
     バレー、一緒に出来るだけで信じられへんくらい幸せやったのに欲張りおって。我慢すればよかった。今までみたいに。ずっと胸にしまっておけばよかった。俺のアホ。好きな子傷つけて怖がらせて、自分もピンチになって。自業自得やけど、ホンマに朝がくるのが怖かった。
     せやのに、朝行ったら翔陽くんは何もなかったみたいに振る舞いよった。隣に座って、俺にも挨拶しよる。こん子はホンマにアホがつくくらい優しくて健気な子や。俺にすら酷いことが出来んねん。俺が悪いねんからやったってええのに、告げ口もせぇへんしシカトとかそういうんしたくないって思える子やねん。ホンマに好きやと思った。好きやからもう絶対、間違えられへん。
     その日の夜、久しぶりに外泊届けを出した。練習終わりにタクシーのって新幹線の駅まで行ってみどりの窓口で東京行きの切符を買う。値段が高くなっとって一瞬「おお。」と思う。窓口のおっちゃんに「次からネットで予約した方が安いですよ。」と言われて生返事をして新幹線に乗り込んだ。 
     翔陽くんがこっちきてから行く回数減ってたしな。ホンマ翔陽くんに甘えてたんやなって自覚して顔から血の気が引くほど恥ずかしくなる。久しぶりやから寝過ごすのん怖いで一睡も出来んかった。駅に着いてあとは地下鉄乗り継いでお店の扉を開ける。
    「あら!侑ちゃん久しぶりじゃない!」
    「ごめんなー忙しいて。」
     ここに初めて来たんは2年前。社会人でバレーで生活していく様になって多分自分の人生の中で自分の性的思考に1番絶望してた時期やったと思う。地方やし、周りはだんだん家庭持ち始めて早いやつは子供もつくってる頃や。別に一人でもかまへんし、嘘つくんも得意や。俺はいつまでたっても嘘だらけ。それでもええと覚悟して生きていくしかない。せやけどそういう毎日でどうしても眠れんくらい不安定になる日が出来てきた。多分やけど、自分でもめっちゃダサいけどサムが俺の世界におらんくなったんが1番の理由やと思う。そら最初はふざけんなやってキレ散らかしたけど、今はあいつの事ホンマに応援しとるから恨み言って訳とちゃう。頑張ってたの知ってるし、あいつの料理美味いしな。俺が勝手になってんねん。誰にどう思われてもええと思っとる癖に実際は自分の片割れにすらホンマの事が言われへん。その癖勝手に不安定になってんねん。
     アホやし、かっこ悪いけど不安で困って困り果ててある日インターネットで会員制じゃないゲイバーがあることを知った。MIXバー。ノンケが行ってもかまへんゲイバー。俺がどれだけ醜いんかちゃんとこの目で確かめようと思ってん。ホンマにその人たちのこと気色悪いと思ったらこれまでの自分消して女の子好きになる努力して生きていく覚悟決めようって思ってん。どれだけ全方位に対して失礼やねんと後からやなくても思えっちゅう話やけどな。
     いくらMIXバーいうても地元で身バレするん怖いからネットで調べて東京まで足運んだ。
     行くのも勇気いったし何度も帰ろうとしたけど結果は俺の心配とは裏腹になんて事なかった。至ってフツーや。フツーにちゃんと生きてはんねん。彼氏がおる男の人もフツーやし、化粧して可愛くしとる男の人もフツーや。何も怖いことあれへんかった。当たり前やねんけどな。気持ち悪いとか怖いとか言われても自分でも自分のことそう思ってても生きててええんやって思える場所やってん。ほんでも俺は臆病やからここでも嘘をつく。セクシャルマジョリティの男として生きてるって仮面被るねん。でもそれもええねやって思えんねん。嘘ついてても。隠し事があってもええんやって思える場所やねん。
     せやから今日はちゃんと嘘つきに戻りたくて来てしもうた。翔陽くんにはまだ「あれ冗談やで。」とは言いきられへんけど、もう怖がらんでええんやって思わせてあげたい。翔陽くんを俺から守ったんねん。
     バーのママはなんや地頭がええ感じの人。派手な格好してはるけど上品で、おってくれるだけで安心するタイプの人や。せやから俺もギリギリまで自分を出せんねん。
    「なに。仕事でこっち来てたの?」
    「ん、まぁそんなところや。」
     ママは久しぶりに来たのに俺が酒がアカンこと覚えててくれてて頼んだジンジャーエールを何も言わんと持ってきてくれるんが嬉しかった。グラスについた水滴がコースターに落ちていくんを何回か見て口を開く。
    「あんなぁママ、俺なここにいっつも嘘つく練習しに来てんねん。俺嘘だらけやから。」
    「それぴったりじゃない。いいチョイスね。」
     そう言われて、別に大したこと言われてへんのに言い方もおもろくて笑ってもうてあの日から初めて笑えたなって気づいたらなんか分からへんけど「もう大丈夫や」って思えて、そのあとすぐに帰りの新幹線に乗って帰ってきた。人生は簡単には終わってくれへんし、それでも次の日もバレーはおってくれる。俺の人生を生きていくための力はちゃんとここにある。

    **

     少し早く起きてルーティンをこなす朝。自主練をひと段落させてベンチに座り込む。置いていたスポドリを一口飲んで「はぁ。」とため息が出た。今日この時間に練習しているのは俺だけだ。前は侑さんもいたはずなのに。多分、意図的に俺と自主練の時間をずらしているんだと思う。
     あれから侑さんとは少し距離ができた。

     次の日、言ったことに後悔はしてなかったけど嫌われてしまったと思って怖かった。心臓バクバクさせながら挨拶して、思い切って隣に座ったら侑さんは普通に振舞ってくれた。なにか言われてしまうかなって身構えてたけど何もなかった。本当に何も。何でもないみたいにその日は終えて、その後から侑さんは俺との間に膜みたいなものを作った様な気がした。
    「気持ち悪い」なんて言われたら俺だって距離を置きたいって思うからそれは当然だって思う。それに特別な距離感は無くなったけどそれでも侑さんは優しいままだ。ただ俺が、寂しいだけだ。俺は好きな人に酷いことを言って侑さんはそれを受け流してくれた。ただそれだけのことだ。だからそれを寂しいと思うのは勝手なことだって分かってる。初めての失恋だった。
     
     その日、体育館について広報に呼ばれていたことを思い出す。地元のローカル情報誌に載せるインタビューと撮影が控えてる。確か一緒に対談する相手は侑さん。少しドキッとしたけど、仕事やバレーでは態度を変えないでいてくれるから大丈夫だろう。予想通りインタビューはそつなくこなして和気あいあいとした雰囲気で出来たと思う。インタビュアーの人に「本当に仲がいいんですね。」なんて言われて今だけの仲の良さなのにそんなことも忘れてそれだけですごく嬉しかった。
     問題は撮影で、普通に横に並んでるだけじゃ侑さんはともかく俺はすごくぎこちなくなってしまって、撮影が少し押してしまっていた。俺の緊張がほぐれるようにカメラマンさんの提案で侑さんが俺に肩を組むよう言ってきた。触れられるともっとドキドキしてしまって逆効果な気もしたけどそんな事言えるわけがない。俺の気持ちとは裏腹に、侑さんは何ともない様で「ええですよ。」って応えて俺に肩を回してきてた。でも一向に侑さんの腕が俺に触れる感触がこなかった。今まで何度も俺の肩を肘置きにしたり顎置きにしたりしてたのに、最後まで侑さんの腕が俺に触れることはなかった。寂しいと思う前に何だか様子が変だと思った。体調が悪いのだろうか。声をかけようとしたけど侑さんはそれ以外は至って普通だった。心配だけど気丈に振舞っている侑さんを見て、せめて早く撮影が終わるように努めた。

     少し撮影は押してしまったけど無事に撮影を終えて更衣室に戻る。侑さんに声をかけようとする前に侑さんの方から話しかけられた。侑さんは少し悲しそうでそして優しい顔をしていた。
    「今日腕まわしてごめんな。早よ終わった方がええ思うて。撮影ホンマは嫌ったやろうに何も言わんで一緒にしてくれてありがとう。この前の告白のこともごめんな。怖い思いさせたんに次の日から一緒になんも変わらずバレーしてくれてありがとう。まだ時間かかるかも知れへんけどちゃんと忘れるしそれまでは俺から近づいたりせぇへんから、安心してな。」
     言葉の意味がわからなかった。言ってることはわかるけど意味が頭に入ってこない。そんなのまるでこの前の告白が本当の告白だって言ってるみたいだ。
    「侑さん。あの、なんであの時俺に好きなんて言ったんですか?もしかして冗談じゃ、なかったんですか?」
     そう聞いたら、すごくショックを受けた顔をしてその後すごく怒った顔をして泣きそうに顔を歪めた。
    「なんで、そこまで言うん。忘れる言うてるやん!ちゃんと冗談にするし気持ち悪いんやったら近付かん様にするって言うてるのに、もうちょっと待ってや。」
     そう悲しそうに怒って言い終わると侑さんは大きな瞳からとうとうポロポロと涙をこぼして、シャツの襟で涙を拭うように自分の顔を隠してしまった。
     流石にやってしまった事に気付く。
     侑さんが、あの侑さんが泣いてしまった。俺が泣かしてしまった。俺が酷いことをしたからだ。最低だ。侑さんは俺に優しくしてくれたのに、今だって俺に謝る必要なんてないのに謝ってくれた。侑さんはあんなに全身で俺のこと好きだって伝えてくれてたのに。俺は他の人の言うことを間に受けて侑さんの言葉をハナから嘘だと信じきって侑さんを最初から否定したんだ。どんなに傷つけたんだろうって想像して怖くなる。
    「俺、ごめんなさい。そうじゃなくて俺、侑さんは女の人が好きだと思ってました。だから、揶揄われたと思って、そんであんな酷いこと言ってしまって。本当にごめんなさい。」
    「俺は、翔陽くんが好きや。」
    「ごめんなさい。」
    「もう謝らんでくれ。分かったから、惨めになる。」
    「そうじゃなくて。そうじゃないです。ごめんなさい。俺も侑さんが好きです。ごめんなさい。侑さんが、好きなんです。」
    「ええ加減してや、翔陽くん。酷いやん。堪忍して、俺そんなん嘘でも嬉しくなってしまうんに。ひどいわ。うぅ、ひどいやんかぁ。」
     侑さん訳わかんなくなってて、もっと泣かしてしまった。侑さんじゃないみたいにワンワン泣いてる侑さんが可哀想で愛しく思う。だから好きって言ってんのに信じてもらえないのすごく悲しいって今更思い知る。侑さんに信じてもらいたい。そう思ったら身体が勝手に動いた。泣いてる侑さんを壁に押し付けて抱き寄せる。びっくりしてる侑さんに「侑さん、嫌だったら俺の事殴って下さい。」と侑さんの涙を指の腹で拭って、キスしようとしたら、倍の力でぐっと抑え込まれた。途端に視界が暗くなって侑さんの方から覆い被される。唇に触れる感触。抑えられる力は強いのに触れるだけの行為がもどかしい。俺も初めてだけどもしかしたら本当にもしかしたらだけど侑さんも初めてなのかもしれない。侑さんの心臓の鼓動がドクドクと波を打っているのが分かる。俺の好きな侑さんだ。出来るだけ好きって気持ちが伝わる様に侑さんの肩に腕を回した。ごめんなさい、信じて。信じてほしい。しばらくして唇が離れて、侑さんの潤んだ紅茶色の瞳を見つめると、じろりと睨まれる。
    「何、すんねん。」
    「こっちのセリフですよ!俺からしたかった。」
    「やって、翔陽くんのこと殴るくらいならキスしたいやんか。ていうか、なんやねん!翔陽くんこそ横暴やんかぁ!」
    「だって、好きって分かって欲しかったから。ごめんなさい。」
     自分でも勝手なことを言っていると思う。自分は出来なかったくせに侑さんには求めてしまってるんだ。
    「うう、何やねんもう。でも、うれしい…。嘘みたいや。翔陽くんが好きや。」
     でもそれでも侑さんは泣き止んでくれた。俺が好きだって笑ってくれた。侑さんの笑顔は俺のものだ。これからも俺のものにしたい。

    「俺も、侑さんが好きです。」

     
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     最高に調子が良くて気持ち良い勝利に終わった試合の後、更衣室で侑さんに俺の事が好きだと言われて返したのが冒頭の言葉だ。



     恋とか愛とかは難しくてよく分からない。ずっとバレーに夢中だった。男女共に友達は多かったけど、恋愛は20歳を過ぎた今でもしたことはない。でも高三になって背が170センチに届いたくらいの頃から告白をされる様になった。だいたい後輩の一年生。顔と名前が一致しない人と恋人になんてなれないし全部お断りしてたけど、俺より小さくて年下の女の子から好きだと告白されたりバレンタインにチョコを貰ったりすると一晩はその子の事が頭から離れなかった。それからは自分がそういう対象で見られる事もあるんだって意識する様になった。そしてブラジルに行くともっとそれが顕著になっていった。流石に女の人じゃなくて男の人からの方が多くなったのは自分でもびっくりした。でもブラジルは同性婚も認められてるくらいの国だもんなって特に深くは考えなかった。だけど、配達のバイトのお客さんと意気投合してそのまま家に誘われて、ベットに押し倒されそうになって間一髪で逃げおおせた時は本気で怖くて、帰った後ホッとして情けないけどちょっと泣いた。
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