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    anri_maho

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    POIPOI 16

    anri_maho

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    5/4スパコミ『賢者の超マナスポット2025』で配布した無配です。
    アクスイブラネロの、私はブラッドリー視点を担当しております✨
    ティカ様に、ネリーの正体の探りをいれる話です。
    一緒に合同誌をした葵さんのお話とリンクしているので、そちらもご覧いただければ嬉しいです☺️
    葵さんのアクスイ↓
    https://poipiku.com/3192399/11688424.html

    #ブラネロ
    branello

    【5/4スパコミ無配】アクスイ(ブラッドリー視点) 約束の時間にそいつは現れなかった。すっぽかされたのかと思いきや、「ごめんね。少し迷ってしまって、もうすぐ着くよ」とメッセージが入っていた。そしてもうすぐ着くとあったのに件の男、ラスティカが到着したのは待ち合わせの三十分後だった。
    「ごめんね。待たせてしまったかな?」
    「先にやってたから、気にしなくていい」
     テーブルには、すでに俺が勝手に注文したシュニッツェルなどが並んでいる。店員を呼び、俺は二杯目、ラスティカは一杯目の酒を注文した。店員が静かに扉の向こうに消えていく。
     完全個室のイタリアンだ。店員たちも、こちらが芸能人とわかっていても騒いだりしない。口の固い店員しか採用されないのだろう。ここは、そういう店だ。俺はまだわずかに残ったビールを煽った。
     ──ラスティカ・フェルチ。舞台やミュージカルを中心に活躍する俳優。自身の所属する事務所、ルスカ・スピカの幹部メンバーでもあり、タレントの何名かはラスティカがスカウトしている。声があいつに似ている男……ネリーもラスティカがスカウトしたらしい。それなら当然顔を知っているはずだ。
     俺は平静を装って、ラスティカに話しかける。
    「仕事終わりだったんだろ? マネージャーとかに送ってもらわなかったのか?」
    「そのつもりだったんだけど、素敵なショップを見つけてね。断ったんだ。この店にも来たことがあったし、大丈夫だと思ったんだけど」
    「あったのかよ」
     まるで貴公子のような遅刻の理由に思わず嘆息が漏れる。
     しばらくすると、店員がグラスを運んできた。ふたりでそれを掲げ、乾杯する。
     ラスティカは朗らかに、本人特有のゆったりとした口調でいろいろな話をした。
     舞台や配信といった仕事の話。ディナーショーでのファンの様子。それから日常で起こった素晴らしい(俺からしたら取るに足らない)出来事。
     そしてラスティカとよく接する面々の日常。
     弟子のように可愛がっているクロエ。事務所の社長である、ザラとアリア。そして、所属するタレントたち。潮時だと思い、俺はラスティカに訊ねた。
    「ネリーってやつは? どんなやつなんだ?」
    「ネリー?」
     ラスティカはきょとりと目を丸くした。だが、すぐにいつもの柔和な笑みを見せる。
    「素敵なひとだよ。ネリーは、料理を作るのがとても上手なんだ。毎食丁寧に作られているし、美味しいものを食べた時にした働かない細胞が、脳で一気に働くような美味しさがあるよ」
     だから僕はスカウトしたんだ、と続けるラスティカの台詞に思わず閉口した。
     俺もそうだった。ネロの作る飯は、あいつの言葉遣いとは違って毎度丁寧で、感動していた。毎日食っているとありがたみがなくなるが、食えなくなった今、どうしても食いたいと思う味。
     作り方に興味がなかったから、どうやって作るのかなんてまったく知らない。だがどうしてか、ネリーが作っていたフライドチキンは、似ていると思ったのだ。ネロの作っていた、フライドチキンに。
     皮がパリッとしていて、中はしっとりしていて、かぶりついたら肉汁が溢れ出て、香ばしい香りが鼻を抜けていく──。
    「……フライドチキン、食いたくなってきたな」
     声にすると、ラスティカは可笑しそうに笑った。突拍子なく聞こえたのだろう。ましてや、たらふく食った後だ。お上品な坊ちゃんからすると、俺の発言は信じられないのかもしれない。
     しばらく経ってもラスティカが笑っているものだから、俺は眉間にしわを寄せた。
    「おい」
    「ふふふ。ごめんね」
     ラスティカは慎ましやかに笑っていた。俺はラスティカのそばにあったワインを取り、手酌で注ぐ。
    「いいよな、てめえは。食ったことあるんだから」
    「そうだね」
    「悪いと思ってるなら──」
     俺は音を立ててボトルをテーブルに置いた。正面のラスティカを見据える。
    「俺にも食わせろ。あいつの飯」
     その頼みに、ラスティカは再び驚いた顔をした。少し上に視線を上げ、考え込んでいる。これまで軽快に飛んでいた会話のボールは、ここで初めて止まった。
     ラスティカがどう返してくるのか。それを考えると、わずかに汗がにじんだ。そしてどう返されようと、それを打ち返す心構えをする。
     やがて顔を上げたラスティカは、真っ直ぐ俺を見つめ返した。
    「いいよ」
    「……は?」
     予想外の答えに、つい反応できなかった。ラスティカは相変わらず、読めない貴公子の微笑みを携えていた。
    「今度、ネリーが料理を撮影する時に、きみを招待するよ」
     彼に会えるかは保証できないけれど、とラスティカはなんでもないことのように付け加えた。
     俺は思わず笑ってしまう。こちらの意図も狙いもわかった上で、こちらの要望を叶えつつも、自社のタレントを守った。なにも考えていないように見えて、案外策士らしい。
     俺はラスティカに無言でグラスを差し出した。ラスティカもグラスを合わせる。チンと小気味いい音が部屋に響き渡り、ふたり同時にグラスを煽った。

     ◯
     
     自宅に戻り、風呂に入った俺はごろりとベッドに横になった。
     本当は「ネリーはネロ・ターナーなのか?」とラスティカに問いただすつもりだった。だが、ラスティカも経営者のひとりだ。社外秘を馬鹿正直に話すわけがないのもわかっていた。どうやって聞き出そうか散々迷っていたが、思わぬ収穫を得た。
     俺はスマホを取り、ルスカ・スピカの動画サイトへアクセスする。アーカイブを遡り、フライドチキンを作る回を再生した。
     光る猫うさぎこと、ひーちゃんが鍋の油の様子を伺っている。
    『ネリーさん! 菜箸に泡がいっぱい! これが高温?』
    『そう。油が高温になったら、もう一回揚げる』
    『もう一回? 揚げ足りなかったのか?』
    『もう一回揚げると、皮がパリッとすんだよ』
     ネリーの解説に、なでぃこと、なーさんが『へー!』と感心した声を上げた。
     油の中から取り出し、皿に盛りつけられたフライドチキンがアップになる。画面越しにも匂いがしそうなほど美味そうなフライドチキンだ。
    『ほい、完成』
    『わー!』
    『美味そうー!』
     完成を三人が喜んでいる。その様子が妙にかわいらしかった。声の感じからして、ネリーは成人男性だろうに。
     ふと、ネロも案外かわいいものが好きだったなと思い出した。ふかふかした耳の犬とか。
     俺はそっと目を閉じる。すると、ますますネリーの声がネロと重なって聞こえた。
     ネロは俳優をやめて、配信者になったのだろうか? どうしてなにも言わずにやめたんだ? どうしてなにも言わず居なくなった? 俺はおまえともっと芝居がしたかったのに。
     答えの出ない問い。知る術のない問い。──だが、それももうすぐわかるかもしれない。
    「ネロ……」
     そっと呟いた相棒の名前は、思いの外寂しくベッドルームに落ちていった。



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    anri_maho

    DONE5/4スパコミ『賢者の超マナスポット2025』で配布した無配です。
    アクスイブラネロの、私はブラッドリー視点を担当しております✨
    ティカ様に、ネリーの正体の探りをいれる話です。
    一緒に合同誌をした葵さんのお話とリンクしているので、そちらもご覧いただければ嬉しいです☺️
    葵さんのアクスイ↓
    https://poipiku.com/3192399/11688424.html
    【5/4スパコミ無配】アクスイ(ブラッドリー視点) 約束の時間にそいつは現れなかった。すっぽかされたのかと思いきや、「ごめんね。少し迷ってしまって、もうすぐ着くよ」とメッセージが入っていた。そしてもうすぐ着くとあったのに件の男、ラスティカが到着したのは待ち合わせの三十分後だった。
    「ごめんね。待たせてしまったかな?」
    「先にやってたから、気にしなくていい」
     テーブルには、すでに俺が勝手に注文したシュニッツェルなどが並んでいる。店員を呼び、俺は二杯目、ラスティカは一杯目の酒を注文した。店員が静かに扉の向こうに消えていく。
     完全個室のイタリアンだ。店員たちも、こちらが芸能人とわかっていても騒いだりしない。口の固い店員しか採用されないのだろう。ここは、そういう店だ。俺はまだわずかに残ったビールを煽った。
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    44_mhyk

    SPOILERイベスト読了!ブラネロ妄想込み感想!最高でした。スカーフのエピソードからの今回の…クロエの大きな一歩、そしてクロエを見守り、そっと支えるラスティカの気配。優しくて繊細なヒースと、元気で前向きなルチルがクロエに寄り添うような、素敵なお話でした。

    そして何より、特筆したいのはリケの腕を振り解けないボスですよね…なんだかんだ言いつつ、ちっちゃいの、に甘いボスとても好きです。
    リケが、お勤めを最後まで果たさせるために、なのかもしれませんがブラと最後まで一緒にいたみたいなのがとてもニコニコしました。
    「帰ったらネロにもチョコをあげるんです!」と目をキラキラさせて言っているリケを眩しそうにみて、無造作に頭を撫でて「そうかよ」ってほんの少し柔らかい微笑みを浮かべるブラ。
    そんな表情をみて少し考えてから、きらきら真っ直ぐな目でリケが「ブラッドリーも一緒に渡しましょう!」て言うよね…どきっとしつつ、なんで俺様が、っていうブラに「きっとネロも喜びます。日頃たくさんおいしいものを作ってもらっているのだから、お祭りの夜くらい感謝を伝えてもいいでしょう?」って正論を突きつけるリケいませんか?
    ボス、リケの言葉に背中を押されて、深夜、ネロの部屋に 523

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    44_mhyk

    SPOILERイベスト中編のブラネロ絡み傷つけたくないのにドレスを割いて、次は体を傷つけると脅しにかかったネロをさりげなく、「直接」シアンをネロが傷つけないで済むようバジリスクの上に飛び乗れ!と誘導したように思えてならないのだが私の都合の良い解釈ですかね…?

    あと、普段は名前をなかなか言わないけどいざという時にちゃんと「シャイロック!」などと名前でしっかり呼ぶブラが本当に好きです。解釈一致すぎる。
    明らかにノーヴァの時より足並み揃ってるし、ネロもブラッドリーを信頼して動いているように見える。

    そしてシャイロックの、ネロに女の子を殺させるなという取引について…

     ブラ、シャイロックに感謝すらしてるようにみえる。多分ブラはわかってる。何なまっちょろいこと言ってやがる、と口にすることがあるとしても、ネロがそう言う優しい男なのだと、「今の」ブラッドリーは理解してるし尊重してる気がする。
     だから、「やる時は俺がやる」と答えた。
     シャイロックに言われなくても元々そのつもりだったんじゃない?ブラッドリー。
     じゃなかったら、何言ってやがるそんなこと言ってる場合か!殺せ!!くらいは言いそうだし。
     
     一方で、「陽動する!」に「了 676