いつもの店で、いつものようにラーハルトは店主相手に値引き交渉をしていた。店主はそう簡単に首を縦に振る男ではないのだが、逆にそれがラーハルトを燃え上がらせた。おかげで、些細な買い物ですら、いつも少々時間がかかった。ヒュンケルはというと、そんなラーハルトを興味深く、そして時に退屈そうに眺めていた。
「ラーハルト、アレはなんだ?」
少し長めの会計を済ませたラーハルトにヒュンケルが尋ねた。ヒュンケルが指した先には、紙で作られた色とりどりの飾りを細い竹に飾ったものがあった。
「七夕飾りだ。あのなにやら書かれている紙は短冊という。願いを書いて飾ると、それが叶うとんだそうだ」
「……そうなのか」
ヒュンケルが興味深そうに呟いた。
「丁度いい、オレたちも何か書いていこう」
そう言うと、ラーハルトは善は急げとばかりに、ヒュンケルの手を引いて七夕飾りのところに行った。そして、適当に見繕った短冊とペンをヒュンケルに渡し、願い事を書くよう促した。
「よし」
軽快な音共に、ラーハルトの手によってペンが元の場所に戻された。
「なにを願ったんだ?」
「お前がこの先も健勝であるように願った。月並みな願いだが、今のオレにはこれしか思い浮かばん」
戦えなくなった。歩くのがやっとだから無茶もできないはずだった。だがヒュンケルは、魂だけの存在が自らに刻まれた意志に従うように、無茶をすることをやめなかった。
「いつもすまない……」
「まったくだ。で?お前は書けたのか?」
ラーハルトはヒュンケルに短冊を見せるよう、身振りで促した。その声音は、直前の会話に影響されてか、ほんの少しの呆れと優しさを帯びていた。
“ラーハルトと旅を続けられますように”
「大丈夫。この願いは必ず叶う、オレが保証する」
そう言うと、ラーハルトは真剣な顔でヒュンケルのことを見つめた。あまりに長く見つめて、不思議に思ったヒュンケルに呼びかけられるほど。