本能と 黒石勇人。一度目、風間圭吾は後方に吹っ飛んだ。二度目は膝を付きはしたが、その場からほとんど動かなかった。そして三度目、その場でしっかりと掴み取った。
風間圭吾が吹っ飛んだ後に挑んだ黒石勇人は、一度目、後方に滑りながら膝をついた。二度目以降はほぼ風間と同じだった。
風間も黒石も、辛うじて一度もソレを落とすことはなかった。説明はされていない。ただ決して落としてはいけないものだと風間は理解し、黒石は本能でそうと感じ取っていた。
今日、ふたりは初めてエールをキャッチした。
「おつかれ」
ドリフェスシステムの動作確認の手伝いを終え、ステージから袖に捌けてきた二人に声をかけたのは、三神遙人だった。
「どうだった? エール」
「…重かった、ですね。今日ですら」
そう答えた風間の表情は、悔しげだった。黒石は風間の言葉に眉をひそめている。
「そう。さっきのドリカが重たかったのは、単純にカード自体の質量だとか速度だとかの問題。けど、それだけじゃないだろ? …なんだと思う、黒石」
黒石は答えない。三神から目線をそらさず、睨み返すような力強さで見ている。
三神はふっと笑った。
「『エールはドリカが示すもの』。…バトルライブで君達がどんなステージを見せてくれるか、楽しみにしてるよ」
「…はい、ありがとうございます」
風間が頭を下げる横で、黒石はただ三神を見ていた。