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    urami_imop

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    urami_imop

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    神絵師のイラストにSSを添えるタグで書いたものです
    2人が高齢の設定です

    アポトーシス 宗主としての役目を終えた時、初めに考えた事が藍渙の事だった。彼は自身より先に宗主の座を退き、今はご意見番の様な立ち位置で藍氏を支えている。幾分か自由が利く様になったお陰で、頻繁に蓮花塢に訪れてくる彼は今日も勿論来ていた。
    「随分、待たせたな」
    「阿澄を待っている間も幸せだったよ。君の宗主の仕事ぶりをすぐ側で見れたからね」
     そう言って微笑んだ藍渙の頬には深い皺が刻まれている。ただの笑い皺ではない。度重なる苦労の末に出来たものだが、江澄にとっては愛しくて仕方がないものの一つである。
     目元や頬だけではない。世家公子格付ではあんなにも持て囃された自分達であるが、今はもうこんなにも年老いてしまった。それでも背筋は伸び、主だった病は未だない。いい歳の取り方を出来ているのではないだろうか。
    「これまでは雲夢やその民の為に生きてきた。時には貴方よりも優先させてしまったが……これからの人生は全て貴方のものだ」
     そう言って江澄は素気なくではあるが掌を差し出した。ゆっくり慈しみながらその掌を握り返す。何度も体を重ねて愛を分かち合ったというのに、まるで初めて手繋ぎするかの様だ。
    「晚吟、さよならはいつか確実に来てしまう」
     藍渙が江澄のことを晚吟と呼ぶ時はいつだって真剣な話をする時だ。江澄は肘をついて曲げた背中を正し、隣の彼を見た。どこか遠くを見た彼の横顔はいつも通り微笑んでいるのに、淋しさも見える。
    「それは私が先か、君が先かは未だわからないけど……晚吟、君は私を簡単には諦めたりはしないだろうね」
     勿論、そのつもりである。それが彼に巣食う病であろうと、彼を苛むものならば江澄は簡単に藍渙を諦めるつもりは毛頭ない。
    「それでも最後は来るものだから、その時はあまり悲しまないでね」
     わかったと言う代わりに握った掌の力を少しだけ強めた。互いに顔を見合い、微笑む。
    夜が来て、朝を拒んでも意味はない。その朝を共に迎えられずともいいんだ。それまで沢山愛して、目一杯に愛されよう。
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    takami180

    PROGRESSたぶん長編になる曦澄3
    兄上がおとなしくなりました
     翌朝、日の出からまもなく、江澄は蓮花湖のほとりにいた。
     桟橋には蓮の花托を山積みにした舟が付けている。
    「では、三つばかりいただいていくぞ」
    「それだけでよろしいのですか。てっきり十や二十はお持ちになるかと」
     舟の老爺が笑って花托を三つ差し出す。蓮の実がぎっしりとつまっている。
     江澄は礼を言って、そのまま湖畔を歩いた。
     湖には蓮花が咲き誇り、清新な光に朝露を輝かせる。
     しばらく行った先には涼亭があった。江家離堂の裏に位置する。
    「おはようございます」
     涼亭には藍曦臣がいた。見慣れた校服ではなく、江家で用意した薄青の深衣をまとっている。似合っていいわけではないが、違和感は拭えない。
     江澄は拱手して、椅子についた。
    「さすが早いな、藍家の者は」
    「ええ、いつもの時間には目が覚めました。それは蓮の花托でしょうか」
    「そうだ」
     江澄は無造作に花托を卓子の上に置き、そのひとつを手に取って、藍曦臣へと差し出した。
    「採ったばかりだ」
    「私に?」
    「これなら食べられるだろう」
     給仕した師弟の話では、昨晩、藍曦臣は粥を一杯しか食さず、いくつか用意した菜には一切手をつけなかったという 2183

    takami180

    PROGRESS長編曦澄11
    兄上やらかしの全貌
    (重要なネタバレを含みます)
     蓮花塢の風は夏の名残をはらみ、まとわりつくようにして通りすぎる。
     江澄は自室の窓辺から暗い蓮花湖を見下ろした。片手には盃を、片手には酒壺を持っている。
     一口、二口、酒を含む。雲夢の酒である。
     天子笑はこれもまた美味であるが、雲夢の酒はもう少し辛い。
     もう、三日前になる。雲深不知処で天子笑を飲み、浮かれた自分はこともあろうに藍曦臣に酒をすすめた。
     まったく余計なことをしたものだ。
     江澄は舌を打った。
     
     酒を飲んだ藍曦臣は、しばらくはただにこにことしていただけだった。
    「味はどうだ?」
    「味、ですか」
    「うまいだろう?」
    「そうですね。おいしい……」
     突然、藍曦臣の目から涙が落ちた。ぽたぽたと流れ落ちていく涙に、江澄はぎょっとした。
    「ど、どうかしたか」
    「ここで、おいしいお茶をいただきました。二人で」
    「二人?」
    「阿瑶と二人です」
     胸を衝かれた。
    「阿瑶は本当に優しい」
     息がうまく吸えない。どうして奴の名前が出てくる。
    「私が蘭陵のお茶を好むことを覚えていてくれて、おみやげにといただいたことがありました」
     動転する江澄をよそに、藍曦臣は泣きながら、またにっこり 1527