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    takami180

    @takami180
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    曦澄のみです。

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    恋綴3-11
    事件の終わり(兄上は出ません)

    #曦澄

     窓の外には下弦の月。
     風に乗って広がる琴の音。
     江澄は手元の盃を揺らした。
    「出てこないな」
     ビィン、と弦がはじかれる。
     琴を弾くのは白梅という遊妓である。妓楼で三本の指に入るこの遊妓は、その名の通り真白い顔を江澄に向けた。盛り上げた髪を飾る豪奢な金と玉が、明かりを受けてきらきらと輝く。
    「一晩ではいけないのかもしれませんね」
    「面倒だな」
     江澄はこの前に別の遊妓と時間を過ごした。それから、白梅の房室に入ったのだが、どうやらこれでは浮気者の判定にはならないらしい。
     邪祟をおびき出すのに他の客は全員帰した。どうにか一晩で片付けようとした結果の策だったが、すでに一時以上何もなく過ごせている。
    「御宗主は、何故あの子を抱かれなかったのですか」
     江澄は思い切りむせた。思わぬところからの思わぬ放言だった。
    「いきなりなんだ」
    「だって、そのほうが確実じゃあありませんか。楼主様から事情を聞いたときには、御宗主はずいぶんと、強靭、でいらっしゃると思ったくらいですもの。それなのに、あたしにも手を出そうとしない。いいかげん、琴は疲れました」
     白梅は両手をひらひらと振り、ずいと琴を押しやった。
     江澄は再び盃を揺らした。師弟の一人が言っていた、珍しい遊妓というのがこの白梅である。ずけずけと勝手なことを言う様は、たしかに珍しいものだった。
    「御宗主は、どなたに義理立てしておいででしょう」
    「お前……、俺をからかっているな」
    「あらあ、気になるじゃありませんか。この白梅を前にして、指先一本触れようとなさらない殿方なんて、そうそういらっしゃるものじゃあありませんよ」
     白梅はするすると近づいてくると、江澄の手から杯を奪い、残っていた酒を一気にあおった。
     江澄はあっけにとられたまま動けなかった。
    「ああ、おいしい」
    「自分のを飲め。まったく」
    「それで? どこの誰なんです。白状なさいな」
    「何故、お前にそんなことを言わねばならん」
    「あたし、みんなに言っちゃったんですよ。御宗主の一等男ぶりのいいお顔を見てくるからねって。それが見られないんですもの。教えてくれたっていいじゃございませんか」
    「はあ?」
     白梅はけらけらと笑って、甕から酒をつぎ足しあおる。
    「わかりませんか、御宗主。そういうときの男の方のお顔って、ふつうにしているときの何倍も男ぶりが上がるんですよ」
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    (そういうとき)と考えて、よみがえったのはこともあろうに藍曦臣の顔だった。かっと顔中が赤くなり、「馬鹿にするのか」と怒鳴っていた。
     しかし、白梅は引くことなく、江澄を正面からにらみ返す。
    「馬鹿にしてるのはそっちだろ。あたしは邪祟とかいうのをおびきだすっていうから、あんたの相手を承知したんだ。それをなあんにもしないで待ってるだなんて、時間の無駄だ」
     白梅の言い分はまっとうだった。今の今まで自分が遊妓と交わることなど、ひとかけらも考えていなかった江澄はたじろいだ。その間に白梅は江澄の手を取り、自分の胸元に引き寄せる。
    「ねえ、御宗主。あんたがどっかの誰かに義理立てするのは勝手だけど、あたしらはこんなこと早く終わりにしたいんですよ。女の体に興味がないってわけじゃないなら……」
     江澄は口を開きかけたが、その背筋にぞわりとした悪寒が走った。思い切り白梅を突き飛ばし、なんとか自分の首に呪符を貼る。
    「くっ……」
     ぎちり、と何かが首に巻きついた。
     一枚だけ貼った呪符が完全に首が締まるのを防いでいるが、苦しくて声が出せない。揺らめく明かりが、江澄に取り付く黒い影を浮かび上がらせた。
    「御三方! 御宗主が!」
     白梅が叫ぶや否や、扉を蹴飛ばして江家の師弟が飛び込んできた。
     一人が呪符を放ち、一人が剣で斬りかかり、一人が白梅を廊下へと連れ出す。
     影は一度床に落ちると、ぞろりと江澄の足を這い上がる。
    「うっとうしい!」
     江澄が紫電で打ち据える。
     影は闇を散らしながら、それでも足から離れない。江澄はそれならと紫電を影に巻きつけた。
    「明明!」
     それに取り付いたのは白梅だった。彼女は両腕でひしと影を抱きしめて、「明明、あたしだよ」と言葉をかけた。
    「姉姉だよ、わかるかい」
     影を取り巻く闇が震えた。ぞぞぞと闇は床に落ち、影は人の形を模した。
     江澄は紫電の柄をきつく握りしめた。
    (どうしたらいい)
     今、三毒で貫けば邪祟は消滅するだろう。白梅を避けて影だけを狙うことは不可能ではない。
     しかし、江澄は動かなかった。彼の脳裏をよぎったのは去年の夏、水妖を鎮めた藍曦臣の姿であった。
     せっかく勢いがなくなったのだ。刺激を与えて凶暴化を招いては白梅が害される可能性もある。
     以前の江澄であれば白梅を力づくで部屋の外へと引きずり出しただろう。だが、今は多少であれば待ってもいいかと思っていた。
    「明明、おやめ。この人はあの男じゃない。あたしの客だ。あんたも覚えているだろう。あたしの客は他の女のところへ行ってもかまわないんだよ。それから、あの男のことはあたしたちにまかせるんだ。あんたはもうゆっくりお眠り」
     黒い人影は小さくうなずいた。床に落ちた闇がぶるりと震えたかと思うと、パチンとはじけて細かい塵が四散する。
    「会いに来てくれてありがとう」
     白梅が影の頬をなでた。人型の影はそれだけですっと消えた。
     戒めるものを失った紫電がぼとりと落ちる。
     白梅は床に伏して泣いた。悲鳴を押し殺したような声をもらして、楼主が駆けつけるまで泣き続けた。
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     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
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     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
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     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
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     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
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    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
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     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

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