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    曦澄ワンドロ⑤
    お題:お月見

    現代AU(日本的なふわふわ設定)
    夫夫設定
    嫉妬深い曦臣と社畜澄の夜のデートのお話です。是非、ラストは声優さんの声で脳内再生してください

    #曦澄

    月が綺麗ですね、なんて陳腐な言葉よりもずっと その日、休みの曦臣は今朝は折角の休日を一緒に過ごせない事に拗ねていた。
     外では明るく朗らかな彼も江澄の前では子どもの様に我儘を言うし時には泣き言も零す。随分と甘えられたものだ。
     愛しい人の誘惑を振り切り、平日よりも人の少ないオフィスで仕事に勤しんだ。
     昼休み、拗ねた曦臣が泣きじゃくる白兎のスタンプを5つも送ってきた。時間を少し空けて、黒猫がチラチラとこちらを伺うスタンプも送ってきている。正直、ちょっとキモい。しかしこういう所も可愛くて仕方ない。
     早く会いたい、そうメッセージアプリの中では素直になれる。我ながら自身の天邪鬼にはほとほと呆れる。給湯室で隠れて失笑してしまった。
    「ははっ! 仕事、早めに……終わりそうだ、と」
     熱烈なメッセージとは不釣り合いに、絵文字もスタンプの一つもない。かなり簡素な内容を手早くタップすると、江澄は1分でも速く仕事を終える為に気合いを入れ直した。

     連日の雨は何処へ行ったのやら、今日の昼間は久々の晴れ模様だったから今夜の空も雲一つない星空である。
     休日出勤を終え、草臥れた体を何とか電車に乗せて愛しい伴侶がいる街へと帰ってきた。早めに終わると連絡しておきながら、退勤予定の30分前に顧客からトラブルの連絡が入り、対応に追われていればすっかりと夜になってしまった。
     昼間にメッセージを送った頃には機嫌は元に戻っていたが、今はどうしているだろうかとボンヤリ考えながら帰り路を急ぐ。きっとまた拗ねているのではないか。いや、もしかしたら怒って不貞寝しているかもしれない。あんなに図体はデカく顔立ちは芸能人の様に美しくとも、俺の夫は人一倍執着心が強い。
    「阿澄、お帰りなさい」
    「曦臣⁉︎ あ、あぁ……ただいま」
    「少しでも早く会いたくて、迎えに来ちゃったよ」
     ぼんやりと灯る街灯の光を背に、曦臣は立っていた。手にはコンビニ袋もある。
     これはこの人の悪癖だ。用もないコンビニにふらりと立ち寄り、自分は食べる気のない期間限定スイーツや駄菓子を買ってくる。無駄遣いをやめろと言っても、阿澄に食べてほしくてと甘えた声で言うものだから、いつも強く突っ撥ねられないでいた。
    「待たせたか?」
     曦臣が数回首を振り、俺に会いた方の手を差し出した。俺は辺りを見回し近くに知り合いがいないのを確認すると愛しい人の手を取る。
     男が2人で手を繋いで夜の街をゆっくり帰る。街行く人も自身に忙しい様で誰もこちらを見向きもしない。もしかしたら夜の暗さも手伝っているのかもしれないな。
    「阿澄を待っている時間、少し寂しかったけど楽しくもあったよ。出会った頃のデートも待ち合わせみたいで」
    「それはよかった。今度のデートは外で待ち合わせしてみるか?」
    「それはダメ。今はもう夫夫なんだからそんな寂しい事はしないよ」
     悪かった、と笑うと曦臣も眉を下げて笑う。
    「以前、阿澄みたいな人を何と言うか教えてもらいました。社畜、です」
    「おい……誰が俺の曦臣にそんな言葉を教えた? 魏無羨か? それとも金光瑤、いや、懐桑か?」
     握っていた手をグイッと力を込めて引っ張る。意地悪のつもりでやったのが、曦臣には全く効いていない。
    「金凌です。叔父上は社畜だから私が止めて、と。江澄の体を思ってのことです」
    「……はぁ、わかった。善処する」
    「来週の休みは金凌に会いに行きましょう」
     彼と明日や来週、未来の話を出来る今が愛おしい。この時がずっと続く様に、柄にも無く月に願ってみた。
    「満月か」
    「中秋の名月ですからね」
    「仕事に忙殺されて忘れてた……ビールでも買って帰るか」
    「そう言うと思って買っておいたよ」
     ガサリと音を立ててコンビニ袋をこちらに見せる。隣には一等美しい夫と酒があるのならそれは良い月見酒だ。上がる口角を止められない。
    「江晚吟」
    「なんだ?」
     曦臣を見れば、彼は穏やかにこちらを見つめて笑っている。目の前の大きくまん丸とした月なんて全く見向きもしない。
    「江、晚吟」
    「だからなんだ⁉︎」
    「江晚吟、その名前の通り君の心は澄みきった水の様に清らかで、何色にも染ってしまいそうなくらいに危うい」
     夜の住宅街で人通りは少ないとはいえ、曦臣は俺の頬に手を添えてきた。江澄の顔の毛束を掬うと、少し不器用に耳に掛ける。
    「そして君の笑みは照り輝く月のようにあまりに眩ゆい……」
     その言葉は愛の言葉は羅列されていないと言うのに、下手なラブソングよりも熱烈だった。
     ザアッ、と秋風に襲われる。その場に吸いつけられてるかの様に動けない。
     そして曦臣は江澄の耳元に寄ると、低く落ち着いた声で吐息を混ぜて囁いた。
    「月に夢中なんて妬けてしまうね」
     江澄はぶわり、と真っ赤に染まった右耳を両手で抑えてながら必死に次の言葉を探した。それでも沸騰した頭ではまともな言葉は浮かんで来ず、目の前の彼を睨みつけるしか出来ない。
     月が綺麗ですね、なんて昔の人が言ったらしいが、月より綺麗な男にはこの言葉も負けるらしい。
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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
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    澄にかぷかぷ甘噛みされる曦 澄を食べてしまう獣は自分の方なのにと思いながら曦は自由にさせている

    ちょっとずれたけど、出来上がってる曦澄です。
    かぷり、と耳を噛まれて藍曦臣は身を震わせた。
     先ほどまで隣で庭を見ていた江澄の顔がすぐ近くにある。
     瞳はつややかな飴の光沢を宿し、うっとりとした声が名を呼んだ。
    「藍渙」
     かぷり、ともう一度耳を噛まれる。
     藍曦臣は微笑して、江澄の腰に手を回した。
    「どうしました? 庭を見るのに飽きましたか」
    「ああ、飽きた。それよりも、あなたがおいしそうで」
    「おや、夕食が不足していましたか」
     江澄はふんと鼻を鳴らして、今度は衣の上から肩を噛む。
     予定よりも飲ませすぎたかもしれない。藍曦臣は転がる天子笑の壷を横目で見た。
     ひと月ぶりの逢瀬に、江澄はくっきりと隈を作ってやってきた。それも到着は昼頃と言っていたのに、彼が現れたのは夕刻になってからだった。
     忙しいところに無理をさせた、という罪悪感と、それでも会いにきてくれたという喜びが、藍曦臣の中で綾となっている。
     今晩はしっかりと寝んでもらおうと、いつもより多目の酒を出した。江澄には眠ってもらわなければいけない。そうでないと、休んでもらうどころの話ではなくなってしまう。
    「おいしいですか?」
     江澄は肩から顔を上げ、藍曦臣の豊かな髪を腕 1073