早咲きの桜が咲き誇る帰り道。
めでたい卒業の日の帰り道も桜たちは何時ものように風に揺れ、薄桃色の花びらを散らし、二人の目の前を悪戯に過ぎる。
「……わ、」
ごう、と音を立てたつむじ風が地上から空に向かって抜けていくと副産物の花びらが一斉に宙を舞う。はらはらと、はらはらと、地面に、九門に、莇に降り注ぐそれは視界を優しい桜色へと一瞬で染めていく。
「すごい」
「…ああ、」
見事なまでの桜吹雪に目を細めて感嘆する九門を横目で一瞥した莇はそれだけ返すと唇を結んだ。今日で見納めになる制服の裾が風でふわりと舞う。しっかりとネクタイを締めてる姿なんて初めて見てしまったのは今朝の事、僅かな驚きがまた胸の中に戻ってきてちくちくと刺していく。
(…桜が、泣いてるみたいだ)
はらはらと降り注ぐ花びらは、ぽたぽたと落ちる涙に似ていて、代わりに泣いてくれてるのかと錯覚を起こしてしまいそうだ。
「あ」
短い声に知らない間に莇を見ていた九門が手を伸ばしてきた。丁寧に切り揃えられた爪先ではなく、少しの丸みを帯びた指の腹が莇の頬骨の辺りをするりと撫でた。
そして瞼をゆっくりと伏せて、指の先に掬った桜の花びらに落とす。
「桜の涙だ」
また、ざぁ、とつむじ風が駆け抜け、指先の花びらも空へと舞った。