ミルクティー真っ昼間だと言うのに吐く息が白い。
太陽だって鬱陶しいくらい輝いているのに少しも気温が上がらないのは今日が特別寒いからであって、冬だからだと言う事くらい分かっている。でも寒いものは寒い。
「…ん、これ、」
テイクアウトしてきたミルクティーを一口含んで思わず声が漏れた。きっと莇の好きな味だから、と嬉しそうに教えてくれた九門の顔が瞬時に浮かぶ。
ちょっと甘めでミルクの香りがアッサムの中にも感じられて凄く美味しい。二口、三口と立て続けに口にして、広がる味と仄かな喜びに息を吐いた。甘いのはそこまで得意な方ではないけれど紅茶は甘めの方が好きだった。その美味しさもだけどここまで自分の味覚を九門が分かってくれていた事が何故か酷く嬉しい。九門は甘めの紅茶は好まないだろうに自分のために色々吟味してくれたのだろうかとか、たまたま見付けて自分の事を思い出して教えてくれたのだろうかとか、そんな事がぐるぐると頭の中を巡っていた。
「…あーざみ!」
半分程ミルクティーの中身を減らした所で己の名が呼ばれると同時に腕が首に巻き付いてきた。こんなことを自分にしてくるのはあいつくらいだ、まあ声で分かったけど。
「あ!それ!飲んでくれたの?」
「おー、美味かった」
「やっぱり?!絶対莇好きだって思ったもん!」
莇の右手に握られたカップを覆うスリーブを見て九門が嬉しそうな声を上げた。間近で聞こえる嬉々としたそれに動揺していることを悟られぬ様、至って普通に返したつもりだが内心上手く出来ていたかどうか気になって仕方なかった。
「…なあ、これって」
「うん?」
「…あー、なんも」
近くに感じる温もりに絆されて先程ぐるぐると頭の中を巡っていた問いを口にしかけ、何を聞くのだと我に返って誤魔化す。聞けるわけがない、自分のために探してくれたのかなんて。深く追求される前に、と莇は首に絡まる相手の腕を掴んで解かせるとそこから抜け出て半歩前へと進んだ。こんな距離、直ぐに縮められるのは分かっているけども。
「これ、教えてくれた礼に今度キャッチボール付き合ってやる」
「ほんと?!やった、莇大好き!」
「ば…っ、くっつくな!」
空けたとも言えない距離はあっさりと縮められ、先程よりも密着の深い両腕で抱き着かれると言う結果となり何とか隠せていた動揺も露わに片腕で相手を突っぱねるように肩を押す。ごめんごめんと笑って回された腕は外されていくけど一度表に出てきた動揺はそう簡単には消えなかった。
きっと自分の顔は真っ赤に違いない。さっきまで冷えた空気に晒されて寒さを感じていたのに今は少しも寒くないのだから。どうしたものかと思案して、取り敢えずミルクティーを一気に喉に流し込んだ。すっかり温くなったそれは少しも変わらず美味しかった。