「不死族とは結局なんなのか、という話になるんですけど。よそでの認識ってどんな感じですか」
意見を求められ、ユエは辿々しく知識をたどった。貴族の一般教養、あるいは呪のものと対峙することを生業とする鳥の巣の構成員などであれば知る機会は少なくない話である。
終末の使者であり呪のものの王族。意志なき呪のものを従え、統率し、人間を脅かすもの。恐怖の根源。立ち向かうべき、忌むべき、斃すべき脅威。
「まあ、そういうものですよね」
ハンスが想定通りの回答だというように頷く。子どもたちに読み書きを教える教師のようだ。
「こっちでは違うのか」
「オーラレンは御神体から智慧を賜っていますからね」
ハンスの視線がわずかに惑い、ハルニードの方を見た。その首が別にいいよというように頷くのを確認して、続ける。
「こちらの解釈では『うつしよの水平性を保つ仕組み』とされています」
「…………?」
「えっとね。呪のものと人間の力は本来拮抗しているべきであるっていう考え方なんだけど。そういうのわかる?」
ハルニードの註釈に首を振ると、ハンスは少し考えて付け足した。
「呪のものは人間を食うと消えますが、やつらはすすんで人間を食おうと行動します。これをもって呪のものが『消えたがっている』と解釈するという話はありますよね」
「それは、ある」
「はい。呪のものが『人間を減らすために存在している』とすることに関しては理解しやすいでしょうか」
ユエは首を傾げ、それからなんとか頷いた。
「人間を減らし、自ら消えるために存在する呪のものと自らを複製し生きながらえるために存在する人間は真逆の位置にある。人間が増えたならその分呪のものが増えなければバランスがとれない。これはどうですか?」
「……」
「単純に量の問題だと思って」
思わず助けを求めると、ハルニードからは助言めいた言葉がかけられる。ユエは天を仰ぎ、理解を阻んでいる疑念をどうにか言葉にした。
「……その、バランスとやらはどうしても取らなければならないものか?」
「取らなければならないものである、という仮定の上で考えてください」
無慈悲である。量的な概念、というのであれば難しい話ではない。ユエが不承不承納得したことを承知すると、ハンスは続けた。
「で、この水平性という点で話をすると不死族に関しては『質』の問題だと考えることができるんですよ。人間の側に『強い存在が生まれたから』バランスを取るために現れる。あるいは目覚める、とね。」
その目がハルニードを見る。その視線に導かれてユエもハルニードを見る。二人分の注視をうけて、手脚の無い男は不自由に首をすくめた。
「懇切丁寧に説明してくれるわけではないから仮説に過ぎないけどね。方舟は王家崩壊以前から『在ったもの』で神世の遺物。失われた智慧が封じられてはいるけど僕たちに与えられるのはその断片でしかない」
「……オーラレンの一族が選ばれて、代々得られた知識を積み重ねてここまできたのがオーラレンです」
「御神体に導かれるままに品種改良を重ねて、ね」
投げやりに吐き捨てるハルニードは間違いなく魔力的な「強者」である。