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    kow_7726

    @kow_7726

    忘羨、曦澄に日々救われる。

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    下戸藍湛×× バーテン魏嬰
    〜連絡先交換編〜

    #忘羨
    WangXian

    ノンアルコール・モヒート!(5) 友達になった藍湛は、それからよく来るようになった。比較的早い時間に来て、日付が変わる前には帰る。その時間帯の常連には顔馴染みだ。このバーの中だけで、肩書きも何も関係なく平等に接し合う常連客達にも話しかけられるようになっていた。
     相変わらず、表情は乏しく言葉も少ない。しかし彼を邪険に扱う者もいない。客の中には社長から女子大生と幅広くいる。そんな中で彼なりに、人と接する楽しみを少しずつ感じられるようになってきように見えた。それが俺は嬉しかった。
    「あれ、今日はシンデレラ君いないの?」
     藍湛に渾名がつく程には、このバーに馴染んだある日の事だ。『シンデレラ君』というのは藍湛の事。
     この女子大生と藍湛と話している時にカクテルの話を求められた。『シンデレラ』のカクテルの話をした。プリンセスが好きな子だから熱心に聞いていたけど、その後の彼女の言葉が…
    『オニーサンってさ、必ず0時前に帰るし、ノンアルコールだし、美人だし。シンデレラみたい』
     と言ったのが始まり。店内にいた二人の常連客も納得して、次第に広まって行ったのだ。恐るべし、女子大生。しかも本人にまで呼んでるし。藍湛は藍湛で、何処か嬉しそうだった。
    『渾名を付けられたのは初めて』
     とか言ってたし。まぁ藍湛が嬉しいならいいんだけど。
     問い掛けてきた女子大生に肩を竦めてみせる。
    「この狭い店に、隠す場所なんてあるわけないだろ」
     女子大生はくるりと店内を見回して笑って席に戻って行った。
     考えないようにしていたのに、頭の中に藍湛が浮かぶ。通い始めた頃は、緊張しているのがよくわかったけど、最近はリラックスして店内を楽しめてると思う。いい事だ。友として、喜ばしい事だ。
     連絡先すら知らない友達。
     ズキンと胸が痛くなる。このバーを出ても、友達なのだろうか。グラスを拭く手が止まってしまう。溜息を吐きそうになって、営業中である事を思い出して気を取り
    「あ、シンデレラ君。今日遅いじゃん」
     扉のベルが鳴り、グラスを片付けていた俺が振り返ると、藍湛と目が合った。声をかけた女子大生に目礼していつものカウンターの奥に座る。目礼だけなのに、女子大生はさして気にしていない。
     馴染んできたなぁ…としみじみと思いながらおしぼりを渡しコースターをセットする。何にするか問い掛ける前に彼は、突然口を開いた。
    「魏嬰、友達というのは連絡先を聞いていいらしい」
     突然の言葉に、きょとんとしてしまった。
    「君が嫌でなければ、連絡先を聞きたい」
     真っ直ぐに見つめてくる瞳は僅かな不安を宿している気がする。断られる不安を抱きながら勇気を出して聞いてくれたようだ。友達になってひと月程、過ぎただろうか。もしかしたら、連絡先交換という概念すらなかったのかもしれない。
    「うん、いいよ」
     断る理由がない。藍湛との繋がりが増えるのは嬉しい事だ。過去に一度も、店で連絡先を交換した事はない。客としての一線を越えてしまうからだ。
     それでも勇気を出して聞いてくれた藍湛の連絡先を、俺も知りたいと思ってしまっていた。断る理由がない。しかしどの様に教えようか…と、思案しながら首を傾ける。
    「今日は甘くないのがいいか?」
     頷く藍湛を見て、シャーリーテンプルを作り始める。そしてメモ代わりに黒のコースターの裏に、白いインクのペンで名前と電話番号を書く。念の為白いインクのペンを用意しておいて良かった。
    「お待たせ」
     シャーリーテンプルをコースターに置きながら隣に、もう一枚のコースターを置く。不思議そうにそれを捲った藍湛は、その裏を見て僅かに目を大きくした。
    「ありがとう」
     そんなに嬉しそうに言われると、何だか照れ臭くなる。
    「どういたしまして」
     目敏い女子大生が食い付いて来ないか心配だったが、特に何を言われる事なく連絡先を教える事ができた。何となく、視線は感じるんだけど。気付かないフリをして洗い物を始める。
     藍湛は例に漏れず、日付が変わる前に帰って行った。その後も何人か客が入れ替わって、今日もよく働いた。頭の中には、藍湛の連絡先を聞けなかった事が残っていた。
     クローズして、片付けを始める。外のライトを消して、洗い物と床のモップ掛けなど、いつもの閉店業務を終えて、伸びをしながらバックヤードに戻る。
     ふと、あまり見ないスマホに目を向ける。何となく手に取り通知がないか確認すると、知らない番号からメールが来ていた。
    『お疲れ様 藍湛』
     時間を見ると、彼が退店して少ししてからだった。短い文面から、何を送っていいのかわからず、悩んだだろう事が読み取れてしまい声に出して笑ってしまった。
     既に夜中どころか、明け方近く。明日返事をしようと、スマホを閉じて着替えて店を出る。
     真っ暗な夜空は静かに、星を輝かせていた。月を見上げて、藍湛の瞳を思い出す。何てメールを返そうかと、今からご機嫌に考える自分に苦笑しながら、いつもの帰り道をのんびり歩いた。
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