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    kow_7726

    @kow_7726

    忘羨、曦澄に日々救われる。

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    下戸藍湛×バーテン魏嬰
    〜不定休日編〜

    #忘羨
    WangXian

    ノンアルコール・モヒート!(6) 連絡先を交換して暫く。返事のメールをして以降、彼からメールが来る事はなかった。俺からも、してない。元々、細々したメール連絡とかはあまり得意ではない。けれど、藍湛から連絡がない事は少し気にしていた。
     藍湛も店には来るし、普段と変わりない。だからそんなに気にしないように心掛けていた。
     そんなある日。オープン前の業務を終えてバックヤードにモップを片付けに行った時。スマホがメールの着信を告げる。手に取り俺は、固まった。
    『きみに、逢いたい』
     送信元を確認すると、きちんと藍湛だ。何度も確認し、迷惑メールの類でない事を確認する。すると、もう一件続けて来た。
    『すまない、忘れて欲しい』
     いやいやいやいや、忘れられるはずがない。少し悩んでから返事をする。
    『今日、休みだから店に来て欲しい。鍵を掛けておくから着いたら連絡してくれ』
     今日は不定休日にしようと決めて送信した。少しして、返事が来た。
    『わかった』
     速くなった心臓の鼓動を落ち着かせようと深呼吸する。突然どうしたと言うのか。何かあったのだろうか。心配になりながら、店内に戻る。
     藍湛が来るまで手持ち無沙汰となり、チーズを出して赤ワインをグラスに注ぐ。一番奥の、いつも藍湛が座る席。
     いつも姿勢正しく、グラスを撫でる癖がある。アルコールが飲めなくて、今の時代に驚く程に純粋な彼を想う。想いながら、グラスの赤ワインを飲み干した。
     こんなに誰かを想い、求めたのは初めての事だった。まるでカラカラに乾いた砂漠に吹く風みたいに、痛い。
     程なくして、置いておいたスマホが鳴る。電話だ。藍湛からだった。
    「もしもし、藍湛。お疲れ様」
    「魏嬰……お疲れ様。随便の前に来た」
    「了解、今開ける。」
     カウンターから立ち上がり、赤ワインとチーズを隣の席に移動させてから扉に向かう。鍵を開けて、ベルを鳴らしながら扉を開く。
     少し疲弊した、藍湛の姿があった。店内に促すと、再び施錠する。カウンター内に入ると、藍湛はいつもの席ではなくテーブル席に座った。
    「どんなの飲む?」
     おしぼりを手渡して、問い掛ける。どうにも今日の藍湛は心ここに在らずと言った状態で、心配になる。何かあったのだろうが、無理に聞く事も出来ず笑顔を向ける。
    「……初めて、君が私に飲ませてくれた…チャイナブルーが飲みたい」
     藍湛から、ノンアルコールカクテルの名前で注文を受けたのは初めてだった。名前は教えたりしていたし、覚えていたのかもしれない。
    「了解」
     カウンター内に入り、チャイナブルーを作る。淡いブルーの、綺麗なノンアルコールカクテル。それをテーブルに置いてやる。
    「向かい、いい?」
    「うん」
     一応、許可を得てから向かいにチーズと赤ワインを持ってくる。チーズの包装を開けながら、ちらりと盗み見る。やはり、何か思い詰めたような…苦しそうな表情。
    「………何かあったのか?」
     話すかどうかを迷っているらしい。それ以上は聞かず、赤ワインをちびりと飲んで別の話題を出すかと思案し始めた所で、藍湛が口を開いた。
    「彼らの……初めてこの店に来た時の者達の…話が、聞こえてしまった」
     多分、陰口だろう。この純粋な人が、直接的な悪意を向けられ流す事ができないのは想像に容易い。きっと、相手ではなく己を責めてしまう。
    「何を聞いた?」
     吐き出させようと、先を促す。それが正解なのかはわからない。
    「……私は、つまらない人間だと。出生した先が藍家でなくては誰も見向きもしない、……」
     それ以上な言葉にならなかった。深く息を吐き出してチャイナブルーを一口飲んだ。
    「…あいつらはさ、友達じゃないんだろ?俺は藍湛と居て楽しい。もっと話したいと思うし、一緒に居たいと思ってる」
     励ましの言葉のつもりが、本心になっていた。不安げな瞳に、力を込めた眼差しを返す。
    「友達の言葉と、ただの同僚の奴らの言葉、どっちを信じる?」
     暫く悩んだ後で、藍湛はゆっくり答えた。
    「君の言葉を……信じたい」
     それを聞いて破顔する。すぐには無理でも、少しずつそう思ってくれるのが嬉しい。思わず手を伸ばし、よしよしと頭を撫でる。
     驚きに目を見開かれる。しかし手を振り払う事はしなかった。
    「よし!じゃあ、今夜は飲もう!」
     藍湛のチャイナブルーも少なくなってきた。もう一杯作ろう。そうだ、酒を飲ませてやろう。藍湛はきっと、俺がノンアルコールカクテルを作ると思っているだろうけど。
     職業柄、どんな酔っ払いの相手もできる。吐こうが喚こうが、例え暴力を振るわれても対処できる。その自信があった。もしかしたら鬱憤を吐き出してくれるかもしれないと思ったから…
    「今夜は、モヒートっての作ってやるよ」
     カクテル言葉は『心の乾きを癒して』なんて、俺の気持ちそのまんま。藍湛と出会ってから、心が乾いて仕方ないんだ。言えないから、カクテルで伝える。
     二つ、同じものを作ってテーブルに運ぶ。両方アルコール入りだと言う事を、藍湛は知らない。
    「俺の……気持ち込めたからさ。これ飲んで元気になってよ」
     祈るように告げた言葉を、どう受け取っただろう。藍湛は、疑う事なく、そのグラスを手に持った。
    「乾杯」
    「………乾杯」
     そうして、彼はグラスに口を付けて飲んだ。
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