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    カリフラワー

    @4ntm_hns

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    作品はすべて全年齢向けです。

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    カリフラワー

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    ルスマヴェ結婚アンソロ寄稿作品その1
    結婚前アンソロに寄稿したものです。
    個人誌でも同じような話を書いたような気がしますが、このアンソロの方が先に書いていたのでセーフかな、と自分で納得させています。

    #TGM
    #ルスマヴェ
    rousmavet
    #roosmav

    You Made Me Think About It 美しい鳥の声が新しい一日の始まりを告げる。快晴の朝にふさわしい、湯気を立てるコーヒーやパンケーキ。明らかに作りすぎてしまったが、気にするほどじゃない。トレーに並ぶマグカップや朝食の皿が、ベッドルームへの歩調に合わせて繊細な音を立てる。
    「マーヴ、おはよう」
     声をかけながら、肩を入れてベッドルームのドアの隙間を広げた。昨夜マーヴは珍しく疲れた様子で帰宅し、「もし朝九時を過ぎても寝ていたら適当に起こしてくれ」と一言残して先に眠りに落ちてしまった。実際に今朝、いつもなら彼が起きているはずの時間になってもアラームは鳴らず、マーヴも目を覚まさなかった。そして俺が朝食を用意していた間に彼はベッドの真ん中寄りまで寝返りをうち、今は俺の声に反応してぼんやりと目を擦っている。
    「よく眠れた?」
    「んん……おはよう」
     マーヴだって若くはないから、朝の声は掠れて通らない。
    「今朝はマーヴがお寝坊さんだね」
     朝食がのったトレーを物を退けたベッドサイドテーブルに置き、マーヴの額に今日の最初のキスをした。彼はキスをした場所にそっと触れた。
    「九時過ぎたら起こしてって言ってたから、起こしに来たよ」
    「もうそんな時間か……」
     言いながらマーヴはあくびをした。時計の針は九時半を指し、暖かく明るい陽が部屋に差し込んでいる。昨夜マーヴは半ば寝ながら下着以外の全てを脱いでベッドに入った。そのため彼は乱れたシーツの中で上半身を露わにしている。しかし彼は〝どうかそのままでいてくれ〟という俺の邪念に気がつくことなく(あるいは気がついたのか)すぐにそのままベッドから手を伸ばし、脱ぎ捨てられたTシャツを拾い上げ袖を通した。そして真っ白な柔らかい布地に包まれた上体をゆったりとヘッドボードに預けた。
    「どうぞ、これがお目覚めの一杯です」
     トレーからマグカップを取り上げ、マーヴに手渡した。マーヴがブラックコーヒーの水面を吹いて冷ますと、蒸気が彼の頬を艶やかに濡らした。一口啜ると、あちっと小さく呟き唇を舐めた。彼のその濡れた唇に俺の唇を重ねると、マーヴは聞き逃しそうほど小さく声を漏らした。
    「本当はマーヴの目が覚めるまで起こさないでおこうと思ったんだけど」
    「起こしてくれて助かったよ、遅くまで寝るのは余計に疲れてしまうから」
    「ほんと? ならこれ食べる?」
     パンケーキが重なる皿を鼻まで持ち上げ息を吸い込み、マーヴに見せた。疲れを吹き飛ばす甘い香り。背徳と食欲の狭間でマーヴのグリーンの目が揺らいだ。あとは軽く背中を押すだけ。
    「上手く焼けたから食べてほしいな。目が覚めるほど美味しいよ」
     マーヴはマグカップをベッドサイドに置き、空のトレーを受け取り脚の上にのせた。パンケーキの皿を渡すと、マーヴは俺と同じ動きで皿を持ち上げ、甘い湯気の中で一度深呼吸をした。そしてメープルシロップが染み込むパンケーキをフォーク一本で小さく切り、口に運んだ。咀嚼する彼の口元は緩く波打ち、息を漏らして笑った。
    「うん、最高に美味しい」
    「でしょ? 厚さも焼き加減も最高のものをご用意しました」
     自慢げに答えるも、マーヴは甘美な背徳感に支配され手も止まらなければ話も聞いていそうにない。
    「ねぇ、マーヴ」
     フォークを握るマーヴの手を制し、先ほどより少し大きな声で呼びかけた。
    「なんだい?」
    「俺と結婚したくなった?」
     マーヴを覗き込むと、彼はようやく手を止め俺を見た。しばらく視線を交わし瞬きした後、マーヴはベッドサイドを振り返りマグカップを持ち上げた。コーヒーを啜る前、マーヴは小さな声で答えた。
    「売り込みしてるの?」
    「マーヴがそう言うなら売り込みかな。パンケーキを作らせたら世界一の俺、どう?」
    「あいにくそういうのは断ってるんだ」
     マーヴはふん、と笑った。
    「それに、君はこんな風に自然にプロポーズするようなタイプじゃないだろ」
     まぁそうだけど、ふと思った時に口を衝いて出てしまうこともあるんだよ。俺は我慢できないタイプでもあるんだから。
    「じゃあマーヴは俺と結婚したくないってこと?」
     自分用に持って来たカフェオレを啜ると、マーヴは俺がカップを置く時を見計らって返事をした。
    「それはなんとも言えないな」
     わざわざタイミングを待って返事をした割に、その内容ははっきりしない。
    「普通はイエスかノーの二択でしょ」
    「それより、ベッドで使うミニテーブルが欲しいな」
    「……はあ?」
     話の途中じゃなかったっけ?
    「脚の上を跨ぐような形の小さなテーブルだよ、ほら、君ならわかるだろ?」
    「それはわかるけど、話が変わりすぎ」
    「君がこれからもこんな風に朝食を用意してくれるなら……、あるいは僕が君に用意する時も、テーブルがあれば便利じゃないか?」
     さっきまでの話も相まって、マーヴの言葉がプロポーズに聞こえなくもない。……いやいや違う、これをプロポーズとするわけにはいかない。俺の妙な表情に目を留めながら、マーヴはパンケーキの最後の一口を食べた。
    「美味しかったよ、ありがとう」
     マーヴは話を終わらせるように微笑み、トレーを持ち上げてベッドを降りた。片づけを名乗り出るマーヴを数往復のやり取りの後になんとか断り、彼をベッドルームに残した。午前十時なんて、俺ならまだ寝てられる。

     片づけを終えベッドルームに戻ると、マーヴはすでに朝の身支度を終えていた。しかしシャワーあがりのマーヴの身体を覆うのは下着だけで、彼は残りの服を選ぶためクローゼットの前で腕を組んでいる。
    「わーお、服選んでるの? 着なくていいんじゃない?」
    「うん、どうしようかと思って」
     マーヴは最初の質問にだけ答えた。
    「今日はワークアウトは?」
    「もちろんするよ」
     即答したマーヴはワークアウトに最適なウェアを探してクローゼットを漁った。鍛え上げられたその肉体を見れば、愚問だったと自分でも気がつく。
    「今日はやめておかない? 昨日疲れて帰ってきたじゃん」
     振り返ったマーヴの表情は厳しい。眉を寄せて、その大きな両目に影を作っている。
    「そういうわけにはいかないよ」
    「身体は動かしたいんだよね? じゃあビーチ行こうよ、ビーチで散歩」
     マーヴは再びクローゼットと向き合っているが服には触れようとしない。いいぞ、いけそうだ。
    「せめて走らないか?」
    「走ってたら会話ができない」
    「それは君だけだ、僕は話せる」
    「でも俺が話せないと会話にならないよ」
     するとマーヴは諦めたように力を抜き、ベッドに倒れ込んだ。仰向けに寝転がるマーヴを上から覗き込むと、彼は呆れつつも優しく呟いた。
    「……わかった、ビーチで散歩だな」
     そしてマーヴは小さくため息をついた。やれやれと笑っている。
    「決まりね、じゃあ服は俺に選ばせて」
     返事を聞く前にマーヴの両頬にキスをして、クローゼットからいくつか候補を選び出した。自分のためなら迷うことなどないのだろうが、服を着るのはマーヴだ。こんなにも輝く人が着るのなら、あれもこれもと選んでしまう。
    「んー……じゃあ、これをお願い」
     ダークグリーンのジョガーパンツと黒色のTシャツをまとめて、まだベッドの上で体勢を変えないマーヴのそばに置いた。
    「本当はこのままマーヴとベッドで遊んでたいけど」
     マーヴの隣に寝転び、美しい起伏が露わになった身体をなぞる。案の定マーヴは跳ね起き、Tシャツに袖を通しジョガーパンツを履いた。そして、これでどうだとばかりに自信に満ちた表情で再びベッドに腰かけた。ワークアウトをする体力はあるのに、セックスをする体力はないってか。俺も起き上がり、彼のジョガーパンツのウエストに入ったTシャツの裾を出してあげた。マーヴはTシャツの中に手を入れられると思ったのか、わずかに身じろぎした。その反応に思わず笑みを隠せず、鼻息が漏れた。マーヴは俺にちらりと目をやるだけで何も言わない。
    「やっぱりマーヴは何着ても似合う」
    「君が似合うものを選んでくれるからだよ」
    「……俺のおかげ?」
    「そう」
    「じゃあ、俺と結婚したくなったってこと?」
     マーヴは曖昧な表情で俺の頬を撫でて答えた。
    「それはどうかな」
     そして立ち上がり、こちらを振り返った。
    「さあ、行こうか」

     玄関で車のキーを手に取ると、マーヴは不思議そうに首を傾げた。
    「歩いて行かないの?」
    「ビーチで歩くし……」
     まあいいか、とマーヴは肩をすくめ家を出た。
     外の空気は爽やかで、太陽の光が車のダッシュボードを照らす。エンジンをかけ車を走らせると、視界の端でマーヴがこちらに顔を向けるのが見えた気がした。
    「どうしたのマーヴ、そろそろ俺と結婚したくなった?」
    「はいはい」
     助手席を見るとマーヴは顔の向きを変え、窓際に肘をつき外の景色を見ていた。
    「こんなハズバンド・マテリアル、他にないよ」
    「ん? 何だそれ」
    「夫にするには理想の男、てこと。聞いたことない? ボーイフレンド・マテリアルとか」
     マーヴは首を横に振った。
    「まあ要するに俺のことだよ」
    「具体的には?」
    「うーん……。料理ができる。毎日マーヴの服を選ぶ。マーヴとならどこへでも行く。いつでもマーヴを愛する。ほら、結婚したくなったでしょ?」
     我ながら単純な〝夫素材〟だ。マーヴと結婚するなら、もっと高度で役に立つ能力を持っていないといけないだろうか。マーヴはまたふんと鼻で笑うだけだった。
     しばらくしてマーヴが窓を開けた。ビーチがもうすぐそこまで近づいている。風の匂いが変わり、エンジン音に波の音が加わる。ビーチの近くの駐車スペースを探し停車すると、マーヴが口を開いた。
    「さっきの質問の答えだけど」
    「ん? 俺と結婚したくなったかってこと?」
     マーヴは頷いた。その日のうちに答えをもらえるのはありがたい。付き合う時は何週間も待ったから。しかしきっと答えはさっきと同じ、「何とも言えない」。まあ、こんな話し方でちゃんとした答えがもらえるとは思っていないけど。
    「……うん、したくなった」
     マーヴの声は外から聞こえるビーチの雑音にのまれそうなほど小さかったが、なぜだかはっきりと俺の耳をとらえた。
    「え?」
     なのに、自分の口から出るのは間抜けな音ばかり。
    「は、え?」
    「……君と結婚、したくなったよ。今日ずっと考えてたんだ。君が今朝パンケーキと一緒に結婚の意思を僕に聞いた時から、そのことが頭から離れなかった」
    「嘘でしょ? 冗談、だよね?」
     するとマーヴは眉を寄せながら笑った。
    「君の今までの結婚の誘いは冗談だったのか?」
    「ち、違うけど、まさか今本気の返事をされるとは思わなくて、返事も曖昧だったし、でも俺今は指輪も何も持ってないし服もジャージだし……」
     それからマーヴは眉間に集まる緊張を解いた。
    「わかってるよ、君はロケーションもタイミングも、スピーチの内容もすべて完璧なものを用意してプロポーズするタイプだろうね。だけど見て、僕だって指輪は用意してないし、もう少し良い場所で話すべきだったと思ってる」
     そのグリーンの目に浮かび上がる慈愛は、俺にだけ向けられている。
    「でも同時に、君には積もりに積もった想いが口を衝いて出てしまう時があることも知ってる。そして僕は、それを知っていながら返事を先延ばしにするのは心苦しいと思うタイプだから」
     だから今返事をしたくなった、とマーヴは言葉を継いだ。お互い我慢するのが下手なのだろう。二人のファーストキスは散々我慢させたくせに。
    「君のハズバンド・マテリアルの話、あれはほとんどすべて僕一人でできてしまうことだよね。それに結婚しなくたって君は同じことをしてくれるだろうし」
    「まあ、そうだね」
    「だけど、こうやって自分でできることや結婚しなくてもいい理由を並べても、それ以上に君と結婚したいんだ。君のいるベッドで起きて、君と食事をして服を選んで、君の隣で眠りたい。ただ君を愛しているから」
     マーヴの話を遮るものは何もない。俺でさえ、マーヴの言葉を邪魔することはできない。
    「それに何より〝いつでもマーヴを愛する〟ことは、僕にはできない」
    「……うん、俺にしかできない」
    「恋人として僕を愛してくれたなら、次は夫として僕を愛してほしい。それがどれほど心地良いことなのかを知りたい」
     海より深く澄んだマーヴの両目が、周囲の景色を消し去る。もう人混みの音など聞こえない。
    「もちろん僕も、夫として君を愛する世界でただ一人の存在になりたい。それを世間に認められたい」
     それは俺も同じだ。マーヴとの関係はもう二度と崩れ落ちることはないのだと、世間に証明したい。この関係を二人よがりなもので終わらせることもできるが、それじゃ今までと何も変わらない。ならやるべきことは一つしかない。
    「俺はどんな立場になってもマーヴを愛してるよ」
    「うん、僕もだよ」
    「……プロポーズは俺からさせてほしかったけど」
    「わかってるよ、君の番をちゃんと待ってる。僕はどこにも行かない。今まで散々君を待たせてきたから、今度は僕が君を待つよ。それに、君を待つのは好きだから」
     そう言ってマーヴは真っ直ぐに俺に手を伸ばしキスをした。それは俺を捕らえたままゆっくりと溶けていくようなキスだった。
     ようやく外の音が聞こえ始めた。ビーチで笑う人々には、俺とマーヴの声は届いていない。その代わり近い将来、この二人だけの約束が周囲の祝福を受け、事実へと変わる日が来る。
    「次に俺が結婚の話をする時は、必ず指輪と一緒だからね」
     もう答えは知ってしまったけれど、次こそ俺を見てイエスと言ってほしい。左手を俺に貸してほしい。
    「ああ、早く君を夫と呼びたい」
     マーヴの独り言のような呟きは楽しみな気持ちと待ちきれなさが滲み、鼻歌まで歌い出しそうなご機嫌な言葉だった。
    「……ねえ、これって本当にマーヴからのプロポーズなんだよね?」
    「さあ、どうだろう?」
    「もう、これは大事な確認だよ。こんなに夢みたいに嬉しいのに、冗談だったなんて言われたくないもん」
    「はは、そうだね。これは僕からのプロポーズだよ、あいにく指輪もそれに似た物も持っていないけどね」
     マーヴは海風に揺れる目を細めた。
     信じられない。おい聞いてるか、昔の俺? いつからマーヴを好きだったかを考えれば、己の幼さまで一緒に思い出すことになる。だからそのことはできれば考えたくない。だが少なくともここまで来るのは長かった。今までの揺れ動き続けた人生は、この瞬間に辿り着くための道のりだったのだ。ブラッドリー・ブラッドショーとして生まれたのも、この日この瞬間のためだった。……たぶん、結婚式でも全く同じことを思うだろうな。だからなんだ。俺はずっと、他人より長い一日、一年、十年を過ごしてきた気分だったんだ。マーヴのいない一日の長さを耐えてきたんだ。
    「僕も君にとっての理想の夫になれるよ。僕以外にはあり得ない。どんなことがあっても君を愛することを諦めないし、君と歩む人生がどんなものでも構わない。険しくて過酷な道のりでも、平坦で何もない直線道路でも。……ああ、どうして僕はこう、話が止まらなくなるのかな。とにかく、ブラッドリー」
    「はい」
    「僕と結婚してください」
     真剣で、だけど肩の力は抜けていて穏やかな表情。マーヴは一番大切な言葉を口にした後、手で顔を覆った。俺の答えを待たずに。
    「もう、ここでこんなことを言うつもりじゃなかったのに……君のせいだよ」
     マーヴは冗談ぽく笑った。
    「俺が先に言いたかったなぁ」
    「でもこれは君が始めた話だよ」
     そうだけど、もうそうじゃない。
    「……ブラッドリー、泣いてるの?」
    「泣いてないよ、これは涙じゃない」
     嘘だ。鼻がツンと痛み、喉は細く締まっている。こういう時マーヴは、相手が情けなく泣こうが「泣いてない」と言いながら声を詰まらせようが決して笑ったりしない。ただ優しく相手を見つめて、話せるようになるまでじっと待つ。実際、マーヴは俺が鼻を啜るのを聞くまで口を開かなかった。
    「それで……君の答えは?」
    「イエス、イエスだよ、何万回でも言いたい。俺はマーヴと結婚する」
     俺は安心したように微笑むマーヴの唇を捕らえた。何秒経ったのかはわからないが、俺の頬に添えられたマーヴの手が簡単に離れることはなかった。

     これからはきっと、一日一日が短く感じるだろう。幸せな時間はあっという間に過ぎ去る。だけど車で過ごしたこの数十分は、すべてが思い出となった後も輝き続けるに違いない。
    「……今日は気持ちがいい日だね」
     何でもないような言葉で歓喜を誤魔化すマーヴがたまらなく愛おしい。
    「マーヴ、」
    「なんだい」
    「俺からも必ず結婚を申し込むから、ちゃんとイエスと答える準備をしておいてね」
    「わかった、もうノーとは言えないんだな」
    「言う理由がないでしょ」
     その通りだ、とマーヴは笑った。ビーチでも誰かが声をあげて笑っている。
    「さあ、行こうか」
     そう言ってマーヴは助手席のドアを開け先に外へ出た。俺は天井を見上げて大きく息を吐き、心臓の忙しない動きを感じる。今こんなに緊張しているのなら、俺の番ではどうなるのだろう。無事でいられるだろうか。
     マーヴはなかなか車を降りない俺を心配し、運転席のドアを開けた。マーヴが覗き込む前に、赤く潤んだ目をサングラスで隠す。ああ、俺は結婚するんだ。世界で一番大好きな人と。
    「俺はマーヴと結婚するぞ」
     運転席から降り立ち、空に向かって叫んだ。
     そう、俺は結婚する。俺の叫び声に驚き頬を赤くするこの人と。彼は俺の唯一の人であり、俺の愛そのものだ。
     今日はなんて素晴らしい日だろう。ビーチに集う人々に紹介しようか。この美しい人こそ俺の未来の夫、ピート・ミッチェルだと。
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    Replies from the creator

    カリフラワー

    DONEマ右ワンライ/ルスマヴェ/お題「歌声」
    わかりづらいですが、段落ごとに時間が進んでます。本当にわかりづらいです。反省してます。
    Sing for me 幸せだと感じる時、聞こえてくるのはいつも彼の歌声だった。
     ブラッドリーは歌が上手い。ピアノも弾ける。彼の父親もそうだった。二人揃って音楽の才能があった。だけどそれをブラッドリーに伝えると、彼はこう答えた。「俺が親父と違うのは、俺はマーヴを惹きつけるために歌ってるってこと。俺の歌声はマーヴのためにあるの」だから同じにしないで、と彼は笑った。

     繋ぎっぱなしのビデオ通話で、かつて僕たちは会話もせず黙って時間を過ごした。ブラッドリーは料理をして、僕は洗濯物を片付けて。お互い画面なんてあまり見ていなかったと思う。自分が映っているかどうかも気にしていなかった。ただ画面上で繋がってさえいれば、二人の時差も距離も忘れてしまった。時々思い出したように画面を見ると、ブラッドリーはナイフや缶切りを持ったまま、同じタイミングで僕の様子を確認しに来る。そして安心したように微笑み、また画面の前から消える。それを何度か繰り返していると、そのうち彼の歌声が聞こえてくる。
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     繋ぎっぱなしのビデオ通話で、かつて僕たちは会話もせず黙って時間を過ごした。ブラッドリーは料理をして、僕は洗濯物を片付けて。お互い画面なんてあまり見ていなかったと思う。自分が映っているかどうかも気にしていなかった。ただ画面上で繋がってさえいれば、二人の時差も距離も忘れてしまった。時々思い出したように画面を見ると、ブラッドリーはナイフや缶切りを持ったまま、同じタイミングで僕の様子を確認しに来る。そして安心したように微笑み、また画面の前から消える。それを何度か繰り返していると、そのうち彼の歌声が聞こえてくる。
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    カリフラワー

    DONEマ右ワンライ/お題「いい子」「悪い子」
    たまらんくらい最高のお題だったのでどちらも使いました
    帰り支度 思えばブラッドリーは、僕の知る限りずっといい子だった。
     大人の助けが必要なほど幼い頃から、ブラッドリーは他者を助けることに躊躇いがなかった。家の中では着替えを手伝ってもらっていた子が、外では道端でひっくり返った虫を草木がある場所まで戻してやり、公園では転んだ子に駆け寄り、大丈夫かと声をかけた。小さい頃は家族や僕以外には少し内気だった坊やは、転んで落ち込んだその子を控えめな態度で誘い、一緒に遊んで回った。そのうちその子は坊やの友達になり、名前と住所を教え合った。
     学校に通い始めてからも、ブラッドリーは何も変わらなかった。忙しいキャロルに代わって保護者面談に出席すると、先生からは驚くほどよく坊やを褒められた。「クラスメイト同士の喧嘩を止めて、仲直りまでさせたんですよ」また、意地悪されている子がいれば常に一緒に行動し、いじめっ子にも怯むことはなかったという。優しくて強い心を持ち、それを家族や僕以外にも分け与えられる子。先生の話を聞きながら、僕は誇らしさで胸がいっぱいだった。僕が坊やを育てたわけでもないのに、すぐにでも彼をハグしたくてたまらなかった。帰宅してキャロルに報告する間、僕の隣で話を聞いていたブラッドリーは嬉しそうに小さな鼻を膨らませていた。褒められるためにしているわけではなかっただろうが、それでも大人2人に口々に讃えられることは、彼にとっても大きな喜びだったろうと思う。
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