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    不穏なカブユウ

    #カブユウ

    リビングの片隅で、人知れず百合が枯れていた。
    片付けようと触れた途端にしおれた花弁がたわいもなく落ちた。茎は哀れなほど乾き切っており、花瓶の底の方に淀みが光っている。カブは小さくため息をついて、瓶を両手で支え、流しへと運ぶと、濁った水を流し、中を濯ぐ。
    ふと妻の姿を見ていないことに気がついた。
    今朝目を覚ました時はそばにいたのは覚えている。朝食の時はどうだろうか。いつもの席に掛けて、コーヒーを啜る静かな輪郭がよみがえる。その次は?
    リビングは無人のままだ。
    「――ユウリ」
    呼びかけつつ、寝室に向かう。扉を開けた。妻の姿はない。
    「ユウリ?」
    こもった汗の匂いに顔をしかめる。窓を薄く開けた。カーテンが揺れる。
    ベランダに続くガラス戸を開けて、ふとカブは眉を下げた。
    ――ここにいたのか
    手すりにそっと両手を置いて、エンジンシティの街並みを見下ろすユウリの隣に並んだ。
    「珍しいものでもあったかい」
    尋ねると、ユウリは視線を空に漂わせたまま、
    「なにも」
    短く答えた。
    「そう」
    カブは否定も肯定もせず、答えをそっと受け取った。
    「晴れるとよかったね」
    「そうですね」
    ――曇天が街を覆っている。厚い雲が垂れ込めたその下で、エンジンシティはいつにもまして重い空気の底に沈殿している。蒸気機関からあふれる煙が雲に溶けた。身に纏わりつくような空気の重みがある。
    「ユウリ」
    静かに、妻の名を呼んだ。無感動で無表情なその横顔が少しだけ、揺れた。
    「少し休まないか」
    「…今日は休日です」
    「そういう意味じゃなくて」
    カブは、手すりに乗ったままのユウリの手をそっと取った。
    「諸々、全てを、だよ」
    ユウリは答えず、カブの前でただうつむく。しばらく逡巡するように、視線が彷徨う。
    「わたし、は」
    声が、かすれた。
    「休もう」
    カブは間髪入れずに言葉を重ねた。
    「君はよく働いた」
    ユウリは顔を上げた。目の際が赤く染まっている。今にも泣きだしそうに、その顔がゆがむ。
    「無理です」
    「無理じゃない」
    「だってわたしは」
    カブはユウリの頬を両手で挟み込む。唇に指で触れながら、
    「僕は、君が大切なんだ」
    噛んで含めるように、訥々と言葉を紡ぐ。
    「君が、この世界の誰より、何より、大切なんだ」
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    REHABILIカカルクモナキ

    モンハン(ライズ)クロスオーバーカブユウ。
    太刀使いカブさんと新妻受付嬢ゆちゃん。R18です。
    地雷ない人向け。いろいろ荒い
    早朝、中庭から水を使う音がする。伏していた床からはたと起きて、ユウリは障子の先を見やった。朝の光がしらしらと障子紙を照らし、部屋は薄明るい。着崩れた浴衣の襟元を整えながら立ち上がり、裾を払って障子を開け縁側に出た。
    雨は昨晩まで続いていた。庭木の一つ一つに名残りの雫が宿って、燦然と朝日を反射している。
    庭の右手には井戸があった。見れば夫の姿もそこにある。裸の背が清水に濡れている。伺う端から夫は、汲んだばかりの井戸水をがばと被った。
    肩のあたりから湯気が昇るようだ。ひどく張り詰めているのが分かった。早々、狩りに出るつもりなのだ。ユウリは声をかけず、黙ってその一連の動作を見守る。二度、三度、夫は繰り返し水を浴び、最後に深く長いため息をついて
    「使うかな」
    背を向けたまま低く言った。
    「ごめんなさい」
    ユウリは身を縮める。
    ほつれた襟足の毛を慌てて整えながら、
    「邪魔するつもりでは」
    「…大丈夫だよ」
    カブはたちあがり、水気を拭ってからこちらにやってくる。
    「起こしてしまったかな」
    首にかけた手拭いを掴みながら、微笑んだ。
    「いえ、その」
    「無理はしなくていい」
    ユウリは、思い切って尋ねた。 4055

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    早朝、中庭から水を使う音がする。伏していた床からはたと起きて、ユウリは障子の先を見やった。朝の光がしらしらと障子紙を照らし、部屋は薄明るい。着崩れた浴衣の襟元を整えながら立ち上がり、裾を払って障子を開け縁側に出た。
    雨は昨晩まで続いていた。庭木の一つ一つに名残りの雫が宿って、燦然と朝日を反射している。
    庭の右手には井戸があった。見れば夫の姿もそこにある。裸の背が清水に濡れている。伺う端から夫は、汲んだばかりの井戸水をがばと被った。
    肩のあたりから湯気が昇るようだ。ひどく張り詰めているのが分かった。早々、狩りに出るつもりなのだ。ユウリは声をかけず、黙ってその一連の動作を見守る。二度、三度、夫は繰り返し水を浴び、最後に深く長いため息をついて
    「使うかな」
    背を向けたまま低く言った。
    「ごめんなさい」
    ユウリは身を縮める。
    ほつれた襟足の毛を慌てて整えながら、
    「邪魔するつもりでは」
    「…大丈夫だよ」
    カブはたちあがり、水気を拭ってからこちらにやってくる。
    「起こしてしまったかな」
    首にかけた手拭いを掴みながら、微笑んだ。
    「いえ、その」
    「無理はしなくていい」
    ユウリは、思い切って尋ねた。 4055