「少し休みなさい」「少し休みなさい」
いつになく厳しい声が降りかかる。
「そんな余裕ないことぐらい分かっているでしょう」
それに対抗するように声を荒げた。彼はその程度のことで動じる人ではない。
ワイルドエリアのポケモン達が密猟者によって乱獲されているとの情報が入った。
その手口から組織的な犯罪と考えられたが、一向に痕跡は見当たらず、警察、ジムリーダーを始め各ジムトレーナーが総出になって捜索をしていた。
単独捜索にでていた私は、エンジンシティにあるワイルドエリア近くのホテルに足を運んだ。そこには、警察や周辺のジムトレーナー達が集まる。何か情報でもないかと周囲を見渡せば、ロビーで電話をかけているカブさんがいた。見慣れた赤いユニフォームに顔が緩む。
カブさん、
知っている人がいなくて不安になっていた私は、急いで駆け寄った。その足音に気づいたのだろう、電話を切った彼は振り返り私を見つめた。
そして、冒頭の一言だ。
「行くなとは言っていない、少し休めと言っているんだ」
これは喧嘩だと思った。そもそも喧嘩らしい喧嘩をしたことがない。
大抵のわがままは彼に許されてきた。それに意見が異なれば、彼はきちんと交渉をしてきた。そんな彼が譲らない、私はさらさら譲る気がない、これは喧嘩だ。
「僕らジムリーダーそれに警察だって総力を尽くして捜索に当たっている。周囲の人を信じることも必要なことだ」
「そんなこと十分分かっている。それにみんなを信頼していないわけじゃない。私がチャンピオンとして動かずにはいられないだけ」
「必ず君の力が必要になる、それは今じゃない。焦る気持ちは分かるが、今は体力を取り戻しなさい」
「私が寝ている間に、何匹のポケモンが傷つけられるの?売られてしまうの?手遅れになる子がひとりでもいるのなら、私は何があっても行く!!」
これは互いに譲れないものだ。
休めというカブさんの気持ちも分かる。疲れている自覚はあるし、自分の限界ぐらい把握している。でなければチャンピオンなどやってられない。
「顔色が悪い君がやみくもに動き回ったところで何が変わる?効率が下がるだけだ」
「私よりも弱い人に何も言われたくない!!」
カブさんの眉がゆがんだ。目から怒りの感情が浮かんでいる。一瞬、自分の言葉にひどく後悔していた。こんなことを言いたいわけじゃなかった。
「強情な女・・・」
そう言うと、彼は私の腕をつかみ歩き出した。捕まれた腕はいくら抵抗しても揺らぐことすらなかった。
「痛い!!」
「痛くしているからね」
「声を出しますよ」
脅しのつもりで口にするが、彼は鼻にもかけない。
「声を出せばいい、騒げばいい、君もぼくもしばらくは缶詰だ」
「・・・・・・」
悔しくて唇をかみしめる。
「普段の君ならぼくを説得することぐらいできたし、今の状況から逃げることもできた、なんならぼくを撃退する方法だって浮かぶだろう」
でも、できないじゃないか。
そんなの、貴方が無理矢理引っ張るからじゃないか、そう言おうと思ったのに、涙がにじんだだけだった。
連れてこられたのはカブさんの予約した部屋だろう。カードキーで開かれた部屋に押し込まれ、ベッドに押し倒される。
こんな力尽くだなんて!!ぎっとにらみつければ、その視線にきちんと気づいて、目を細められた。
「何をされるのか、教えてあげた方がいいのか?」