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    eikokurobin

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    レニ/右爆/轟爆
    眠れぬ夜の小さな図書館

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    轟爆/ハロパロ/おにショタ

    #轟爆
    bombardment

    『カツキ、いい加減出てきなさい』

     この屋敷に連れてきた最初、見ず知らずの場所に対する恐怖心が消えるまでと与えた小さな木箱の中に隠れてしまった仔狼をどうやって引っ張り出したらいいものか?

    (木箱ごと叩き割ったら…ダメか、カツキが怪我をしてしまう)

     ワクチンを打たれたのが余程ショックだったのだろうか、痛みには強そうだと思ったんだが。それとも押さえつけられたのがいけなかったか、この子は抑えなくても大丈夫だと医者に伝えておくべきだった、“以前子どもに噛みつかれたことがあるのでね、なに、うちの看護師は抑え慣れていますから”そう医者に言われてつい委ねてしまったが、もしかしたら痛みではなく、押さえつけられる方が地雷だったのかも知れない。とにかくこれ以上飲まず食わずを続けさせるワケにはいかない、

     木箱に手を差し入れてほんの少し肌に触れることが出来れば強制的に眠らせられる、噛み付かれるかもしれないが構うものか、そうして伸ばした指先が捉えたのは燃える様な熱、

    (不味いコレは)

     慌てて両手を差し入れ引っ張りだした子どもは白い肌を真っ赤に染め、身体は汗でびっしょり。ワクチンが合わなかったのだ、子どもはヘソを曲げて閉じこもっていたワケじゃなかった、すっかり具合を悪くしてしまい、箱から自力で出てくることも、返事をすることすら出来なくなっていたのだ。

    +++

     身体があちィ、頭が痛ェ、どうなっちまったんだ俺は…ショートは何処?真っ暗で何も見えねぇけど匂いからしてここはショートの部屋、ショートのベッドの上にいるのにショートが側に居ないのは珍しい。起き上がるとまだクラクラする、そうだ、予防接種だとかいって注射されたんだ、てっきりショートにチクってされると思ったから了承したのに知らねえヤツ呼びやがって、

    (まだショート以外は怖い)

     人の形をしたもの全てが怖いってことをショートに言ってなかったから仕方ないか、ビビるなんてダセェとこ見せちまった。それにしても暗すぎる、こんなに暗くちゃ身動きできねェ、ショートがいないならカーテンを開けて光を入れようとベッドから出ようとした所で、

    『カツキ、起きたのか?』

     なんだ側に居たのか、いくら吸血鬼が夜目効くからって、こんなに真っ暗にすることねェだろ?と話しかけると、

    『真っ暗なのか?』

     と尋ねられる。ああ、何も見えないと返しながら俺はふと首を傾げる。例えどんな漆黒の中にあろうともショートの左右で色の違う魔眼だけは光っているはず。なのにそれが見えない、あの綺麗な頼もしい光がない世界なんてあってはならないのに…?

    『カツキ、落ち着きなさい』

    『あ、ア、ァァ…っ、ショート、俺、目が見えなくなってるッ』

     思わず掻き毟ろうとした手はショートに痛いくらいの強い力で縫い止められ、耳元に大丈夫だと囁かれる。出会った時ショートは俺に嘘は付かないと約束してくれた、だったら大丈夫なのだろうか?強い薬は時に失明を招くって聞いたことある、だから、大丈夫だってのも俺を落ち着かせるための嘘なんじゃ、

    『嘘じゃねえ』

     心を読むなって、

    『カツキの瞳が視力を失う前に手を打っておいた。幸いお前も魔族だからな、魔力を注ぎ込むことで視力は殆ど取り戻せるが、少し時間が掛かるんだ。だからその間カツキには俺の瞳を片方貸してやる。灰色と空色のどちらがいい?』

     そんな無茶な…!でも、吸血鬼ならあるいはそんなことが出来るとして、俺に貸している間ショートは弱体化しねェの?

    『俺を誰だと思っているんだ?この森に潜む夜闇の動物達全てが俺の目であり耳だ、まあ、可愛いカツキの顔を両目で見られねぇのは残念だがな』

    +++

     そうしてカツキに目を貸してみて判ったことがある、カツキはしょっちゅう俺の顔を見ているのだ。カツキは俺が感覚共有を通してカツキが何を見ているかを把握していることを知る由もないがこうも見詰められては流石に照れてしまう。元々この子どもは常日頃外見だけは褒めてくれるのだ、

    (逆に外見以外は褒められたことがないな)

     起きろ、メシ食え、着替えと風呂!
     ほんっとうにダメ吸血鬼だなショートは!

     まるでメイドの様に世話を焼いてくれる小さな子どものお世話をする出番がきたとばかりに俺は腕をふるって料理をしては鍋を焦がし、洗濯の方法を間違えてレースをダメにしてしまったりと散々で、

     そんな俺が唯一それなりに出来るのは風呂に入れてやることだけ。子どもの世話をする為に長い爪を切り揃え、柔らかい髪や身体を洗ってやると気持ちよさそうに委ねてくれるのが愛らしい、随分とこの子どもに心を奪われてしまったと自嘲するが、まだ愛を伝えるには早すぎる、せめてあと10年は待たないと、

    (…とても待てる気がしねぇな)

    +++

    『おお、やっと見えるようになってきた、カツキは狼にしちゃ視力が良いんだな』

     不思議だ、回復した俺の目のうち片目は俺に、もう片目はショートの眼窩に嵌っているなんて。

    『しかし紅い瞳というのはことさら眩しいもんだな、調べたら全ての瞳の中でも一番太陽に弱いらしい』

     太陽にクソ弱い吸血鬼のショートに言われたくねェわって言いながら、俺達は治癒を終えた瞳を元に戻すべくそれらを交換する。交換の前に鏡の前で見た俺の瞳は紅と空色のオッドアイ、

    (ちょっとショートみたいでカッケェじゃん、でも)

     やっぱりショートにはグレイとアイスブルーが似合うなって、元に戻ったショートの瞳を見てまた惚れ惚れし、こんな風にショートの顔が見られるように治って本当に良かったと安堵する。この怖いことだらけの世界で、俺に恐ろしいことばかりする人間が謳歌しているこの世界で生きていくのは限界だと思って俯いていたけれど、

    (ショートがいるだけで世界は変わる)

     生き物にとって太陽が命の源なら、俺の源は間違いなくショートだろう、だからきっと俺はショートを見たいんだ、ああ本当に治ってよかった…!
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