無事に過ごせる年月を アルシエラは手元にある1枚のゴシップ記事を見つめている。
そこに映し出されているのは本日誕生日の聖騎士長が大勢の人々に祝われてうろたえている姿だ。ここまで衝撃的な誕生日も中々ないだろう。
誕生日――今の姿になってからは毎年アーシエル・イメーラで祝われてはいる。
でも、殆ど関わりのない人達から祝われる言葉よりも……
『アルシエラは今日が誕生日らしい。祝ってやってくれ』
まさかザガンから祝われるとは夢にも思っていなかった。
あの時は思わず葡萄酒を吹き出してしまい、その言葉の後にセルフィに祝われ、強迫観念に駆られたかのようにリリスに祝われたのだったか。
更にフォルに純粋な感情で祝われ、黒花や他のザガンの配下もそれに続き、逃げようとすれば引き止められた。
なんとも言えない醜態をさらしてしまったとは思うけど……嬉しいと思う気持ちも確かにあったのだ。
だから彼女もきっとそうだろう。
おそらくその他大勢から祝われる事よりも、どんなに不器用だとしても隣にいる男から祝われることに幸せを感じるのだろうから。
――まぁ、今周りに祝われているのは誕生日とは関係ないことではあるけれど。
一説には誕生日とは歳を重ねた事を祝うのではなく、その歳まで無事に過ごせた事を祝うんだとか
次の誕生日までこの身体は持たないかもしれない。それ以前に何か問題を対処してそのまま消滅するのかもしれない。
それでも……
もしも無事に過ごせたのなら、周りの人達はまた祝ってくれるのだろうか。
「どうしたアーシェ、なんか嬉しそうだな?」
「なんでもないのですわ」
きっと、無事に過ごせたらこの男は祝ってくれるのだろう。
「あ、そうだ。アーシェの誕生日!」
「っ!? けほっ、こほっ!」
今まさに考えていた事を言われて思わずむせる。
「次の誕生日は俺にも祝わせてくれよ!」
「全くあなたは……」
もう十分この世界に存在したと思っている。
けれど、もう少しだけここに居られたらいいなと思わずにはいられなかった。