人の関わりがもたらすもの ――誕生日、そんなものは知らない。
気がついた時には裏路地にいたのだから。あそこのの兄弟達は皆そんなものだろう。
なので新年になると同時に年齢をひとつ増やして数えてきた。今年は18歳だ。
もっとも数えはじめの年齢すら眼鏡をかけた奴の見立てだ。合っている保証などない。
そいつらとも魔術師に生贄にされかけてからは関わりはなくなった。いや、人そのものと関わらなくなったというべきか。
まあ、生きるのにそんな関わりなんぞ必要ない。魔術師にとって興味のあるのは己の力を高めること。
死にたくないなら力を身につけなくては。無力なやつは淘汰されていくのだから。
だから日々魔術の研究に費やす。けど手元の魔道書は今全て読み終わったところだ。
新しい魔道書を探しに行こうと転移陣を展開し――直後他人からの干渉を受ける。
「よお、ザガン。相変わらず不健康そうな顔してんな」
ああ、そういえばいたな。唯一関わりを持つ悪友……相手も魔術師なのだから一般的な人としては数えはしないだろうけど。
「不健康と言うならおまえの方だろう。たまにはきちんと睡眠をとったらどうだ?」
「んな事してるぐれえなら魔道書のひとつでも読んでいた方が有意義だろ」
「俺はその魔道書を調達に行くところだったんだ。冷やかしなら帰れ」
「おいおい、つれねえこと言うなよ。せっかく人が親切で美味い酒を差し入れてやろうってきたんだからよ」
言いながら取り出したのは酒のボトル。
確か前に会った時、海の月の初めにオークションで珍しい酒が出るとか言っていた気もする。
その酒か別物なのかはザガンには判断つかないけど、少なくともこいつの持ってくる酒は美味いのだ。
「はん、偵察か何かの間違いだろ」
悪態をつきながらも互いに魔術で椅子やテーブル、グラスなど手繰り寄せる。
「言っとくが干し肉しかないぞ」
「へえへえ、てめえにその手のもん期待しちゃいねえよ。なんならつまみも作ってや――」
「断る! 貴様の料理を食うくらいなら腐った鶏肉の方が万倍マシだ」
「てめ、食いもん無駄にすんなとか言うくせに俺の料理にケチつける気かよ」
「貴様のそれは既に食糧ではない」
悪態をつきながらも予定していた外出をやめて酒を飲み交わす。
知らずのうちに口角が上がっていたのは味覚音痴の悪友がもってきた美味い酒のせいだろう。
そんな孤高の魔術師はまだ知らない。今から約ひと月半後に運命の出会いがあることを。
そして誰かから誕生日を祝われるということを知るのはまた来年の話。