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    pie_no_m

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    pie_no_m

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    ※捏造

    #ディノフェイ
    dinofacies

    難解ショコラミステリー ハッピーバースデー。今年もお祝いできて嬉しいよ。また近いうちに、一緒にご飯でもどう?
     そんなような文面を、送りはしたのだけれど。
     自分の手を離れて久しい後輩はますます多忙を極めており、元メンターのメッセージに返信する暇さえなさそうだった。部屋宛のプレゼントは本日中に受け取ってもらえるだろうか。何度もメッセージボックスの更新ボタンを押してしまう自分に呆れながら、ディノは携帯端末から目を離さないまま、ロッカールームの長椅子に上半身を横たえた。
     二月十四日。フェイスの誕生日。ついでにバレンタインデー。数年前であればフェイスとは同じチームで、同じ部屋に帰り、日を跨ぐまで盛大なパーティーを催すことができたというのに、時の流れは寂しいものである。そうも言っていられないしがらみや責任というものが、自分や彼の目指す『ヒーロー』像とリンクしているのだから、不満は一切無い。仲間たちと同じ志を共有できていることは、誇らしくさえあった。
    「……だけど、なぁ」
     会える回数はぐんと減ったし、以前のように盛大にお祝いする会もなかなか開けない。やりたい気持ちばかりが先走って、いっそ少しばかり憂鬱になりかけている。フェイスのためにと思うことが、自分のためになってはいけない――ディノの自省は衝動に変換され、「よし」と身体を起こしたちょうどその時、握り締めた携帯端末が気のない電子音を発した。

    「フェイス……!」
    「わ。なに、走ってきたの?」
     電光掲示板の下のベンチで、フェイスは呆れ声を出した。
    「だって……ごめん、待たせて……」
    「待ってないよ。どこも大体同じくらいじゃない?」
     LOMの報告反省会、と呟くフェイスが、ディノの前で携帯端末の電源をオフにした。「さぼれる時はしっかりさぼる」、もうひとりのメンターから受け継いだであろう信条を複雑に思いながら、時刻は午後九時を回っている。本日は業務終了と言っても差し支えなさそうだ。ディノは呼吸を整えて、ロビーを見渡した。やけに静かだった。
    「あれ? みんなは?」
    「みんなって……誰のことを想定してるかはわからないけど、二人じゃ嫌なの?」
     ベンチから立ち上がり、グレーのセットアップジャケットの裾を軽く払って、フェイスが再び呆れたように言った。ディノの端末に届いた、遅い時間でよければ軽く飲みに出ようというフェイスのメッセージには、喜んだ犬のイラストで返した。あとはロビーにこのくらいの時間、という約束のみで、よくよく考えてみれば、集まるメンバーについては聞いていなかった。
    「えっ……嫌じゃないよ……えっ、俺とフェイスだけ?」
    「そうだよ」
    「誕生日なのに? あっ、お誕生日おめでとう」
    「そうだよ。ありがと」
     フェイスは眉を下げ、困ったように微笑んでから歩き出した。行き先は決めていないが、この時間であれば例のさぼり魔御用達のバーだと見当はつく。
    「ごめん、俺、適当な服で来ちゃったな」
    「むしろ、かしこまる必要ある?」
     フェイスは今度こそ吹き出して、声をあげて笑った。何がどう面白いのかわからず返事に困ったものの、久しぶりに見る横顔が楽しそうで何よりだという満足感の方が勝ったので、しばらく眺めることにした。その姿は見るたびに兄との違いが顕著になっていく。毎日見てた頃よりも成長を感じるからかもしれない。ブラッドよりも顎や鼻のラインが細いとか、それでも後頭部の丸みは変わらないとか――半歩後ろからの感慨に満ちた視線にフェイスが気が付いて、ふと目が合う。
    「……まあ、まだ『みんな』とか出てくるあたり、ある意味では待たされてるのかもね」
    「やっぱり待たせたよな、ごめん」
    「そうじゃなくて……もう、本当にわからない?」
     自作の謎掛けを出題したのに、意に反する誤答ばかりで拗ねてしまう子供のような言い方だった。
    「メッセージにも手紙にも、あんなに俺に会いたいって書いてあったのに」
    「だって、フェイスに会いたかったから」
    「はいはいっとー。じゃあ、今夜は存分に祝ってもらおうかな。俺を独り占めするってことがどういうことか、ディノがわかるまで」
     正答を導き出すまで。或いはフェイスが満足するまで、この会合は続くらしい。それはバレンタインにふさわしく甘い響きに思えた。
     彼が望むものなら、何だって与えてあげたい。いつだってそうだった。等身大のショコラや皆で囲むパーティーで足りないのなら、あと自分にできることはいったい何なのだろう。ディノの頭上に乱発されたクエスチョンマークを捕まえて、フェイスの笑い声が冬の夜空に響いた。
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    pie_no_m

    DONE
    日曜日の番犬 イエローウエストの夜。多種多様な人工灯に煌々と照らされた通りは一晩中眠ることを知らない。歓楽街としては魅力的だが、昼間と比べ物騒で、どこか後ろ暗く、自分の身を自分で守る術を持たない人間が一人で出歩けるほど治安が良いわけでもなかった。ひとつ裏の通りに入れば剣呑な雰囲気は特に顕著であったが、フェイスは気にした様子もなく、胸の前に大きな箱を抱えて歩いていた。一年のうち、もしかしたら半分は通っている道だ。警戒はしても、怯えはしない。その上、今夜は一人ですらない。
    「ごめんね、付き合わせちゃって」
    「気にしてないよ。明日はオフだし、むしろ体力が余ってうずうずしてるくらい」
    「アハ、ディノらしいね」
     歩を緩めて箱を持ち直したフェイスの少し後ろを、フェイスより大きな箱を抱えたディノがそれでも身軽にスキップする勢いで歩いている。箱の中身は、フェイスが懇意にしているクラブオーナーが貸し出してくれた音響機材だった。大きなものは業者に任せたが、いくつかは精密機器も含まれるので直接運ぶための人手が欲しいのだと頼んだところ、ディノは快く引き受けてくれた。『ヒーロー』としての業務終了後、そしてディノの言う通り明日は休日なので、【HELIOS】の制服は身につけていない。一般的な服を着た、背丈のある男が爛々と目を輝かせて歩く様は、この界隈で言えば異常だった。目を引いても絡まれないというのは、見た目のおかげで人種性別問わずエンカウントの多いフェイスにとって非常にありがたいことだ。最初にディノをクラブへと誘ったときも、似たような理由があったことを懐かしく思う。
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