マリン・モールス・マーメイド コンセプトは海の底。地下二階にある店内はかなり薄暗い。陶器で出来た貝殻の中央に、真珠を模した球体が鎮座するテーブルライトへの既視感を振り切って、フェイスはメロウなBGMの方に意識を集中させた。時折混ざる波の音は本物を録音したもののようだ。雰囲気作りに力を入れているわりに、客の入りはまばらだ。それもそのはず、オープンしたばかりのカフェレストランは海沿いに位置するホテルのテナントで、シーズンにはまだ少し早い。いわゆる良いムードの店の中、フェイスとテーブルを挟んで向かい合うのは、海水浴や写真映えを目当てにするような人物ではなかった。
「シーフードピザ!」
「シーフード……ね」
ディノはその瞳をシェルランプよりも輝かせて、輪切りのイカ、ホイールのように丸まった海老など、大ぶりな具材盛り沢山のピザを愛おしそうに見つめている。海の中で海の生き物を食す残酷さについて問うのは野暮というものだろうか。食い気が百パーセントの恋人に対して残念な気持ちは微塵もないけれど、どこか気が抜けてしまう感覚はあった。
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