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    pie_no_m

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    pie_no_m

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    全部がうまくいきそうで、ちょっとした勇気に溢れる日のお話

    セルフワンライ+15m

    #ディノフェイ
    dinofacies
    #エリオ腐R
    elioRotR.

    春の匂い「春の匂いがする」
     ベランダに向けて何とはなしに放ったディノの声を、フェイスはしっかり拾ってくれる。
    「春の匂い?」
    「うん、わかるかな……何っていうわけじゃないんだけど、ふわっとした空気の匂い」
     けれど開け放った窓からリビングに流れる風は、どちらかといえば肌に冷たく感じる。そもそも部屋の空気を入れ替えようとしていたので問題はないが、フェイスに共感してもらうには心許ない返答だった。それでも天気は雲ひとつない快晴で、このあと街へ巡回に赴くのにもう分厚いアウターは必要ないだろうと付け加えてからやっと、フェイスはそうだねと頷いてくれた。
     実際のところ、季節の移り変わりの際に感じるこの香りの正体をディノ自身もよくは知らない。春なので何がしかの植物の芽吹きだとか、陽光に照らされた土の匂いだとか――想像には難くないが、ニューミリオンは大部分がコンクリートと鉄筋でできている。ディノがエリオスタワーの上層階で嗅いだ、何とも言えないふとした予感を、的確な言葉で表現することは難しかった。
     何気なく、風の音に紛れても構わない程度の呟きとして口から送り出してしまった言葉を、フェイスは聞き漏らすことなく受け止めてくれた。興味や関心は施しと程遠いもので、取り繕わない素直さはフェイスが持つ魅力のひとつだった。
    「まあ、何となくわかるよ。よく言うもんね、雨の匂いとか」
    「そうそう、そういうの」
     夕方までには帰れるだろうから窓は開けっ放しにしていこうかというディノの提案に、賛成票を入れるフェイスの声はいつのまにか隣に並んでいた。こんなに良い天気なのにパトロールなんて、とぼやく横顔に、ディノは苦笑するほかになかった。街の平和を守る仕事にはもちろん責任を持っているが、半分はフェイスと同じ気持ちだった。今日がオフだったなら、キースやジュニアも誘ってミリオンパークでキャッチボールをしたあと、芝生の上でデリバリーのピザを堪能するといった催し物を開いただろう。それくらい平和で、朗らかな午後だった。そしてそれがどれだけ貴重な時間かも、ディノは知っている。
    「さて、そろそろ出かけようか、キースとジュニアはどこで――」
     ランチしてるんだっけ、というディノの台詞を丸ごと飲み込むように、フェイスの両腕がゆったりとディノの背中に回される。風を受けて少し冷たくなっていた制服のシャツが、フェイスの体温とともに身体に張り付く。温かいのか冷たいのかもよくわからない。
    「え……っと、フェイス……?」
     柔らかい毛束を胸元に擦り寄せて、しかしフェイスはディノに抱きついたまま何も言わない。感情のまま行動するのなら、その背骨に怪我を負わせてしまいそうなほどの気持ちで返したい。けれどそれは色々な人が、そもそもフェイスが困ってしまう。ディノは不自然なマネキン人形よろしく棒立ちになったまま、太陽が雲の影に隠れ、より冷たくなった風を浴びていた。
    「あのお、フェイスさん……?」
    「……その呼び方、やめて」
     不機嫌な声はクリアだった。顔を上げたフェイスが拗ねたような顔をしたまま身体から離れていき、ディノもいよいよ本当に戯れている時間がないことに気が付いてその背中を追った。
     キースとジュニアはてんでんばらばらな方向で各々の昼休憩を過ごしていたらしい。ディノとフェイスが分かれてそれぞれの居場所に合流した方が効率的だった。効率という言葉にも微妙な反応を見せたフェイスだったが、一度頷いたあとは何も言わず、大通りの交差点で信号待ちをしている。
     先程のハグの理由や意味を尋ね損なったことを情けなく思いつつ、横目でフェイスの表情を盗み見る。ディノは何も言っていないので、当然その涼しげな顔が何かを聞き返してくれることもなかった。
     交差点を渡った先がフェイスと別れるポイントだった。またあとでと声をかけると、フェイスは頷き、自らの白いネクタイを摘み上げ、示すように指を差し、そしてディノに背を向けて歩き出した。
     昼食のピザのソースでも飛ばしてしまったかと、慌ててシャツごとネクタイに鼻を寄せる。結果として、ディノの制服のどこも、ピザソースの被害には遭っていなかった。
     ただ、甘くむせ返りそうな――彼の匂いが、春の風とともに通り抜けていった。
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    pie_no_m

    DONE
    日曜日の番犬 イエローウエストの夜。多種多様な人工灯に煌々と照らされた通りは一晩中眠ることを知らない。歓楽街としては魅力的だが、昼間と比べ物騒で、どこか後ろ暗く、自分の身を自分で守る術を持たない人間が一人で出歩けるほど治安が良いわけでもなかった。ひとつ裏の通りに入れば剣呑な雰囲気は特に顕著であったが、フェイスは気にした様子もなく、胸の前に大きな箱を抱えて歩いていた。一年のうち、もしかしたら半分は通っている道だ。警戒はしても、怯えはしない。その上、今夜は一人ですらない。
    「ごめんね、付き合わせちゃって」
    「気にしてないよ。明日はオフだし、むしろ体力が余ってうずうずしてるくらい」
    「アハ、ディノらしいね」
     歩を緩めて箱を持ち直したフェイスの少し後ろを、フェイスより大きな箱を抱えたディノがそれでも身軽にスキップする勢いで歩いている。箱の中身は、フェイスが懇意にしているクラブオーナーが貸し出してくれた音響機材だった。大きなものは業者に任せたが、いくつかは精密機器も含まれるので直接運ぶための人手が欲しいのだと頼んだところ、ディノは快く引き受けてくれた。『ヒーロー』としての業務終了後、そしてディノの言う通り明日は休日なので、【HELIOS】の制服は身につけていない。一般的な服を着た、背丈のある男が爛々と目を輝かせて歩く様は、この界隈で言えば異常だった。目を引いても絡まれないというのは、見た目のおかげで人種性別問わずエンカウントの多いフェイスにとって非常にありがたいことだ。最初にディノをクラブへと誘ったときも、似たような理由があったことを懐かしく思う。
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    てゐと

    DONEフォロワーさんからもろに影響を受けたので夏のジュドニコを教師パロで書かせていただきました!
    以前保健室の冷蔵庫にニコが自分のものを入れているってフォロワーさんのツイート、本当に大好きですこ~し拝借させていただきました…すみません、お許しを。まあでもいいですよね、最高。

    ジュード→養護教諭
    ニコ→生徒

    余談ですがジュードせんせが言っている「担任のアイツ」はあの人のことです
    とけだす、泡沫「うわ、あつ……」
     誰が何と言おうとこんなにも暑いのに、空調の世話に慣れない中途半端な、夏になりかけの季節だ。校舎の窓という窓が開けられて、何が好きで我慢大会をさせられているのかと涼を求めて保健室の扉を開けたのに。ニコが風の流れを作ったので、消毒液の匂いが混じった生暖かい風が頬をさっと撫でる――いや、頬をじわりと撫でつける。
    「なんだ、ジュードはいないのか」
     廊下とは違い、締め切られた空間の暑さには本当にうんざりしてしまう。文句を言いながらもペタペタと上履きを鳴らすニコの額を、つうっと汗が流れていった。拭うこともしないまま、我が物顔でずかずかと進む先には冷蔵庫があって、ニコは迷うことなく上段に手を掛けて、まずは冷気を浴びた。それからアイシング用の冷却材や氷嚢用の氷の山を手のひらで掻き分けて探し出したのは、プラスチックの黄色いパッケージだ。ジュードはあまりいい顔をしないが特に止めもしないので、保健室の冷凍庫には定期的に氷菓を忍ばせることにしている。食べては入れて、食べては入れて。随分と奥に仕舞い込まれていたところを見るに、随分とそれもご無沙汰になってしまったようだ。
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