ハドアバ、エアスケブ視界を横切った白銀に、一瞬だけ心臓がざわめいた。その横顔に、刹那、いもしない幻影を重ねる。重ねて、そして、すぐに現実に引き戻される。
あぁ、お前はもういないのに。お前の残滓がこの世界には残っている。今際の際の彼に最も良く似た精神を宿した存在。そんなものが残されていては、私の未練は、悔恨は、消えるわけがないというのに。
けれど、私は知らない。彼が酷似していると言われるお前の姿を、私だけが殆ど知らない。あの子達が語る姿を又聞きすることしか、思い出す縁が存在しない。
私の知る魔王は、そんな男ではなかった。私が見えた魔軍司令は、そんな男ではなかった。……もういないお前に捕らわれる私は、さぞ、愚かなのだろう。